〖溺愛〗がインストールされました②

「改めてよろしくね」

「はい!」

「おう!」

「は、はい」

「賑やかになりそうだな」

「ああ」


 簡単に自己紹介を済ませた後、店員さんが料理を運んできてくれた。

 コース料理なんて初めてだ。

 気を利かせて、話が終わるのを待っていてくれたようだ。

 お互い聞きたいことは他にもある。

 けれどまず、料理が冷めないうちに頂こう。


「美味い!」


 ライラが嬉しそうに感想を口にする。

 確かに美味しい。

 奮発してちょっと高い店を選んだだけのことはある。


「美味しいですね」

「こういうまともな料理久しぶりだぜ~」

「そ、そうですね」

「普段はどうしているの?」

 

 俺は食事を続けながら軽く質問する。

 するとエリカが答えてくれる。


「普段は自炊しています。あまりお金に余裕がないので、安い食材を買ったり、時々森に入って食材を集めてきたり」

「凄いな、それ」


 自炊というか自給自足に近いことをしているらしい。

 まだ若いのに、子供だけで生活するのは大変だろう。

 特に彼女たちは女の子だ。

 男の俺とは違った危険もたくさんある。


「生まれはこの街なの?」

「いえ、私たちはえっと、もっと遠くの街です」

「遠くか。じゃあ今はここで暮らしているんだね。大変だったんじゃない?」

「はい。でも、二人も一緒にいてくれたので楽しかったです」


 エリカは笑顔でそう言った。

 彼女の笑顔からは不安や疲れも少しずつ感じ取れる。

 楽しいだけじゃないのは、俺もわかっている。

 生活するにはお金が必要で、お金を稼ぐためには働かないといけない。

 その手段として、俺たちは冒険者を選んでいる。

 

「三人とも仲がよさそうだけど、昔からの友達だったりするのかな?」

「友達ってーか。オレとフィオレはお嬢のじゅう――むぐっ!」


 話していたクロムの口を、エリカが唐突に手で塞いだ。

 びっくりして目を丸くするクロムと、俺とライラも驚いた。


「エリカ!?」

「な、なんでもないです。私たちは幼馴染なんですよ」

「そ、そうか……」 

「ごほっ、ちょっとお嬢、急に口塞がないでくれよ」


 お嬢……呼び方も普通じゃない。

 ただの友人、幼馴染ではなさそうだ。

 エリカは誤魔化すように笑い、フィオレは視線を逸らす。


「……わかりやすいな、秘密があるとバレバレだ」

「そうだね」


 彼女たちは他人に言えない秘密を抱えているようだ。

 ギルドマスターとして、メンバーの情報はなるべく把握しておきたい。

 今後起こりうる事象を予測するために。


「でも……」

「……」


 申し訳なさそうなエリカの表情を見て、俺は小さく微笑む。


「冒険者になる人間に、秘密のない人間はいない。俺たちだって同じだ」

「それもそうだな」


 冒険者は一般の職業とは違う。

 危険度は高く、安定はなく、未来の保証もない。

 大きいのは夢だ。

 皆、夢を掴むために冒険者を目指す。

 と、表向きは言いながら、事情があって普通に働けない人も少なくない。

 

「待っていよう。そのうち話してくれると信じて」

「お前さんがそれでいいなら、私も構わないぞ」

「レオルスさん……」

「あ、ごめんね、俺ばっかり質問して。そろそろ俺のことも話そうか」


 あまり気乗りはしないけど、どうせ隠したところですぐにバレる。

 俺はあの模擬戦前から、悪い意味で知られていたから。

 食事も一通り運ばれてきて一段落したところで、俺はあの模擬戦の意味と、これまでの経緯を三人に話した。

 三人とも静かに、真剣に聞いてくれた。

 ライラとの出会いは簡略化して、彼女の正体については伏せておく。

 驚きはしていたけど、笑うことなんて一度もなくて。


「――という感じで、俺はギルドをクビになって、ダンジョンで手に入れた結晶を元手に、ギルドを作ろうとしたんだ。あの模擬戦は、前のギルドの仲間と、結晶の所有権をかけた決闘でもあったんだよ」

「そう……だったんですね」

「ごめんね。俺はそこまですごい冒険者じゃないんだ。失望してもらって構わないよ」

「なんでだよ! 十分すげーじゃん!」


 最初にそう言ってくれたのは、クロムだった。

 

「昔のことはよくわかんないけどさ。レオルス兄さんは決闘に勝ったんだろ? ボスだって一人で倒してさ! そんなの凄いに決まってるじゃん!」

「そうですよ! 失望なんてするわけありません。私たちは、あの日のレオルスさんに憧れてギルドに入ったんですから」

「す、少しでも、レオルスさんのお役に立ちたい気持ちは……同じ、です」

「みんな……」


 誰かが俺に憧れる。

 そんな光景、夢物語でしかないと思っていた。

 今、目の前にある。

 彼女たちは真剣に、瞳を輝かせて俺のことを見てくれている。


「よかったの。ゾッコンじゃないか」

「……ああ」


 こんなにも嬉しいんだな。

 誰かに認められることは……。

 

「声をかけてくれたのが、君たちでよかったよ」

「三人とも美少女だしな!」


 ライラが笑顔でそう言うと、三人ともびくっと身体を震わせ反応する。

 そう思うだろ?

 と言いたげに、ライラが俺の顔を見る。


「……そうだね。なんというか改めて緊張するな。男女の比率が偏り過ぎてると」

「何を言っておる? らしくなってきたじゃないか! 英雄というのは、美女に囲まれてこそだろ?」

「そ、そうなのか?」

「うむ! 目指せハーレムギルドだ!」


 声を高らかにライラは宣言する。

 普通に周りに聞こえてるし、エリカたちも頬を赤らめて戸惑っていた。


「や、やめてくれライラ」

「何を恥ずかしがっておるんだ? こういう時こそどしっとしておれ。お前さんは三人のうち誰から初めてを貰うか考えておればいい」

「そういうこと言うなって!」


 嫌でも意識してしまうだろ。

 今さらだけど、女の子とこんなにも長く話をしたのは、生まれて初めてだった。

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