第51話 斎王の舞と十二単衣

僕は近衛道長。


平日だというのに、帰宅早々家族皆で帝国ホテルに行くことになった。我々京都藤原家と奥州藤原家は、同じ藤原の者同士で会食をすることになったそうだ。僕は部屋に荷物を置いて、制服の学ランのままで出かけることになった。


「道長は私と一緒に乗りなさい。」


そうお父様に言われると、運転手が運転席の後ろのドアを開いた。運転手の後ろにお父様が座り、僕が助手席の後ろに座ると、お父様が怪訝そうな顔をして僕に話しかける。


「道長。新学期が始まったが、新しいクラスメートはどうだい?仲良くやっていけそうか?田舎から来た水織とかいう娘はどんなふうに過ごしている?妙な事はないか?」


「妙な事って何ですか?」僕は車が進み始めた窓から、お母様と弟が車に乗り込むのを見ながら、尋ねた。


「一緒にいて気分が悪くなったり、変なことを喋りだしたりしていないか?」


「水織さんは目立たないから、特に何もないです。それより、道永燈子さんは、物凄く度の強い眼鏡をかけているけど、眼鏡を取ると物凄く美人なんです。あんな美人な人初めて見た。毎日学校に行くのが楽しみになりました。」


お父様は窓の外に視線を向けていたけれど、口元の口角が上がり、目を細めてククッと笑い始めた。


「あはははは。中等部に入ったと思ったら、女の子の話をするなんて珍しいな。だが、お前は近衛家の人間。結婚は近衛家にふさわしい家柄と血筋の相手と決まっている。奥州藤原家の衛子さんが同級生だろう。再来年は内親王様も中等部に入学となる。内親王様はいずれは降嫁こうかされるお立場。お前の目の前には、そういう方々があらねばならない。」


信号が赤になり、車が止まった。窓の外に犬を散歩させている人がいた。草むらに這いつくばるようにして犬が動かないから、リールをくっと引っ張り、居たい場所から引き離される様子を見ていた。


「お父様、相手の気持ちってものがあるんですよ。僕はまだ中等部に入ったばかりなのに。そんなこと言われてもピンと来ないよ。」


お父様は少し下を向いて笑うと、


「どんなに美しかろうが、どんなに神力が強かろうが、地下人ぢげびとにも及ばん者には深入りしないように。今から気を付けておきなさい。」


「はい。せっかく同じクラスだし、みんなと仲良くなって楽しい1年に出来たらいいな。」


信号が青になり、車が進みだした。僕は引っ張られていく犬が通り過ぎていくのを見つめながら、あの犬が自由に好きな所に行けることを祈った。




私は水織利律子。


学校から帰ると、富田さんが大きな桐の箱を持って玄関を移動中でした。


「ただいま!」そう言うと、富田さんが、


「利律子さん、十二単が出来ましたよ!釵子さいしに就けられる飾り紐が従来のデザインから変更になって、もう本当に素敵なんです!荷物を置いて着替えたら、急いで畳の部屋に来てください。着付けの練習をしましょう!」


「あ。はーい。」


と笑顔で返事をしつつ、実は私、少しのんびりしたかったんけどなー。富田さんがあんなに嬉しそうだしー!と自分に言い聞かせました。あはは。燈子ちゃんみたい。


私は普段着に着替えて、畳の部屋に急いで向かいました。畳の部屋に着くと、大きな桐の箱がたくさん並べてあり、着物が沢山立てかけられていました。


「どれが私が着る十二単ですか?」そう富田さんに聞いてみると、富田さんは困ったような笑顔で、


「これ全部一度に着るんですよ。」


そう言います。でもいち、にい、さん、しい・・・・。


え。10枚あるんですけど。これどうやって着るんだろう。





すいません。

続きは明日書きます。

楽しみにしていてください。

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アポカリプス (神道界と魔法界の戦い) @ChiyodaMasako

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