第19話 科学部の姫は消失して、
――姫とは。
国木田さんの発した電子音に、科学部全員が彼女のスマホを見て目を丸くする。
「科学部唯一の女子です。姫野っていうんで、僕らは姫って呼んでます」
彼は不安を顔に出して言う。
「彼女、数日前に旧校舎に行ってから、帰って来てないんです……」
「か、帰ってきてないって、それは家に……?」
僕の問いに、右隣の部員が、待っていられないとばかりにハラハラと答えた。
「家もそうだし、学校にもいないしっていう感じなんだよ! 携帯も連絡つかないし……」
「部員はみんな、もう心配で心配で、夜も眠れなくてですねぇ!」
左の図体の大きな部員は、大きな声で焦っている。
「うちの姫は天才だし可愛いですから。何かあったらもうどうしようかと! 国の損失ですよ!」
「いいなぁ、チヤホヤされて……アタシも科学部入れば姫になれるかなぁ……」
彼らとは対照的に呑気の極みにあるわかを尻目に、僕は困惑する。
「そ、その人を僕たちが探すんですか? でも、見当がつかないと探しようが……」
「いえ、いるのは恐らく旧校舎です」
飯山があまりに簡潔に言い切るので、僕たちはポカンとしてしまう。
飯山は説明を付け足した。
「姫が旧校舎に入ったとき、僕たちは玄関前で待ってたんです。でもその後、全然出てこなくて。さすがにおかしいと思って中に入ったんですけど、どこにもいない」
――神隠しだと。
「はい……」
科学部全員が頷く。
そりゃそうだと僕も気づいた。
わざわざ心霊現象調査部に持ってきてるんだ。当然、話はそういう方向になる。
「実際、旧校舎の方が最近騒がしいんだよね〜」
近場の椅子を手繰り寄せて前後反対に座った先生が、あっけらかんと話を継いだ。
「理由はわからないけど、あそこを住処にしてる幽霊が活性化してるみたいでさぁ。警備の人たちまで怖がっちゃって、このままじゃ入れないからなんとかしてくれって」
「お、大人の人まで……」
「だから、その姫野って子を探すついでに、様子も見てきてよ。あそこの霊は大人しいから大丈夫だろうけど、このまま警備できないと、不審者が住み着いて普通に治安に関わるんだよね」
「お化けよりそっちが懸念なんですね……」
超常現象の話が、現実的な問題に当たり前のように繋がる唐突さについていけない。
「ということでっと」
先生は、鍵をポンと国木田さんに投げて寄越した。
「これ通用口の鍵ね。明日まで持ってていいから」
「え、それって――!」
「姫ちゃんの特徴とかは聞いておいて。ワタクシは、そろそろ職員会議なのでこれで」
椅子から立ち上がり、黒衣を翻して出口に向かう。
僕は慌てて引き留めた。
「ま、待ってください。え、先生は来ないってことですか? 顧問なのに?」
「いや〜、今日は息子の誕生日だからさ。ごめんね」
その言葉だけ残して、幽崎先生は、部室を颯爽と出て行った。
後に残されたのは、唖然とした三人と、呆然とした科学部だけ。
「む、息子いるんだ……」
「そもそも、あの人結婚できるんですね……」
――それな。
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