18話 魔剣の価値


「あなたが私の神しゃまですか?」


 曇りなきまなこでぼくを見つめるケモ耳ロリ天使さん。

 その瞳にはわずかに崇拝の色が見て取れたので、ぼくは慌ててかぶりを振る。


「やっ……そういうんじゃなくて……」


 神様とはむしろ正反対の魔王だったり?

 そんなぼくの内心など知らない彼女は、祈りを捧げるように両手を組んだ。

 

「私の神しゃま、奇跡で人を生き返らせるでしゅ」


「いやっあれは……とにかく秘密にしてね?」


「奇跡には、静かな沈黙をつらぬく、信仰心でしゅ」


 純朴な眼差しを一心に向けて来るケモ耳ロリ天使さん。

 ぼくは彼女が一体何者なのか気になって、Lvや身分を知るために凝視する。



———————————

ルル・エル

身分:獣神の天族/教会の妖精


Lv1 

命値いのち:3 信仰MP:10 力:1 色力いりょく:10

防御:2 敏捷:2

———————————



 んん……。

 ステータスやレベル? は見えたけど、彼女の正体に関する情報は見えない。

 魔物ではない?

 というかLv1にしては信仰MP色力いりょくが異常に高いな。

 金剛さんから聞いた話だと、冒険者の初期ステータスはだいたいオール2か1らしい。特に信仰MP色力いりょくはほとんどの人間が1だそうだ。

 それに身分が二つもある?

 しかもゲーム時代でも見たことない身分だ……。



「えっと、ぼくは真央まおって言うんだ。河合真央かわいまお。キミはルルでいいのかな?」

「はい、ルルでしゅ。マオ様」


「おーけー。ルル。お母さんとかお父さんはいたりする?」

「いないでしゅ。ルルはずっと教会にいたでしゅ」


「教会……それは黄金教のことかな?」

「わからないでしゅ」


 こんな幼い子を放っておいたら、また成宮さんみたいな人に乱暴をされてしまうかもしれない。できればこの子がいた教会まで連れ帰ってあげたいところだけど……。

 教会、教会かあ……今のぼくの身分では非常に入り辛い場所なんだよなあ……。


 ぼくがルルをどうすべきか悩んでいると、唐突にブシュッと何かが引きちぎれる音が響く。


「神さまマオさま、供物くもつを捧げるでしゅ」

「ん、なんて……?」


 音の方へ目を向けると、そこには信じられない光景が目に入る。

 ルルが自分の翼をちぎり取っていたのだ。


「うぇっ!? ちょっ、なにやってるの!?」

「私も救済してくれたお礼でしゅ」



:【幼き天使の片翼】を獲得:



「あっ……あー……はい。ありがたく、いただきます」


 ちぎってしまったものはもう仕方ない。

 いや、全然仕方ないの一言で片づけていいことではないけど……受け取る他なかった。

 なんだかルルは危なかっしい子だと思う……。

 簡単に悪い人について行っちゃったり、騙されてボロボロになっちゃったり、なんだかいい未来が想像できない。


「神さまマオさま。導いてくだしゃいませ」


 あっ……ですよねー……そういう流れですよねー。

 あーうん。

 ここで純朴すぎるルルを見放すのは、ぼくの夢見が悪いし、うん。

 一緒に教会探しの旅でもしようか?


「じゃあルル。まずは【剣闘士オールドナイン】の教会に連れていくね?」

「はいでしゅ」



 こうして僕とルルは、黄金の女神リンネが信仰される教会へと向かった。





「ただいま戻りましたでしゅ」

「あっ……うん」


 ぽーっとしたルルがぼくの目の前にいる。

 さっき僕はルルが1人で教会に入るのを影から見送り、そして数分も経たずに彼女は戻ってきた。


「ルルのいた教会だった?」

「ちがったでしゅ。神父さん、私のこと知らなかったでしゅ」


「なるほど……【剣闘市オールドナイン】にある教会はあそこだけだしなあ……うーん、ルルがいた教会の特徴とか覚えてない?」

「祈る者がたくさん来てたでしゅ」


 それは教会ぜんぶなんだよなあ。

 少しルルと喋ってみてわかったことだけど、彼女は記憶喪失らしい。

 ルルのそんな状況を知ればますます放ってはおけない。

 かといって解決策も見当たらない。

 これはいよいよ本格的に、ルルが帰れる場所を探す旅に出なくてはいけないのかもしれない。

 でもまあ、ぼくが異世界パンドラに来る目的なんて、お金稼ぎぐらいしかなかったわけだし……せっかくなら冒険の目的ってやつがあってもいいかもしれない。


「よし! ルル! キミがいた教会を探す旅に出よう!」

「神さまマオさまがおっしゃるなら喜んで」


 ぽーっとしながらもコクリと頷いてくれたルル。

 それから目の前をヒラヒラと横切ったちょうを見ると、フラフラと蝶を追って遊び出していた。


「……きれい、でしゅ」


 うん、なんだろう。

 飴とかちらつかせたら、すぐについていっちゃいそうな危うさがある。

 なんとなく……この子を教会に送り届けるまでは、ぼくが守らないといけないような気がしてきた。


「よし。旅に出るならまずは資金を集めて……それから武器の準備も必須かな!」


 こうして僕が旅の準備を進めるにあたって足を運んだのは、おなじみ【金海が眠る扉】だ。


「おや、マオさんと……そちらは……?」


 笑顔で出迎えてくれたゴチデスさんだけど、ルルを見れば訝しんだ。

 それから少しばかり僕を咎めるような目つきになる。

 それも仕方のないことで、ルルはかなりズタボロな恰好をしている。まるで孤児同然の身なりで、しかもかなり幼い。

 ぼくは手短にゴチデスさんに事情を説明すれば、彼は納得したようで納得してない雰囲気だった。


「幼いマオさんが……さらに幼い児童を連れて旅をする……? 危険なのでは……?」


「心配してくれてありがとうございます。でも、ぼくもルルもきっと大丈夫です。そのための準備としてこちらに来ました」


「さ、左様ですか……」


「ルルの装備を整えたいっていうのもありますが、まずは旅の路銀を集めたいなと思っていまして」


 それからぼくは【宝物殿の支配者アイテムボックス】から【月光呪の剣 ★★☆】を取り出してゴチデスさんに見せる。

 これを売って旅の軍資金を稼ぐって算段だ。


「これをゴチデスさんに売りたいなって」


【月光呪の剣 ★★☆】なら後でいくらでも作れるから、とりあえず売っちゃおう。


「こ、これは……見たことのない、魔剣ですな……?」


「魔剣ですか?」


「はい。純粋な殺傷能力の他に特殊な力が宿る剣を魔剣と呼ぶのですが、私の見立てでは魔剣の類かと……失礼、お品物を詳しく拝見させていただきます。【分析眼アナライズ】!」


 ゴチデスさんの両目が妖しく光れば、彼の表情はさらに迫力のあるものに変貌してゆく。


「こっこれは……!? 装備条件がこれほど低いのに、ステータス補正が力+6!? しかも色力いりょく+2!? き、奇跡の一振りですかな!?」


 僕が鍛えた魔剣について、ゴチデスさんはすごく興奮気味に語ってくれた。

 

「あ、ありえない……! ステータス補正が現存する片手剣の中で最強でありながら……天候が月夜のみと限定的ではございますが、切りつけた相手の攻撃力を減少させる……? しかも重複するだと……!? す、すばらしい業物ですよ、これは! んっ!? めいがMao Kawai……!? これをマオさんが打ったというのですか!? 鍛冶技術パッシブをご習得なさったばかりの貴女あなたが!?」


 物凄い早口でほめそやされる。

 うん、褒め褒め祭りですね。

 そこまで言われたら嬉しいし、こそばゆいというかなんというか。


「マオさん……貴女という人は……本当になんという革命を起こしてくれたのでしょう……ええ、私は貴女様というお客様とこうしてご縁を結ばせていただき幸運なのでしょうね」


「そんなに褒めたって、もう何も出ませんよ?」


「お世辞ではございません。この魔剣はまさに……全冒険者の常識を覆しかねない代物ですよ! 生産人クラフティンが最強の武器を作れる! これはまさに奇跡の発見です!」


「そんな大げさな……」


「と、とにかく、この魔剣は1000万円で買い取らせていただこうかと。いかがでしょうか?」


 えっ、これ一本で1000万!?


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