第7話 エリーゼの小径のトリック

 この小説はフィクションであり、登場人物および場所、地名、固有名詞などが実在するものであっても、何ら関係がないことをお断りします。また生成AIの助けを借りて作成しています。どのような利用をしているのか、物語が完結した段階でお話しします。また、原則「話」ごとに完結して次の「話」に進みますが、随時、加筆修正がありますので、この点もご承知おきください。前置きが長くなりますが、この推理小説はエンタメ系ビジネスの書籍化を目指しており、その加減で小説としての風味が多少硬くなっています。この点もご了解ください。

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 エリーゼの小径の現場検証は、丸一日をかけて綿密に行われた。この現場検証には桜川と仲村が参加した。若いアイドルのYuariを狙った弾丸は、45度上の角度から発射されたもので、そうすると、倒れた位置とYuariの身長から計算して、エリーゼの小径の建物群の二階部分から発射されたことは明らかだった。

 犯人の銃口は、当然のことながら、Yuariの正面の胸に向いていなければならない。弾丸は胸から体内へ撃ち込まれた。Yuariが撃たれたとき、彼女がどの方向を向いていたかはわからないが、彼女が向いていた方向の45度の仰角(仰角)の向こうに、犯人は銃を構えて狙っていたことになる。犯人が狙った俯角(ふかく)は、同じく45度であった。

 45度の仰角度を上へたどると、4つの建物が候補となる。この4つの建物には、二階があり、それぞれ道路側に窓がついている。4つの建物は、衣料品店、軽食喫茶、空き店舗、そして第一発見者のアクセサリー店だった。これらの四つの建物の二階部分から発射された蓋(がい)然性は高いと判断された。

 

 聞き込みの結果、衣料品店の二階は、店主の息子で都内の会社へ勤めているAの部屋で、事件当時Aは会社へ行っており、Yuariのことは知っていたが、事件への関与を強く否定した。アリバイは成立している。事件当時店にいた両親も、不審者が二階へ侵入した形跡はないと断言した。息子と両親の芸能界との接点はなかった。

 隣の軽食喫茶は、店主夫婦の居所であり、他人が入り込むことなど絶対にないと主張した。この衣料品店と喫茶店が、Yuariが竹下通りのメインストリートへ向かっていた場合の発射位置に当たる。

 アクセサリー店と空き店舗が、Yuariがメインストリートの反対側へ、つまり、アクセサリー店へ向かっていた場合の発射位置になる。Yuariがアクセサリー店へ向かっているところを狙われた可能性はある。

 空き店舗は、アクセサリー店よりもメインストリート側にあった。空き店舗は、表は施錠されていたが、道路と反対側の裏側には鍵はかかっていなかった。当然のことながら、この空き店舗が疑われた。空き店舗の所有者は、芸能プロダクションで、コロナ禍の中で、一時的に店を閉めていた。所有者の芸能プロダクションは、Yuariの所属事務所ではなかった。

 二階の部屋を捜索したところ、指紋は発見されなかったが、窓枠から硝煙反応が認められた。硝煙反応とは、銃を発射した際に手や着衣などに付着した硝煙を検査するために、ジフェニルアミンで紫色に発色させるなどの化学反応。鑑識法の一つとして犯罪捜査などに用いる。硝煙を作為を持って貼り付けた場合は別として、犯人がここから銃を発射したことは確実視された。しかし目撃者はいない。

 犯人は、裏には鍵がかかっていないことを知っていて、Yuariを待ち受け、彼女の胸に銃口を向けたと推測された。いずれにしても、犯人はYuariが当日、この場所を通ることを知っていたか、予測できた誰かということになる。あるいは呼び出すか、待ち合わせをしたのかもしれない。

「交友関係をしらみつぶしに当たれ!」

 山座一課長は、檄を飛ばした。現場検証の翌日、警視庁の捜査会議室では、おおむね以上のようなことが確認された。


 同じころ、桜川のシークレット・サービスでも、いつもの面々が同じような推理をしていた。

「警視庁では、空き店舗の二階の空き部屋から、何者かがYuariさんを狙ったと考えているようですが、先生はどう思いますか?」

と、桜川は膠着した雰囲気を破る様に言った。

「もう一つの密室、アクセサリー店の二階はどうなんだろう。この店の主人が第一発見者だったことを考えると、可能性は低いとは思うが・・・」

 仲村は、自信のない口調で言った。

「アクセサリー店の二階が犯行現場だとすると、Yuariさんはアクセサリー店へ向かっていたことになり、第一発見者がこの店の主人なのだから、別の人物が狙ったことになりますね。弾丸は胸から入っていますから、無理なんじゃないでしょうか? やはり警察の推理通り、空き店舗ではないでしょうか?」

 桜川が痛いところを突いた。

「共犯者がいなければ・・・」

 仲村はあいまいに答えた。

「Yuariさんが回復するのを待って、事情を打ち明けてくれれば、急転直下の解決に向かうでしょう。それにYuariさんは、打たれた直後、ありったけの力を振り絞って、ブレスレットを腕から外して、右手に握りしめた」

 野原すみれが、楽観的な推測をした。

「先生はどう思いますか? ブレスレットを握りしめていたこと。何かのダイイングメッセージじゃないかと仰いましたが・・・」

 下田健も同意して聞いた。

「うん。警察ではそのブレスレットには、小さな字でbrilliant starsと刻まれていたそうだ。買ったのは銃弾に倒れた場所に店を構えるアクセサリー・ショップだった。握りしめたことが、ダイイング・メッセージだとすると、Yuariさんは激しい痛みの中で、同じブレスレットを身につけている誰かをかばったのではないかと」

「かばったとは?」

 野原すみれが、すかさず聞いた。

 「言い方がよくなかったかな。Yuariさんは、打たれた瞬間に、撃ったのが誰かわかったのではないだろうか?」

「先生! brilliantの仲間を調べましょう」

 桜川解久が言った。仲村は、小さく頷いた。


 探偵事務所の時計は午後6時を回っていたが、西へ傾いた夕日が、ビルとビルの谷間を照らしていた。夕日はビルの谷間をすり抜けて、探偵事務所の窓のレースのカーテンを赤く染めていた。それは、事件解決に向かう光明のようでもあった。この日は、野原すみれが持ってきた花が、小さな花瓶に活けられていた。

 

この同じ時間に、横浜の大黒町岸壁では、大変な騒ぎが起こっていた。若い女性の死体が、海に浮かんでいるのが発見されたのであった。2020年2月、新型コロナに感染した乗客を乗せたダイアモンドプリンセス号が接岸した岸壁だ。

 神奈川県警の夏光一郎は、女性の持ち物、身の回り品の発見に全力を尽くすよう、部下に命じた。夏光一郎警部の捜査一課には、娘の警部補が配属されていて、父親の一課長の部下として勤務していた。彼女もまたInterpolへの転出を目指していた。夏蜜柑という、一度聞いたら忘れられない名前だった。捜査を指揮する父親をしり目に、みかんは、死体の名前を知っていた。凶器は見当たらなかった。岸壁には睡眠薬の瓶が転がっていた。

「あら、この女性はタレントですよ。確かブリリアントスターズが所属事務所で、東京で起きた殺人未遂事件で銃弾を受けたYuariさんと一緒に活動していたはずです」

 この一言で、捜査はブリリアント・スターズ一点に絞られた。情報は直ちに警視庁の山座一課長へ届いた。警視庁と神奈川県警の合同捜査が決定されるには、時間がかからなかった。このニュースは、桜川探偵事務所へも伝わった。

 

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 主な登場人物 山座順次:警視庁捜査一課長、科野百合:同刑事、仲村輝彦:西教大学教授、野原すみれ:学生、下田健:学生、桜川解久:私立探偵:、Yuari(湯沢亜里沙):ブリリアント・スターズ所属アイドル、三条節夫:元西教大学教授 アクセサリー店経営者:

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