13話 鉄物語と魔王配信


「さて、『精錬せいれん』を始めますか」


 ぼくは【剣闘市の炉】に近づき、集めた鉱石を一つ取り出す。


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【月光呪の白石】×18

『月樹神アルテミスの呪いと、不死者の骨が混じりあった石』

『レア度:A』

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 レア度:Aがどれぐらいの価値があるかは不明だけど、悪い素材ではないのかな。それでいて大量に手に入ったのは嬉しい。

 まずは実験感覚で【剣闘市の炉】へ【月光呪の白石】の1つを入れようとする。

しかしその動きを中断する。


「もし……失敗したらもったいない……」


 そこでぼくは頭をひねる。

 うーん、うーん、うーん……知らないことはすぐに調べるか、人に聞け! って同期の安藤がよく言ってたっけ。

 検索サイトやAIアプリで異世界パンドラ関連を調べてみたけど、なかなか有用な情報は出て来なかった。やっぱりまだまだ未知の分野だからかな?



「そうなると人に聞く、人に聞く……うーん……あっ!」


 そこでぼくは気付いた。

 記録魔法による配信で、視聴者さんの意見や考えを聞くって手段があった!

 多分、見に来てくれる視聴者さんなんて少ないだろうけど、僕一人の知識よりはマシなはず。

 えーっと、コメントの脳内リンク設定は……よしよし、うまくいったぞ。


 じゃあさっそくやってみよー。


「記録魔法————ぼくの瞳に思い出を————」



:うお! 魔王ちゃんの配信が始まったぞ!

:うおおおおおおおおおおおおおおおお!

:ここはどこだ!?

:ん? なんか鍛冶場っぽい?

:こんなところ【剣闘市オールドナイン】にあったか?

:おい! 冒険者リスナー! 特定よろ!


 わ……。

 思った以上にたくさんの人が見に来てくれた……?



:いや……俺たちは自分の未熟さを思い知ったからな……

:しばらく修行に明け暮れるわ

:魔王ちゃんが無事でよかったよ

:多分……【屍姫しきネクロマリア】の強襲にあった時、俺たちを復活してくれたのは魔王ちゃんだろ?

:不甲斐ない……

:あの時は助かりました! 本当に!


:なになにどうしたよ冒険者組ww

:修行に明け暮れるとか言ってしっかり配信見に来てるじゃんよw

:そんなことより魔王ちゃんの服装が変わってる!?

:なにやら断片的にしか見えないがフリフリの予感


「あっ、えーっと、みなさんこんにちは」


:うおおおおおおおおおおおおおお!?

:魔王ちゃんが俺等に向かってしゃべった!?

:まじかあああああああああああああああ

:ついにコメントに目を通すようになったのかあああ

:えらいぞ魔王ちゃん

:かわいいぞ魔王たん


「あ、はあ……あの、これから鍛冶をしようかなって、思います」


:鍛冶?

:やっぱ武器でも作るん?

:え、魔王ちゃんのそんなふにふに細腕で鉄とか打てるの?



「えっと……はじめてのことばっかりでわからなくて。『精錬』? をします」


:うん、かわいい

:その手に持ってる白い石をどうにかしたいん?

:まずは不純物を取り除くのをお勧めする。その石を熱して溶かせばいいのでは?

異世界パンドラ鉱物? 見た事ないな

:なら適した時間、適した温度を模索してくしかないのかー?

:鉄とか、既存の金属ならわかるんだけどね


:溶かしたらそこにある鋳型いがたに流し込んでみよーぜ

:まずはインゴット作りってやつか

:おいおい危険じゃないか?

:めっちゃ熱いぞ。気を付けてな

:てか薄着すぎんか?

:ばか! 余計なことを言うなあああああ

:いやでもさすがに危ない


 あ、たしかにすぐそばにトングもあるし、鉄釜や長四角の鋳型もある。

 どうやらこれらの工具を使って精錬しろということらしい。

 僕はトングで鉄釜を掴み、そっと炉の中へ【月光呪の白石】を入れる。


「温度は4度から200度に設定できるのか……じゃあ、まずは100度にしよう」


 これは……単純そうに見えて意外に奥が深いのでは?

 鉄釜の中がゆっくりと赤熱色に染まり、溶けてゆく【月光呪の白石】を眺めながらそんな風に思う。



:どれぐらいの時間、100度のままにするべきか

:そこから温度を上げるのか、下げるのか……

:そもそも【炉】の種類によっては設定できる温度の限界が1000度とかもあるらしい


:おまえら真剣に鍛冶作業見てるのすごいな

:いや? ほとんどぷるんぷるんに目が行ってる

:だよなwww

:魔王ちゃんの視覚が常に下向きだからwwww

:でかすぎるぷるるんがどうしても視界に入るww

:最高かよ

:ってか、巨乳って本当に足元が見えないんだな

:ぶっちゃけ手元も見えん。立派すぎるたわわによって、遮られてるw

:鍛冶やり辛そう



 なるほど。

 どんな炉を使うかでインゴットの出来栄えが変わる要素もあるのか。


「むーん……ここだ!」


 なんて威勢よく鉄釜を炉から出し、鋳型に【月光呪の白石】だった液体を流してゆく。赤く光る液体は鋳型に入れば、しばらくジュワワワワッと音と煙を発生させ続けインゴットへと変化した。



:【月光呪の白石】インゴット★☆☆ができあがりました:


「ん、む……? 星1……? これはもしかしてあまり出来が良くない!?」


 僕はそんな調子で何度も試行錯誤を繰り返し、インゴットを生成していく。

 もちろん時折、視聴者さんの意見に目を通すのも忘れない。


「開始10秒は50度の弱火、そこから徐々に150度まであげりゅッッ……」


 じわじわと溶けた【月光呪の白石】が赤から白光を放つにいたる、その瞬間!


「今、ホアチャッ! 一気に100度へ下げッッ、そして最後の20秒は100度を保つ!」


 じわりじわりと額に汗がにじみ、僕は『精錬』にドハマりしていた。

 金属が熱に溶けて煌めき、輝きながら姿形を変える様は圧倒的に美しかった。そしてそんな金属の運命を決めるのは己の腕次第。

 そうともなれば、より美しく、より素晴らしく、より硬い棒を生み出したいと願うのは業腹だろうか?

 

「いや! この白い棒を、僕は完璧な形で創り出すんだ!」


:【月光呪の白石】インゴット★★☆ができあがりました:


 研究に研究を重ね、最後の一つになっても最高の出来栄えには一歩届かなかった。

 おそらく【炉】の限界温度に原因があるかもしれない。


「まあ今回は仕方ないか」



:魔王ちゃんがすごく硬そうな棒をつくった

:棒を握る日がくるのか

:いや、棒を鍛える日が……

:俺の棒も鍛えてくれないかな?

:キモいコメントやめろwww



「あとはたった一つしか採取できなかった【白石はくしゃくの伯爵】だけど……レア度がS」


 明らかに貴重な素材だと思う。

 だから僕はこの【白石はくしゃくの伯爵】をもっと温度の幅が大きい炉を見つけてから精錬しようと決める。

 さて、インゴットを作れたら、お次はいよいよ武具生成だ。

 僕は金貨を消費して記憶を増加させ、鍛冶技術パッシブへとポイントを振る。


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金貨1200枚 → 1170枚

記憶2 → 3

〈鍛冶〉Lv1 → Lv2

鍛造たんぞう】を習得


[鍛造たんぞう……金属を叩き、鍛え、武器や防具へと仕上げる。素材に触れると、その素材で作れる武器・防具のレシピが開放される]

[必要工具:タイプ炉&タイプハンマー]

———————————


 むーん。

 炉とは別にハンマーが必要なのか。


「えーっとみなさん。今日のところは買い物をするので、配信はこの辺で……」



:え! もう終わり!?

:まじかー

:次はいつ配信するの?

:一緒に買い物つきあうよ?

異世界パンドラいきてええええ


「配信は……無言の時もありますが、また近いうちにします。ありがとうございました」


 ぼくはぷちっと配信を切り終える。

それから一通り、【剣闘市オールドナイン】の道具屋を巡ってゆくけど、どれもパッとしないハンマーばかりが置いてあった。というか種類も2種しかなく、同じよう名称のハンマーだけしかない。

 初期都市なだけあって、レアな工具は扱ってないようだ。

 だからこそ、僕が最後に行きつく店は決まっていた。



「こんにちは、ゴチデスさん」


「おやおや先ほどぶりですねえ。ようこそ【金海が眠る扉】へ」


「鍛冶技術パッシブに適した良いハンマーは置いてませんか?」


 今のところ掘り出し物を探すなら【金海が眠る扉】が一番だ。


 

「おやおや、もう『鍛造』をご習得なられたので? お早いですなあ、さすがはコンゴウさんの御友人ですな」


「ゴチデスさんは鍛冶技術パッシブの習得内容を網羅してるのですか?」


「自分が商う物ですから、これぐらいの知識はございます。ただ、まだまだ異世界パンドラは未知が限りなく広がっておりますので、詳しくは存じません。さて、ハンマーでございましたね? ただいま、当店で取り扱っているお品物ですと……」


 そういって見せてくれたのは3つのハンマーだった。


—————————

【銅のハンマー】 1万円

〈タイプ:ハンマー〉〈レア度:I〉

〈必要ステータス:力2 HP3〉

〈ステータス補正:力+1〉

〈共鳴率0.2%〉〈鍛錬力1〉


【鉄のハンマー】2万円

〈タイプ:ハンマー〉〈レア度:I〉

〈必要ステータス:力2 HP4〉

〈ステータス補正:力+1〉

〈共鳴率0.5%〉〈鍛錬力2〉


【巨人の戦槌せんつい(銅)】28万円

〈タイプ:ハンマー&戦槌〉〈レア度:F〉

〈必要ステータス:力17 HP25〉

〈ステータス補正:力+9〉

〈共鳴2%〉〈鍛錬力5〉

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 ふむふむ。

 工具といえど武器扱いにもなるのか。

 そして銅のハンマーと鉄のハンマーは他店でも見かけた物だ。だけどこのお店で買った方が2000円ぐらい安い。

 この中では断然、【巨人の戦鎚】が欲しい。少しお高いけど、ここはなるべく良い物を手に入れておきたい。


 ただ、どれほどの性能差があるのかも知りたいから、一応は【鉄のハンマー】も買っておこう。何せ今の僕のLvではステータス力が16もあるなんて不自然すぎるもんな。

 Lvや記憶が上がった時用に買う、と言えば怪しまれないかな?


「ふむふむ。それじゃあ【鉄のハンマー】をください。それと【巨人の戦鎚】も」


「かしこまりました。【鉄のハンマー】と巨人の————【巨人の戦鎚】!?」


 ゴチデスさんは復唱を止めてなぜか驚愕の眼差しを向けてくる。



「えっと、ステータスが上がった時用に欲しくて……?」


「い、いえ……失礼しました。し、しかし、必要ステータスが力17とHPが25なんて……途方もない数値ですよ? それこそ最前線で戦う冒険者ですら、ようやく二桁に到達したばかりですし……」


「その辺はコツコツと……?」


「コツコツ、ですか……その、とても冒険者を始めたばかりで、さらっと30万円の大金を支払える人の言葉だなんて思えませんよ?」

 

 あらら。

 ステータスにばかり気を取られてしまい、お金について失念していた。


「本当に貴女様という人は……アイテムボックス持ちと知ったときも多少は驚きましたが、間違いなく太客であり良客でしょうとも……ええ、ええ、私の想像をはるかに上回っておりますとも。どうか今後ともよしなに、ゴチです」


 感嘆の吐息を落としつつ、ゴチデスさんは頭を下げたのだった。

 

 ん?

宝物殿の支配者アイテムボックス】って貴重な技術パッシブなの?



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