最終話

 賞の発表がされた日、つむぎは上機嫌だった。

 元々は悠太郎に自分の気持ちを知ってもらうことが目的であり、賞は二の次だった。だが、一生懸命考え書いたものが、受賞となるとやはり嬉しい。

「良かったね、つむぎ」

「うん!」

 図書室前の廊下、真央にお祝いの言葉を贈られたつむぎはニコニコと笑う。そんなつむぎの頬を、真央は軽くつねった。

「いい? 本番はこれからだよ。重要なのは悠太郎が、気持ちに気づいたか、だよ」

 つむぎが書いた小説は自分の体験をそのまま文字にしたもの。ちょっと攻め過ぎかなと思ったものの、真央からはもっと直球で書いたほうがいいと言われ、そうしたのだ。

「っと、噂をすれば」

 真央の視線の先、悠太郎がまっすぐつむぎの方に向かってきた。彼はつむぎの前で止まる。

「つむぎちゃん、受賞おめでとう」

「あ、ありがとう……」

「あの小説、良かったよ。特に女子には。すごくドキドキしたって」

「うん……」

「それでね、渡したいものがあって」

「え、うん……」

 渡したいものって、もしかしてラブレター? 気持ちに気づいてくれたのかな!

 期待するつむぎに、悠太郎は一枚の紙を渡す。

 や、やっぱり!

 胸の鼓動を必死に抑えながら、つむぎは内容を確認。そして、胸の高鳴りにはすぐに落ち着いた。

 それは単なる賞だった。つむぎと小説の名前、そして図書委員特別賞と書かれた文章のみ。

「これ賞状。お金がなくてチープなものだけど許して。それでね、今回の賞なんだけど結構好評でね。近いうちにもう一度やることになった。応募待ってるから」

 そう言い残し、悠太郎は自分の教室に戻って行った。

 その後ろ姿を見てつむぎは呆然。真央も「あの鈍感……」と額を抑えていた。

 つむぎの渾身の想いに、残念ながら悠太郎は気がつかなかったのだ。

 少しの間つむぎは俯いていたが、何かを決心したように顔を上げる。

「私、次も応募する。次こそは気持ちに気づいてもらう!」

「いや、もっとわかりやすい方法……あ、うん。がんばれ、応援してるから」

「うん、がんばる!」

 つむぎはそう強く強く決心するのだった。

 自分の淡い気持ちに気づいてもらうため。

 好きな人と結ばれるために。

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つむぎの紡ぐ 河野守 @watatama

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