第11話 王都エントリア 2

 王都にも魔物、モンスターはいる。


「ちょっと下水道の調査をしよう」

「はい。なんだか怖いです」

「大丈夫だよ。暗いだけでエントリ川につながってるんだ」

「なるほどですぅ」


 冒険者ギルドに行き、魔物調査をしたいと願い出ると下水道の入口を案内された。


「ここです」

「入りまーす」


 鍵を開けて中に入る。

 魔道ランプの明かりをつけて腰に下げる。

 安全を優先して、係の人一人含めて三人とも装備している。


 キーキー。

 バタバタバタバタ。


 まず最初に反応したのはこいつ。


 ●ラージバット

 小型の魔獣。コウモリ。

 小型なのにラージというのは、普通のバットはもっと小さいのだそうだ。

 黒くて腕が進化して翼になっている。

 天井に足を引っかけて逆さになる習性がある。

 目は退化していて、声の反響で周囲の状況を聞き分ける。

 そのため耳が大きい。

 この翼が悪魔の翼に似ているため忌避する風習がある。

 東の果ての一部では丸焼きにする文化があるらしい。

 少なくともメールドでは食べたりはしない。


 そして足元の水の中には饅頭がいくつも浮かんでいる。


 ●アクアスライム

 通称トイレスライム。

 長い間スライムトレイで飼われてきたブルースライムの近縁種。

 水辺を特に好む。

 汚物を分解する浄化能力が高い。

 巨大なものだと一メートルぐらいになる。

 地下迷宮ではこの巨大サイズがごろごろいる場所もあるという。

 たまに川まで流れていくこともあるがエントラガーなどに捕食される。


 一匹倒して標本を確保する。

 たくさんいるので一匹くらい倒してお持ち帰りしても下水処理的には大丈夫だ。


「なんだか怖いです」

「大丈夫」


 チューチューチュー。

 チューチューチュー。


 声がたくさん聞こえてくる。


 ●ラージラット

 小型の魔獣。大ネズミ。

 ネズミにしては大きい。そして魔石を持つ。

 目が暗闇で光る。目は赤い色をしている。

 毛の色は本来は白なのだが汚れていて茶色や灰色をしている。

 また耳も大きい。

 素早く地面や壁などを走って移動する。

 繁殖力が高く、すぐに集団になる。

 万が一、敵対的な行動をとると全身攻撃されたらひとたまりもない。

 低レベルモンスターに含まれるが集団は危険だ。


 モンスターは低レベル、高レベルというふうに呼び分けるが、レベルという数値があるわけではない。

 これは冒険者に知らせるための危険度をなんとなくで表したものだった。


「よし、基本はこの三種だね」

「そうですね」

「では、出ます。ありがとうございました」


 一応、たまにはこうやって魔物研究家らしいこともする。

 普通の冒険者や旅人、旅商人をやっているだけでは出会えない魔物もいる。


 地上へ戻ってくれば普通にイヌやネコなどが歩いている。

 地下世界と地上のこことではまるきり別世界だった。


 地下ダンジョンも何か宝箱とかあればいいんだけど。

 もちろん盗賊などが隠し財産を貯めていることは実際あり、たまに発見されて噂話になったりする。

 実際、十年ほど前にミッドランド王国の王都ミッドシルトの地下で財宝が発見されて騒ぎになった。

 その後、下水道に冒険者が無断で立ち入るようになり、遭難者が続出して問題になったのだ。

 王国は一時的に下水道への立ち入りを制限して、なんとか抑えることができた。

 死者八名、行方不明者五名の被害を出したという。

 今でもミッドシルトの衛兵は下水道の見張りをしているという。

 ここエントリアでも下水道の出入り口には鍵がかかっているのはそういう理由だった。


 さて地上へ出てくると空を見上げたくなる。

 ずっと見ていると、たまにハーピー便が飛んでいく。

 王都にはさらにすごいのがいるんだ。


 ●ワイバーン[騎乗用]

 亜竜種。魔物。

 竜と異なり手はなく翼がある。

 翼を広げると数メートルを誇る。

 色は濃い灰色が多いが紺色や赤茶などの個体もいる。

 王都などで見かける個体はテイムされたものだ。

 ワイバーンライダーが背に乗り、上空から偵察を行う。

 通常はハーピーなどは偵察をしない。

 エントライオン王国の王都エントリアには三匹確認されている。

 交代で上空から監視をする。


 野生種の特徴や利用法とはまた別で紹介しようと思う。

 王都を空から見守る。カッコイイので王都民の憧れの一つだった。

 ワイバーンは非常に高価であり、各国集めてもあまり数がいない。

 昔もっとたくさんのワイバーン・ライダーがいたようで、戦争時に石を落とした、という記録がある。

 上空から攻撃されたらさぞかし怖いだろう。


 ピュー。


「笛です!」

「うんうん。ワイバーンの笛だね」

「あれ、憧れだったんですぅ」

「そっかぁ」


 王都ではワイバーン使いの笛の音がときおり聞こえる。

 モーレアちゃんと空を見上げる。

 高いところをワイバーンが一頭飛んでいる。その背には人の姿も見える。

 本物の竜ナイトの勇士に心躍るものがある。

 たまに上空を見上げる人がいるのもこのためだ。


 こうして人々の安全は守られているんだと思うと、感慨深い。


 この後、錬金術店に向かった。

 魔道ランプ、魔道コンロ、魔道カイロなど売れ筋商品をいくつか買い上げた。

 島や森の奥の村など、僻地へ行くほど魔道具は不足している。

 買い手がいることは明確なので、在庫を多めにする。

 魔道ランプを五個セットで買ったらずいぶんと割引してくれた。

 貴族であることを除いても、なかなか優遇してくれてうれしい。


 ホクホク顔で宿屋に戻るのだった。


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