第20話
「ごめん、わたし、本当に飲めないの」
アズサは受け取ったグラスを置いた。
「……まぁ、飲みたくないなら仕方ねえよな」
色黒野郎が声のトーンを落として言う。
「アズ、ごめん。あたしらも調子乗ったわ」
謝る色白女も明らかにテンションが下がっていた。同意するように頷く女子アナみたいな女も目が笑っていない。
「ううん、飲めないわたしが悪いから」
——別に悪くはねぇだろ。
「じゃあよ? 代わりにタカシが飲むってのは?」
「いーねいーね! ハイ! いっきっきーのきー!」
「あ、アズサちゃんありがとう! 俺に譲ってくれて!」
金髪色白のタカシがそう言ってジョッキの中身を一気に飲み干した。
「飲み足りないがっ聞っこえないー? おい、生あと十杯追加ー!」
「一気に十杯は頼めないってー」
「はぁ? じゃあタカシが俺らの分までちょっぱやで飲めば良いっしょ!」
「良いね良いね!」
タカシがグラスを次々に飲み干し、他の奴らが次々とタブレット端末を叩く。
「せっかくタカシが頑張ってるのに遅っせえなぁ!?」
「酒うんめぇー!!」
「た、タカシくん……」
——なんか胸くそ悪いな? 飲み会って楽しそうなモンだと思ってたけど、こんな感じなのか?
何はともあれ、このアズサは助かった。それで良しとしよう。そして次からは、もっと慎重に答えよう。
しかし、まだ映像は終わらない。
場面が切り替わる。
外だ。細い路地で先程の男女達が騒いでいる。見える看板からして、居酒屋の入り口の前だろう。
「タカシー、飲み過ぎだって!」
「ら、らいろうる! 俺は酔っれれー!」
「ねー、タカシくんがコレじゃあ、もう無理じゃない?」
「そんな事ねーし、俺らはまだまだ行けるってー!」
「そーなの? あ、じゃあアズちゃんがタカシくん送ってってよ? シラフでしょ?」
女子アナみたいな女が提案した。
「う、うん」
「アズサちゃん悪いねー? じゃ、タカシをヨロシクー」
アズサとタカシを残して、他の奴らが去って行く。
——どういう事だ? もう危険は去ったはずだろ?
俺はてっきり今回の夢はアズサの急性アルコール中毒、だとか、そういう危険を予測していた。だが、騒がしい奴らが去った後でも夢がまだ続いている。
「タカシくん大丈夫? タクシーまで行ける?」
「だ、大丈夫。お、俺、酒は強いから」
タカシは相変わらず酔っ払っていた。しかし、先程見せたわざとらしい振る舞いは、演技だった様だ。今の方が幾分か、まともである。
「そうは見えないけど」
「……それよりさ。アズサちゃん、気にしなくて良いからね。俺がやりたくて、やった事だから」
「う、うん」
「だから、俺がキミの家まで送るよ」
「え? 大丈夫だよ。わたし酔ってないし」
「ダメだって! 夜道は危ないんだから!」
「いや、良いって」
「こっちに行こう! タクシー代安くしてくれる奴、知り合いだから!」
「だ、大丈夫だから。もしかして一人で帰れる? ならわたしも、もう行くね?」
「家どっちの方向? 送るって」
「だから、大丈夫……!」
「なんで? 俺はキミが心配だから」
「心配してくれなくて良いから!」
「なっ、酷いだろ!? 俺はキミの為にこんなになって——!」
タカシがアズサの肩を掴んだ。
「頼んでないから! やめて! 離して!」
アズサが振り払う。
「ちょ、待てって!」
タカシが尚も近づく。
「お願い! 帰って——!」
アズサが逃げようと更に、振り払おうとした。その時——。
アズサがバランスを崩し、後方へ傾く。
アズサが仰向けで路地のアスファルトに吸い込まれる。
やがて後頭部がガツっと音を鳴らして地面にぶつかった。
バウンドして、もう一度ぶつかる。
アズサは目を見開いたまま、動かなくなった。
「おいおい! 嘘だろ!? なんでだ!? 俺はただ……!」
アズサの頭から流れる液体がアスファルトを濡らし、ネオンを反射してきらきらしている。
俺の選択は、失敗、だった。
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