カキヨミ・オンリー

そうざ

Sakiyomi - Only

 僕が『カキヨミ』という小説投稿サイトの存在を知り、これで僕も有名作家の仲間入りと企んでから約半年、蓋を開けてみれば団栗の背比べ、目糞鼻糞入りである。

 忘れた頃に舞い込む僅かな高評価レビューを糧に何とか継続してはいるものの、『我が世の春』と『世も末』とが目紛るしく繰り返されて『我が世の春も末』の日々。

「しょうにんじゃ~っ、もっとしょうにんをくれ~っ!」

 今日も『妖怪しょうにん坊』が暴れている。


 そんな或る日、聞き捨てならない真実を耳にしてしまった。

 それは、三文さんもん歌謡曲よろしく、最後まで騙して欲しかった、と言いたくなる衝撃の事実だった。


『カキヨミ投稿作は9割以上AIで作られたものだよ~ん♪』


 勿論、投稿者は頬被りをして『アイディアが溢れに溢れて夜も八時間くらいしか寝られん』『皆さん、私をパクッても良いですよ』『ゴメンナサイ、文才の塊でしかなくて』という顔で次々に評価を受けているのだ。


 許せない。

 由々しき事態だ。

 主体性も罪悪感も羞恥心も持ち合わせていないやからばかりなのだ。


 もうちょっと丁寧に言うとこうなる。


 こんな良い方法があるのに僕に教えてくれないなんて

 今の今まで僕だけが知らなかったなんて

 主体性も罪悪感も羞恥心も持ち合わせていないやからばかりなのだ。


 以上。


 という事で早速、AIチャットなる正義の味方に助けて貰う事にした。適当なキーワードやジャンルや設定を打ち込めば、あっという間に出来上がるのだ。


 直ぐに投稿。

 直ぐに高評価。

 直ぐに『妖怪しょうにん坊』が随喜ずいきの涙。


 ――の筈なのに、一向に読者からの反応がない。


 じりじり、そわそわ、もぞもぞしている内に他人の投稿作品はどんどん評価されて行く。

 指定内容を変えて何度も書き直させたが、投稿作は白け鳥と閑古鳥とが鳴かず飛ばず仲好く西の空へと墜落するばかり。

 このままでは『妖怪しょうにん坊』が未承認のまま死んで『妖怪しょうにん坊Z』と化してしまう。


 あ、閃いた。


 AIほんにんに自作品を評価させれば良いのだ。

 何が駄目なのか、何処を改善すれば良いのか、忌憚のない意見を示してくれるに違いない。


『才能あふれる作者によってつむぎ出されたすばらしい作品です。登場人物が的確に状況を判断し、与えられた能力を遺憾なく発揮して物事を解決していく姿に、多くの読者が感動を覚えることでしょう』


 この人は良い人だぁ、是非この壺を買わせて下さい――と思わず信頼してしまったが、褒められるだけでは寧ろ伸びないのが僕という人間である。

 なので、もっとはっきりとアドバイスするように求めた。


『人物の内面が的確に描かれていません。人物の背景も曖昧なまま物語が進行します。そのため全ての言動が場当たり的に見えてしまい、読者は戸惑ってしまいます』


 先生~っ、この間○○君がイケない事をしていました――と学級会で堂々と言い付ける四角四面の石部金吉タイプの物言いだ。

 そもそもAIおまえが書いた作品なのに、どうして僕が説教じみた事を言われなければならないのか。僕に指摘する暇があるのならば最初から傑作を書きやがれと言いたい。


 それから何度、書き直させたか知れない。

 AIが書いた作品の改善点をAIに指摘させ、その指摘を踏まえて書かせた作品の改善点をAIに指摘させ――もう初稿の内容は影も形もなくなった。


●初稿『ハーレムダンジョンを舞台にチートでニートな僕が無双な虚無僧になってスゲー活躍をする異世界転生ファンタジー!!』


●改稿『戦後の焼け野原で逞しく生きる母と娘との葛藤を巡る戦後純文学私小説の金字塔』


 ラノベ的『なろう小説』が、井上靖的『ひのきのように強くなろう』になってしまった――が、別に構わない。僕に取り憑いた『妖怪しょうにん坊』を昇天させられるのならば、内容なんて何でも良いのだ。


 直ぐに投稿。

 直ぐに高評価。

 直ぐに『妖怪しょうにん坊』が羽化うか登仙とうせん


 ――の筈だった。

 

 僕はいつ何処でどんな風に死ぬのだろう、などと考えていた或る日、聞き捨てならない真実を耳にしてしまった。

 それは、ど腐れアイドルソングよろしく、夢は諦めなければきっと叶う、と言いたくなる衝撃の事実だった。


『カキヨミ投稿作の高評価レビューは9割以上AIが書いたものだよ~ん♪』


 その後の展開は、前出の『あ、閃いた』の一行以降を参考に類推して欲しい。


 以上。

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