ラッパーと少女

 彼はラップが好きだった。


 ラップという歌唱法は、1970年代にアメリカのニューヨークで生まれた文化だという。


 彼はその歴史に憧れ、自分もラッパーになりたいと思っていた。


 だが、彼の通う高校では、そんな夢を持つことは笑われることだった。


 彼はヤンキーと呼ばれるグループに属していたが、本当は仲間にも理解されない孤独な存在だった。


 彼女は文学が好きだった。


 文学という言葉は、古くから人間の心や社会を表現する芸術だという。


 彼女はその美しさに魅了され、自分も作家になりたいと思っていた。


 だが、彼女の通う高校では、そんな夢を持つことは無駄なことだった。


 彼女は文学少女と呼ばれるグループに属していたが、本当は仲間にも共感されない孤独な存在だった。


 二人は偶然に出会った。


 ある日、彼が学校の屋上でラップを練習しているところを、彼女が見つけてしまったのだ。


 彼女は好奇心から声をかけてみたが、彼は怒って追い払おうとした。


 彼は自分のラップを馬鹿にされるのが嫌だったし、彼女は文学少女だから自分とは合わないと思っていた。


 だが、彼女はあきらめなかった。


 彼女は彼のラップに興味を持ち、何度も話しかけてきた。


 彼女は彼のラップに隠された感情やメッセージを読み取ろうとしたし、彼に自分の好きな作品や詩を紹介しようとした。


 最初は反発しあっていた二人だったが、次第に互いに惹かれていくようになった。


 二人は同じように夢を持ち、孤独を感じていることに気づいたのだ。


 二人はお互いの世界を知り、理解し合おうとした。


 二人はお互いの言葉を聞き、感じ合おうとした。


 やがて二人は恋人になった。


 しかし、それは周囲に受け入れられない恋だった。


 彼の仲間は彼女を文学少女だと馬鹿にし、彼女の仲間は彼をヤンキーだと軽蔑した。


 二人は学校でいじめや嫌がらせに遭うようになった。


 二人は逃げ出したいと思ったが、どこにも行く場所がなかった。


 二人はお互いを支え合い、愛し合った。


 ある日、彼はラップコンテストに出場することにした。


 彼は自分の夢を叶えるために、自分のラップを世界に届けるために、勇気を出して挑戦したのだ。


 彼女は彼を応援し、励ました。彼女は彼のラップが素晴らしいと信じていた。


 しかし、コンテストでは思わぬ事態が起こった。審査員の一人が、彼のラップが文学少女の作品を盗用していると指摘したのだ。


 その文学少女というのは、彼女だった。


 彼は驚いた。彼は彼女の作品を盗用したつもりはなかった。


 彼は彼女の作品に影響されたかもしれなかったが、それは愛情の表れだった。


 彼は自分の言葉でラップしていたつもりだった。


 しかし、審査員は聞く耳を持たなかった。


 審査員は彼を詐欺師だと罵り、失格にした。会場は騒然となった。


 観客は彼を非難し、嘲笑した。彼は屈辱と絶望に打ちひしがれた。


 彼女は彼をかばおうとした。


 彼女は審査員に向かって叫んだ。


「私の作品ではありません!私は彼のラップが好きです!私は彼を愛しています!」と。


 しかし、それは逆効果だった。


 審査員は彼女も共犯だと決めつけ、罵倒した。


 会場はさらに騒然となった。


 観客は彼女も非難し、嘲笑した。


 彼女は屈辱と絶望に打ちひしがれた。


 二人は手をつなぎ、会場から逃げ出した。


 二人は泣きながら走った。


 二人はどこにも行けなかった。


 二人はお互いしか頼れなかった。

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