第二章 エントリアと潮騒街道

第10話 王都エントリア

 よくある、といえばよくある。

 城塞都市。それが王都エントリア。


 近くには小さな川があり、そこが水源になっている。

 また周りは草原に囲まれ、一部には王の森がある。


 すべての町が城塞都市であれば、防御はいいのだろうが実際にはそうはいかないのだった。

 左右に広がって続いてる石壁は『圧巻』の一言だ。

 また街道から続いている城門も見事な仕事で、立派だった。


「ミッドランド王国デミトル男爵令嬢、通ります」

「うむ、よろしく」


 私が待機列を横目で見て、列を飛ばし貴族特権を行使して門に先に入る。

 これがたまらなく快適だった。

 ビップだよビップ。貴族特権、ここ極まれり。


「いいですね。私も貴族様といつも一緒したいです」

「でしょ、でしょ。私と一緒ならいつでも通り放題」

「便利ですぅ」


 モーレアちゃんも目を潤ませて、よろこんでいる。


「そうそう、どこで降りる? 噴水広場でいい?」


 王都エントリアといえば、東西南北の大通りが交差する中央にある噴水広場と相場が決まっている。


「あの、えっと。ここで降りる約束だったんですけど」

「うんうん、だけど?」

「私も、この先、東へ、一緒にいきたいな、なんて思っています」

「あれそうなの? じゃあ一緒に行く? 私も一人だと寂しいもんね」

「ありがとうございます」

「いいのいいの」


 ということで降りるのはキャンセルだ。

 もっと東まで一緒に行ってくれるらしい。

 なんだかベッドに一人なのも寂しく感じちゃうようになってしまった。

 女の子と一緒だと気も楽なんだよね。

 これが護衛の男性冒険者とかだと気が休まらないのだろうけど。

 なんてったって女の子だもの。


「荷物の売買はほとんどマリンバでしちゃったんだよね」

「そうですね」

「宿屋探してそこに馬車を停めて観光しよっか、観光」

「はい」


 マリンバ町で商売をしてだいぶ儲かった。

 麦も古いのを入れ替えできた。

 地方の麦畑で余剰分をちょっとずつ買いだめしてきたのだ。

 それをここで一気に売った。でも王都のほうが金額自体が高いので、王都相場の半額だけど購入費から見たら半額ではなく、もう少し差額は小さく済んでいた。

 それから高級家具が売れた。これも地方の森の中の農村で仕入れたものだったのだけど、現地価格だと王都よりずっと安いから、持ってくるだけでかなり儲かった。


 細工物や魔道具なんかの工業系製品が確かエントリアは有名だったと思う。

 本店とか寄って買い付けていこう。


「ここが噴水広場です」

「おおぉ水出てる水。ウケる」

「お水よく出てて不思議ですよね」

「そだね」


 中央の噴水広場の周りのロータリーを一周して見学していく。

 さて南通りへと入って宿に停めよう。


 こういう王都みたいなところの宿は高い。特に表通りとか。

 だから一本入った二級宿がお手頃だ。

 こういう場所は実は歴史が長かったりする場所もあり、なかなか二級とは思えないほどコストパフォーマンスが良かったりする。


「すみません。馬車停められますか?」

「はい、おおう。黒馬ですか。いい馬をお持ちですね。責任をもって預からせていただきます」

「よろしく」


 黒馬を知っているらしい。歴史がありそうな佇まいだし、ベテランさんなのだろう。

 二階のダブルベッドの部屋を借りてニコニコ顔で戻ってくる。


「ダブルベッドにしておいたよ」

「はい。今晩もよろしくです」

「はいよ。どこいこっか? 冒険者ギルド?」

「あ、はい。滝を見てきたと報告だけでも」

「わかった」


 地方の情報を集めるのも冒険者ギルドの仕事だ。

 そういう情報は生命線だったりするので、お金がもらえる。


 通りを進んで大通りも大通りの角地。

 剣と盾の意匠。冒険者ギルドだ。


「相変わらずでっかい」

「ですねえ」


 ドアを通るとドアベルが鳴る。

 私は別に冒険者ではなく貴族なので、平気な顔をして進んでいく。

 胸に貴族章というのをつけているので、貴族かどうかはすぐにわかる。

 この貴族章、けっこうお高いミスリルと純金とダイアモンドでできてるので、偽造もしにくいのだ。

 リボンの色は所属国を表していて、赤と白のツートーンなのがミッドランド王国だった。

 グリーンと白なのがここエントライオン王国の貴族だ。

 万国共通ではないがメールドの主要国ではほぼ採用されている。

 また貴族の階級で線が一本なのが男爵、以降一本ずつ増えていく。

 貴族制度は「公侯伯子男」という。なお王族、王家直系は線が一本もない。


「これはようこそ、冒険者ギルドへ」

「どうもどうも」

「エンジェル・フォールを見てきました。異常はありませんでした」

「そうですか。わかりました」


 そうそうエンジェル・ラブを二十株、冒険者ギルドの受付に提出する。


「確かに、お預かりしました!」


 美少女の受付嬢が緊張して花を受け取る。

 この花、めちゃくちゃ高価なんだよね。そのほとんどが王都で引き取られて錬金術に材料にされる。

 たしか上級ポーションの材料の一つだ。

 上級ポーションにはいくつかレシピがあるため、この花以外でもできる。

 それでも貴重な材料には違いなかった。


 はい、金貨がじゃらじゃらぁ。

 流通業者が全額、一時的に買い取らないといけない制度のせいで、普通の冒険者じゃ高くて買い取れないために輸送が困難なのであった。

 たまに一獲千金だといってお金を貯めて輸送する人がいるものの、マジックバックでも持っていないと鮮度を保つのも難しいという。


「ラミルさん、流石です……」

「金持ちには金持ちの商売があるのさ、へへん」

「すごいです」


 ベタ褒めをくらう私だった。

 輸送の仕事は途中のゴブリンや盗賊などを考えると、思ったよりも危険率が高い。

 割に合うかはその人の冒険者としての能力次第だった。


 私は余裕だね、余裕。

 女の子一人旅とかいう絵に描いたような『無謀』をしてるような変人だもの。

 もう一人、女の子を拾ったので今度から本当の意味で女の子二人旅と洒落込もう。

 今までは一応、彼女はお客さん荷物だったんだよ。

 でもここからは一緒に旅をする『友』なんだ。

 へへん、いいでしょ。ガールミーツガールなんちって。


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