8話 魔王ちゃんの治安維持
◆掲示板◆
【
:TS魔王ちゃんねる、やばいよな
:毎回人が死んでる
:人が死ぬ瞬間はたまらないよなあ
:あの恐怖に染まり切った表情がたまらん
:こんな変態も沸いてるが、注目すべき点は死者蘇生だ
:は? 死者蘇生?
:ゲームのしすぎじゃね?
:それがマジでやってんのよ蘇生魔法
:正直、死者蘇生はやばい
:冒険者の常識を覆すとかのレベルじゃない
:世界の常識をぶち壊してゆくw
:しかも無償で蘇生してゆく心の広さよ
:聖女だよな聖女
:
:数億円は払ってもいいレベルの善行だろ
:まあ【異世界アップデート】なんて現象が起きたんだから蘇生ぐらい……あり、えるのか?
:魔王ちゃんってけっこう意味不明な配信するよな
:つーかコメント返し全然しないやん
:いや、あれはコメント見てない説
:それか見れてない説
:配信初心者っぽい挙動してるもんなw
:そこがツボというか可愛いというか
:不明と言えば、未だに魔王ちゃんの顔って不明だよな
:まあ十中八九かわいいだろうな
:いやいやかなりのブスかもだぜ?
:まあ少女なのは変わりないだろう
:あの巨乳で少女かあ……
:どこに行けば会えるのか
:今なら【剣闘市オールドナイン】周辺じゃないか?
:特徴は銀髪に巨乳か
:そういえば相方のコンゴウお姉さんなら特定したぞ
:なに!?
:くわしく!
:【神殿】って組織のトップ層らしいぞ
:【神殿】って……あの【神殿】か?
:ああ。黄金領域を積極的に解放してる組織だな
:その中でも一際強いって連中が【
:コンゴウお姉さんは【
:ナンバー2かよ!
:そんな大物とどうして魔王ちゃんが……?
:めちゃくちゃ気になるな!
:とにかく異世界に行ける奴は【剣闘市オールドナイン】にGO!
◇
【剣闘市オールドナイン】にはすっかり夜の
しかし、
興奮しながら殺し合いを観戦する者、酒を浴びて泥酔する者、はたまた弱者を明かりの届かない物陰に引きずり、痛ぶる者までいる。
「わー……ひどいなあ……」
ぼくは新しく習得したスキル【侵略の
このスキルはまず、魔法の地図を具現化できる。
そして人間がどの位置にいるのか確認できて、対象をタップすれば何をしているのか覗き見だってできちゃう代物だ。
ぼくが見ているのは、ちょうど一人の男が四人の男たちに路地裏へと引きずられているところだ。
すでに殴る蹴るの暴行も加えられているらしく、リンチされている男の反応は薄い。
「放置してたら死んじゃうかも。これは稼ぎ時かな?」
ついでにぼくは記録魔法を発動して、証拠動画の配信も怠らない。
あとで冒険者ギルドから何か言われるリスクを下げるためだ。
それにもう一つの目的は————
:魔王ちゃんの配信が始まったぞ!?
:ここは……【剣闘市オールドナイン】だよな?
:けっこうな暗がりを歩いてるけど大丈夫なん?
:魔王ちゃん……いい子はもうお家に帰る時間やで
:ん? なんか変な音が聞こえないか?
:おいおいおい、治安の悪そうな声も聞こえるぞ!?
:魔王ちゃんが立ち止まった……
:ん、あれって……誰かが殴られてる?
:ひっでえ……完全にリンチじゃん
:魔王ちゃん……巻き込まれる前に早く逃げて!
:おいおいおい逆に近づいてるぞ!?
:度胸が半端ないんよw
:どうして魔王ちゃんはあいつらに見つからないんだ?
:隠密スキルが高いのか?
「おいこら! てめえのせいで俺たちは大損だぞ!」
「死ね! てめえなんざ死んじまえ!」
「おまえは負ける役だったろうが! 何しれっと勝ってんだよ!」
「こんな簡単な
「がっ……だっで……話どぢがっでッ……アイヅ、本気でッ、俺のごとを殺そうとしでだッ……ごふっ」
:うわ……
:大方、ボコってる方が『負け』に大金を賭けてたんだろうな
:んでボコられてる方は、試合でわざと負ける代わりに報酬をもらうって話をつけたんだろう
:でも実はボコってる奴らは対戦相手に殺せって言ってたんだろうな
:そうすれば報酬は分けなくていいし、八百長したって証拠も残らないってわけか
:んで試合で殺されかかって必死に抵抗したら勝っちゃったと
:負けに賭けてたこいつらはご立腹か
:ボコられてる奴、どのみち悲惨すぎる
:闇が深いな……
ぼくがどうしてわざわざ彼らを配信したかというと、巡り巡ってぼくのためになるからだ。
これはきっとぼくの知らないところで日夜起きている事件なのかもしれない。もしそうなら、ぼくが蘇生できないし金貨も回収できない!
しかも闘技場で死人が出ちゃうと……成長せずに死んじゃう冒険者もいるってことで……どうせなら
こうして治安維持に貢献する……というより治安が悪いと冒険者の育ちも悪くなるし……ぼくが回収できる金貨量も減っちゃうからね、うん。
「うっせえぞ! おらあ、死ねや!」
「くそがよ! てめえのせいで今月の稼ぎが減っちまった!」
「1万円の損失につき一発殴るでゆるしてやるよ」
「そうなると俺ら四人で100発以上じゃね? ぎゃははははっ」
「ごふっげはっ……やめ、やめで……ぐれっ……」
彼らが男を殴る手は止まらない。
しかし、いくら殴るのに夢中だからといって、ぼくが真後ろにいても気付かないのはスキル【神々を欺く者】のおかげだ。
今、僕は影の一部として溶け込んでいる。
しっかり凝視すればぼくがいると判別できるだろうけど、彼らは男を痛ぶることに集中している。
うああ……さすがにひどすぎるよ……。
もうやるしかないかなあ……。
:魔王ちゃん……よく無言でいられるな……
:こんな場面に出くわしたら悲鳴をあげちゃうレベルじゃないか?
:いや、怖すぎて突っ立ってることしかできいのかも
:物音とか立てたらマジで襲われそうな連中だもんな
:緊張感が半端ない……
:これは足もすくんで動けないわ
:てかあいつらやりすぎじゃね?
:マジで死ぬんじゃ……?
さて、【侵略の版図】は人間の位置を把握できるなら、もちろんモンスターの位置も確認できる。
彼らのすぐ横の壁にはトラップ系のモンスターが潜んでいるのだ。
ぼくはそのモンスターを無言でけしかけてみる。
『襲え』と。
途端に壁はゴゴゴッと動き始め、巨腕を
「あっ? なんだ?」
「邪魔すんなよ、今いいとこ————」
「うっせえな! どこのどいつガハッ」
「ふざけんッぎゃっ、ぐぎっ!?」
【
:お、おいおい……
:【剣闘市オールドナイン】にはあんな化物が潜んでたのか!?
:黄金領域って安全じゃないのかよ……
:そういや度々、冒険者が消えるって話があったけどまさかアイツの仕業じゃ
:魔王ちゃんマジで逃げろ!
:まじで!
:ん? こっちに気付かずに壁の中に戻っていった?
:いやいやでもそこは危険だろ?
:まだ潜んでる可能性あるぞ!?
:おい、まさか、おい! 行くなって! 魔王ちゃん、そっち行くなって!
:まさか魔王ちゃんは……危険を
:け、献身的すぎるだろ……
:あんなクズ共にも手を差し伸べるのか!?
:まじだ……まじもんの聖女やん
:魔王ちゃんってさ、失われてはいけない人間国宝じゃね!?
:おまえら全力で【剣闘市オールドナイン】にいけええええ!
:魔王ちゃんを死守しろおおおおお!
ぼくは死んでしまった5人に【
するとただの血だまりだった者たちは、生前の姿で息を吹き返す。
同時にぼくの
「あっがッ!? 俺たちは一体……?」
「突然、でけえゴーレムに襲われて……激痛が……」
「思い出したくもねえ……あんな痛み……」
「もしかして、あ、あんたが、俺たちを救ってくれたのか……?」
「俺の傷も全部……治ってる……?」
動揺と混乱、そして恐怖の記憶が彼らを支配しているようだ。
こういう時にこそ言葉っていうのは深く刺さると思う。
だからぼくは万感を込めて彼らに伝える。
「こういうのは危ないので……やめましょう?」
彼らは『何を』とは口に出さなかったけれど、きっと殴られる痛みや不意打ちで騙される恐怖はとことん味わったと思う。だからこそ、むせび泣きながら何度も何度も頷いてるのだろう。
彼らはぼくにたくさんのお礼を言って、それから周囲の壁へビクビクと目を向けながら、そそくさとその場を後にした。
うん。
一件落着かな?
:や、おい……そろそろ魔王ちゃんが何者か教えてくれないか?
:絶対コメントに気付いてないぞこれ
:うわー切るなよ? 切るなよ?
:もうすぐリスナーの誰かがそっちに到着するはずだから!
:頼むからなんかしゃべってく——————
ぼくは証拠動画の配信をぷちっと終わらせた。
めでたし、めでたし。
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