母
人の魂は死んだ後、どこに行くのだろうか…
天国…地獄…異世界…
無……
良子は死後、不思議な体験をした……
彼女はほんのひと時、異世界から戻って来た息子と会うことが出来た……
しかし、それも束の間のこと…彼女の魂はその場所に留まることを許されず、思い出の詰まったキッチンも人生の全てだった息子も淡い光の中に消えて行く。
そしていつの間にかそこは、全ての物が実体を持たない真っ白な世界。
彼女はこれが死なのか…と、そう思ったが、この真っ白な世界を以前どこかで見たような気がした。それは確か…あの伊勢の事務所で異世界を初めて見せてもらった時。
ふと気がつくと、彼女の隣には伊勢の意識があった。
「良いものを見させて頂きました……」
真っ白な世界の中で伊勢は彼女にそう言った。もちろん自分達二人に実体などは無い。ここは意識だけが存在出来る世界。
「すみません。せっかく時間を頂いたのに…私、何も話すことができなくて……」
「いやいや、部屋の外から拝見していましたが、息子さんお変わりになられましたね。」
「えぇ。あの子、私を見て笑ってくれたんですよ。あの子の笑顔なんかもう何年ぶりかしら。私それを見たらもう涙を
「我慢される必要は無かったのでは?」
「いえ、たぶん私も笑って無かったんだと思います。この十年間…二人揃って浮かない顔をして生きていたんだと思います。だからせめて…竜馬には最後の私の顔を…笑顔のままで……」
「……。」
「あの……少し聴いてもらってもいいですか?」
「ええ、よろしいですよ」
「竜馬がね……昔した約束を覚えていてくれたんです。最後に……あれからずっと母の日のプレゼントを買ってあげられなくなってごめん……って言ってくれたんです。私、とっくに忘れていると思っていたのに……あんなにふてくされていたのに……本当は竜馬はずっと優しい子のままだったんです。伊勢さん…あなたから見れば竜馬はどうしようもない息子に見えたかも知れません。でも……竜馬は本当に心根の優しい子なんです」
「ええ。ちゃんとわかりましたよ。先程のお二人の姿を見れば……息子さんのことも、あなたのことも……お二人共、愛で溢れていらっしゃいました」
「有り難うございます。それを誰かに知っておいてほしかったんです……。私、最後に竜馬から宝物貰うことが出来ました。これで私も安心して死んで行くことが出来ます。伊勢さん。本当にお世話になりました」
「あの〜そのことなんですが……実はここに一枚の契約書がありまして……」
「え?私には何も見えませんけど……」
「あ、そうでしたね。失礼しました。実はあなた様用に今朝一枚の契約書が届きました」
「契約書ですか?」
「息子さんとは別にあなた様にも異世界転生の権利が与えられたと言うことです。だからこそあなたはこの真ん中の世界にいるのですよ。残念ながらオプションは与えられませんでしたがあなた様も新しい世界で人生をやり直すことが出来ます」
「え?私もですか?それじゃぁあの、私もあなたの事務所で見たような草原や湖のある美しい国に行くことが出来るのですか?」
「さて、あの世界に行けるかどうかは分かりませんが、でも異世界は何処も美しいですよ。差し出がましいかも知れませんが……今度はあなたご自身の為に人生を歩んでみてはいかがでしょう?」
「そうね。それもいいかも知れない」
「では、この書類にサインをお願いします。あの、それと最後に一つだけ希望をおっしゃってみてはいかがでしょうか?」
「希望?でもオプションは無いのでは?」
「もしかしたら、異世界転生を司る神様か宇宙人かは分かりませんが、そんな存在がいて、何処かでそれを聞いて特別に願いをかなえてくれるかも知れないじゃないですか。ダメ元ですよ」
「ダメ元ですか。それも良いですね。それじゃあ……そうね……」
「何を希望なさいます?」
「それでは、私も竜馬が行った世界ヘいってみたい。竜馬に笑顔を取り戻させてくれた世界ですから。きっと素晴らしい世界に決まっています!」
END
異世界転生コーディネーター 鳥羽フシミ @Kin90
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