第24話

大量の紙を前にして、途方に暮れていると、突如、紙の山がブルブルと震え始める。


見ると、小箱が紙の下敷きになっており、それが振動していた。蓋を取ると、中には携帯電話が入っていている。どうやら着信しているようだ。


蛇足ながら、当時はまだスマートフォンは世に出ていない。従って、古き良きガラパゴスケータイである。


私は電話に出た。


「もしもし」


「無事、届いたようですね」半ば予想した通り、電話口の声はクゼだった。


「ええ、山ほどの紙が」


「申し訳ありません。場所を取って仕方ないでしょう」久世は苦笑しつつ言う。「本当は、フラッシュメモリに入れて送ったほうが便利なんですが、何分なにぶんデジタルデータはコピーが容易ですから」


要は、クゼは作業者である私も信頼していないということである。もっとも、高額な報酬を貰っている以上、今更そんな些末なことはどうだって構わない。


「意味不明、といったところでしょうか?」クゼは私の心中を見透かすように言う。


「ええ、ざっと拝見しましたが、この数字は何なんですか?」


「まあ、ある種の観測データだとお考え下さい」


「観測データ?」


「そうです。一定の周期で、一定の振れ幅の中で、常に遷移せんいを続ける、物体があるとして、その観測データです」


「というと、SとかPというのは?」


「それには、大した意味はないんです。言うなれば、同じ10にも区別されうる二種類の10があり、それを識別するためのマーキングに過ぎません。波佐見はさみさんには、これらの数列についての分析をお願いしたいのです。我々は、これらの数列は、何らかの規則性に基づいていると考えています。まずは、その規則性を見出して頂きたい」


さて、クゼの言葉を額面通りに受け取るほど、私は愚かではない。過去、顧客との打ち合わせで、そもそもの発注サイドの認識が根本から誤っている、という事態が幾度となく経験している。そもそも規則性に基づいて、それすら怪しい、と思われる。


「一点、確認なのですが、観測物は純粋な人工物ですか?それとも、自然物ですか?」


「前者です。」


「となると、設計思想として、何らかの規則性が埋め込まれていて、それを見つけて欲しい、ということですか?」


「そうです。仰られる通りです。やはり、貴方に依頼をして良かった。」




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