第4話 学校でギャルを部屋干してみた

「莉子は悟った。このままお母さんに何を言っても意味がない。だから、彼女は沈黙を貫いた。―――桜ヶ平くん、ここの莉子の気持ちを答えて……桜ヶ平くん! 大丈夫か!? 桜ヶ平くん」

「へ、平気……です……」


 ふふっ、まさかこの俺に沈黙の理由を聞いてくるとは、教師はほんとに勇敢な生き物である。


 そんなの疲れたからに決まっておろう。


 誰だって喋りたくない時がある。

 その理由は俺が誰よりも知っている。


 疲れたからだ。

 大事なことだから二度言った。


 にしても、まさか授業中に『沈黙』という言葉を聞くことになるとは。

 おかげで、手が震えてシャーペンを落としてしまった。


 こっちは昨日あのヤンデレ姫様に拘束されていたばかりだ。

 これ以上俺に精神的ダメージを与えないでくれ。


 ちなみに、拘束を解くために姫様の【反転の宝玉】を【空間操作】で太陽の中心部に飛ばした。

 異世界のバランスがそれで崩れても知ったことではない。


 悪いのはそれを持ち出した姫様だ。

 俺は被害者にすぎない。


 そう、正当防衛というやつだ。

 姫様もついでに向こうの世界に返した。


 せめてもの情けだ。

 本来ならブラックホールにぶち込んでやりたかったが、なにしでかすか分からないから辞めといた。


 やつはしぶとい。

 ゴキブリ並の生命力だ。


 はぁ、疲れた。


 まさかこの俺が体調を心配されるとは心外にもほどがある。

 便秘にでもなろうものなら、最低一週間は休む。


 これも異世界で勇者をやっていた頃の名残だ。

 なんせ、異世界は日本みたいに医学が発達していない。


 風邪でも引いてみろ。

 運が良ければ翌日にでも肺炎だ。


 そんなわけで、俺は夜しっかり布団を被っている。

 寝相が悪いから、縄で自分を縛った。


 仲間たちからは「さすがは勇者様だぁ! どんな時も自分を律しているなぁ!」とほざかれたから、やつらが寝ている時にあの世界の南極に飛ばしてやった。

 目が覚めると自動的にこっちに戻ってくるようにスキルを有効活用した。


 まさに完全犯罪。


 勇者パーティは勇者以外体調管理が良くないと噂になったが、『勇者以外』だから、まあ問題ない。

 ただ、やつらに風邪をうつされたことがあったから、速攻でやめた。


 40度の熱に俺は死にかけた。


 もうやらない。

 俺はそうやって大人になった。


「大丈夫? 桜ヶ平くん。パンツ見る? ―――ひッ!!」

「きゃッ!! 花ヶ前さんが宙に浮いてる!!」

「いや、吊るされてるぞ!! まるでイエス・キリストみたいだ!!」

「そんなこと言ってないで、早く降ろしてあげてッ!!」

「ダメだッ!! 取れない!!」

 

 ダメなのはこっちだ!!

 なんで体調悪いやつにパンツ見せようとしてんだよッ!?


 頭沸いてんのか!?

 あん!?


 おっと、いけない。

 つい花ヶ前さんに感情を揺さぶられてしまった。


 にしても、日本はいい。

 最高だ。


 イエス・キリストのネタが通じてまじで嬉しい。

 もはやドラ〇もん劇場版より感動した。


 これだ。

 これがいいんだ。


 冒険より日常だ。

 俺はこんな日常を渇望していたんだ。


「あっ、取れた」


 そろそろ花ヶ前さんも懲りただろうから、解放してやった。

 だが、俺はこの行動をすぐに後悔した。


「ははっ、桜ヶ平くんってSエ―――ひッ!!」

「あっ、花ヶ前さんまた宙に浮いた!!」

「いや、これって吊るされてるって!!」

「男子そんなこと言ってないで、早く助けてあげてよ!!」

「くッ!! 取れないッ!!」


 SMだぁ!?

 誰が日常で戦いを求めてるんだよ!?

 

 自分から戦火に飛び込むような真似を俺がすると本気で思っているのか!?

 こっちは戦火に焼かれた建物を星の数ほど見てきたわ!!


 もはや、俺の場合、九九は一建物一火一廃墟みたいになってんだぞ!!

 そんな人間がSMやるわけないだろう!!


 おっと、俺としたことが、取り乱してしまったね。

 これは良くない、体力の無駄遣いだ。


 こんなこともあろうかと、弁当は二つも持ってきた。

 お母さんに「最近大食いになったね」って言われたけど、俺は『沈黙』の呪いと戦っているから当然なことだ。


 むしろ、最近3キロ痩せたまである。

 体調を崩さないためにも早弁は必要だ。


「桜ヶ平くん!! 食べてないで早く降ろしてよッ!!」

「桜ヶ平くんがこっそり早弁してる!!」

「こんな食いしん坊キャラだっけ!?」


 食いしん坊?

 お前らは三日三晩ご飯食べなかった時の飢餓感を知っているのか?


 携帯食が尽きた時に次の街まであと100キロ歩かなければならない絶望をお前らは知らない。


 食べ残しなんて生産できない。

 そんなことするやつを俺が許さない。


 おっと、ジュース。


「ごくごく」


 かぁー、生き返る。

 

 やはり日本は最高だ。

 糖も炭酸も入っていない水しかないあの世界にいるのは残酷だ。


 糖も炭酸も依存性があると気づかされた。

 水を五杯飲んだのに口の乾きが取れない時は二酸化炭素を【空間操作】でぶち込んでやろうかと思った。


 ただ、炭酸水はあまり好きじゃないの思い出してやめた。


 俺は誓った。

 将来は清涼飲料水の会社に就職して、かならずコーラのレシピをマスターしてやろうと。


「あっ、取れた」


 そろそろ授業も終わるから、花ヶ前さんを降ろした。

 だが、俺は再び後悔した。


「ねぇ、桜ヶ平くん、濡れたパンツ見る?♡」


 どうやら美少女を学校で部屋干ししたら、濡れたパンツを見せたくなるらしい。

 そんなものは見たくない。


 なぜなら、俺は疲れたのだ……。


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お待たせしました!!

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美少女たちを【部屋干し】したらどうなる? 〜異世界帰りで疲れた俺は迫ってくる美少女たちを全力で拒絶する〜 エリザベス @asiria

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