第8話 友情

 長峰さゆりは、3人の訪問者を社長室のソファに座らせて、話を続けた。うち2人が大学の在籍者とあって、さゆりは笑顔を絶やさず、まずは勉学の様子などを聞いたりした。

「Yuariさんのゼミの先生が、あまりにも強引に薦めるので、私は他の事務所からのタレントの引き抜きはご法度なので、はじめはお断りしたのですが、それでも執拗に移籍を進められるので、やむなくお引き受けしたのです」

「三条先生ですね?」

 桜川が聞くと、

「ええ、そうです」

と、長峰さゆりは屈託のない表情で答えた。

「Yuariさんは、どうだったのでしょうか?」

 桜川が聞いた。

「ええ、Yuariさんもはじめは乗り気ではなかったようで、でも次第に移籍を希望されるようになり、契約を交わしたという次第です。このようなことになって、私、本当に後悔しているのですよ」

 さゆり社長は、涙ながらに言った。

「まだ内密に願いたいのですが、Yuariさんは銃弾に倒れた後、手にbrilliant starsの名が刻まれたブレスレットを握りしめていたそうなんですが、社長さんには何か心当たりでも?」

 桜川が直截に聞いた。

「それなら、Yuariさんが移籍後も続けていた、任意のアイドルグループの仲間の印でしょう。みんなで友情の証にと、いつも肌身離さず身につけていました」

 「社長さんは、そのグループとは交流はありますか?」

 今度は、野原すみれが聞いた。

「ええ、私も参加していましたから、時々情報交換はしていました。たしか、メンバーは5、6人だったと。ご覧になりますか?」

と言って、さゆり社長は、スマホのラインアプリを開いた。案の定、今回の事件のことが、「信じられない…とか、かわいそう・・・、でも一命をとどめてよかった・・・、誰かしら撃ったのは」などという書き込みがあった。社長はFacebookのことは知らないと言った。


 帰り道すがら3人は、だれからともなく、

「ライングループの中の誰かが絡んでいる」

と言った。

「Yuariさんが残したダイイングメッセージは、brilliant starsの誰かが私を撃った」

というメッセージだったのではないかしら」

とすみれが言った。


 近くの大学の学生たちが、笑いながら過ぎていった。近くには、大勢の芸能人を輩出している有名大学がある。西教大学と同じ、ミッション系の大学だ。

「Yuariはあの人気だろ。仲間から相当嫉妬されていたらしいぜ」

「だろうな。あの若さであの人気だから、事務所の幹部から相当寵愛されていたらしいぜ」

「ほんとかよ。そんなことならどんな世界にもあるぜ。そんなことでいちいち殺人に及んでいたら、芸能界は殺人だらけだ」

「それもそうだ。Yuariは相当の悪(ワル)で、先輩タレントの男をかっさらって、事務所を出たという噂がある…」

 すれ違った桜川が、

「えー!」と声をあげて、男子学生を追った。

「あの、別に盗み聞きしたわけではないのですが、今のお話し本当でしょうか?」

 桜川は雑誌社の社員だと断って質問した。

「ええ、本当ですよ。それが何か?」

と、学生たちは警戒もせずに答えた。

 桜川は、某有名雑誌社の名前を出して、聞いた。

「その妬みを買っていて、男まで取られたとおっしゃった、そのお方はどなたでしょうか?」

「あれ、知らないんですか?」

 就活から帰りか、ネクタイを締めた学生が言った。

「僕も雑誌社を希望しているのですが、いまもその雑誌社へ行って、世間話で出ていましたよ。近く記事になるのではないですか。確かAkikoと言いましたか。30前後の売れない女性タレントです。ははは・・・」

 屈託のないその学生は、笑いながら答えた。

「Yuariさんはそんなにワルなんですか?」

 すみれが学生たちを睨んでいった。彼女の鋭い目線にたじろいだか、学生は、

「いえ、単なる主観的意見です。失言でした」

と、あっさり取り消した。

「ありがとうございました」

 3人は、お互いに顔を見合わせた。

 連絡を受けた仲村は、すぐにシークレット探偵事務所へやってきた。

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 主な登場人物 山座順次:警視庁捜査一課長、科野百合:同刑事、仲村輝彦:西教大学教授、野原すみれ:学生、下田健:学生、桜川解久:私立探偵:、Yuari(湯沢亜里沙):ブリリアント・スターズ所属アイドル、三条節夫:元西教大学教授 アクセサリー店経営者: 長峰さゆり:西教大学学長の娘、芸能事務所経営 Akiko :Brilliant stars のメンバー 黄瀬:Akikoの元カレ


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