第42話
間もなく試合が始まる。ウォームアップの雰囲気から見るに、相手もオレ達と同じ様に「勝つ事に慣れていない者達」だろう。動きが少しぎこちなかった。
俺達はどうだ?
ぎこちない人も居た。だが全体的に見て練習時と同じ様な雰囲気でできていた気がする。今は良い意味で緊張しているだけだろう。
今日の俺達のフォーメーションは4-5-1という、
ちなみに一人だけのFWはタツヤくんだ。その後ろの二枚のオフェンシブハーフのうち右側は陸。俺は更にその後ろのディフェンシブハーフ三枚の真ん中を任されている。八月のブロック予選とは違うポジションだ。
ピィィィィッ。
試合が始まる。
センターマークにあるボールのすぐ先に、相手が二人いる。向かって左側がボールに触れるともう一人が後ろにボールを下げる。
受け取った敵がいきなりダイレクトでこちらに蹴った。
敵のサイドが上がって来ている——右側から攻める気だ。
先に敵がボールに追いつく。
しかしこちらの右ハーフが対応し行手を阻む。俺も右に少しだけ寄った。
陸も、寄っている。
味方のハーフは相手に詰め過ぎていない。適度な距離を保っている。だが相手がドリブルする度に距離が縮まる。
相手が逆サイドを見た。
——パスを出すか? それでも良いぜ?
逆サイドに居る敵にはこちらの味方が二枚ついている。左のオフェンシブハーフ、ケンゴくんが先ほど俺が居た位置に下がっている。もちろんその敵の行手はこちらのサイドハーフが阻んでいた。乗っけからポジションが変更されていた。今はディフェンシブハーフが四枚居る状況だ。
だがその分、敵の中盤がガラ空きになっている。敵がそこの中央ら辺にボールを下げた。タツヤくんが
敵が左にボールを流す。
ケンゴくんが詰めた。タツヤくんも詰める。
敵が左前にパスを出した。
それを、味方がカットする。
後ろに居たサイドハーフだ。
何故離れていたのにカットできたのか。
それこそが俺達の戦術である。
タツヤくんが詰めた敵の右には陸が居る。元々ディフェンスが得意な奴なので、右側に出す選択肢を削っていたはずだ。
敵は向かって左にパスするか、奥へボールを下げるしかない。
そして予測できたコースへ向かって味方が予め走っていた、それだけなのだ。
ちなみに後ろに下げられてから先程の様に大きくボールを上げられても、三枚残っているDFが対応すれば良いし、その場合でも俺も味方も後ろに下がる心構えはできている。元のシステムに戻るだけだ。
予測できた選択肢には全て、反応できる。
カットした味方が逆サイドに大きくボールを上げた。それも陸が予測している。
空いたスペースに落ちるボールを先に触ったのは陸だ。目の前には敵がいる。
そのままボールをキープする?
違う。三秒ルールだ。
陸は寄った俺にボールを下げた。
俺はダイレクトで更に左前のスペースへボールを放る。そこは敵DFの裏だ。
慌てて向かう敵のDFだが、タツヤくんも向かっている。相手よりも早く。
そして速い。
タツヤくんはボールコントロールが苦手だ。しかし、脚だけは速い。だから一番前のポジションに居る。その理由に本人はショックを受けていたが、適材適所、そういう事だ。
タツヤくんが先にボールを取る。
遅れて敵も追いつく。
少し大きく前へ出す。
タツヤくんは自分ですぐに追いつく。
敵のディフェンスは皆、下がっていた。
しかしオフェンスはこちらに残ったままだ。カウンターでも狙っているのだろう。
——悠長だ。
タツヤくんのすぐ後ろには、俺が居る。
ボールが俺に下がった。
陸も少し下がる。敵の裏を取る姿勢だ。
そこに俺はパスを——出さない。
この場合、三秒ルールは無視だ。
俺はドリブルする。
敵の中央目掛けて。
今はFWが三枚居る状態である。
左にタツヤくん。右に陸。
そして真ん中の俺。
敵の真ん中は迷っている。だからこそ俺に、寄せ切れていない。
俺はそのまま進む。
陸が内側に切り込む。
パスを出しても良い。
それでも陸と敵キーパーの一対一だ。
陸は決めてくれるだろう。
だが、ここでもパスは出さない。
既にシュートが届く位置である。
敵の真ん中も陸を意識していた。
——ガラ空きだぜ!?
俺はシュートを撃った。
カーブだとかドライブだとか、そんなモノではなく、シンプルな直線のシュート。
それを敵のゴールに放った。
キーパーが俺を見てはいたのだが、体が陸の方へ傾いている。悪い意味での先読みをしたのだろう。
俺のシュートに反応が遅れた。
それでも跳んで防ごうとする。
が——。
俺のシュートは正確に、ゴールの左隅を突いていた。
まだ試合開始から十分も経っていないだろう。
「うおっしゃらあぁぁぁあああッッ!!」
——どうだ見たかこの野郎!
俺は会場の何処かに居る、あのキザ野郎に向けて吠えていた。
見せつけるにしても上出来すぎる。
俺達は油断せず、そのまま一回戦を突破した————。
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