第13話 過干渉はNGで、
特別棟四階の空き教室に通うようになって一週間が経った。
結局、僕は幽崎先生に入部届を提出した。
今や正式な心霊現象調査部の一員だ。
正直、ほんとに入りたくなかったが、ぶっちゃけ選択肢がなかったし、仕方がない。
入部前と後で変わったことといえば、気が向いたときに行われる学内パトロールに参加するくらいで、他は、初日と変わらず、部室で時間を潰すだけだった。
ただ、これも立派な活動の一環で、依頼受付状態というステータスということになっている。
心霊現象調査部、略して心調部は、主にパトロールと依頼対応の二本の柱で成り立っていた。
先生曰く、飛び込みの依頼が一番ヤバいから必ず部室にいるように、とのことだったけど、今年度の依頼数は、今日に至るまでゼロ。
パトロールに至っては、役に立ったのは僕が二年ぶりらしい。これも幽崎先生の言。
うだつの上がらない、成果の少ない部活。
つまり、暇ってことだ。
僕としては、このままであってくれと、願うばかりだけど……
部員たちの話をしよう。
最年少部員の春和さんを、僕も『わか』と呼ぶことになった。
先輩からのさん付けは居心地が悪いと言われたからなんだけど、その瞬間、僕の人生で初めての、あだ名で呼ぶ女子が爆誕した。
革命である。
彼女には、あんまりにもイメージ通りなことと、意外とイメージと違うところのふたつがあった。
まず、イメージ通りなとこ。
彼女は部室に来ると、ポテトチップスを開けつつ着席。机の中に大量にストックしている割り箸を取り出し、それでポテチを摘みながら「痩せたい……」と独り言を呟くのだ。
芸術点が高い。
また、暑がりなのか、薄ら寒いこの部室でも、常にブラウス一枚でいた。
そして、陰キャ特有の無頓着さからか、下着がいつもブラウスの奥に透けていた。
大体白の下着だけど、たまに子供っぽいいちご柄だったりする。
透けてるよって、誰か指摘してあげてほしいのに、同性の二人は歯牙にもかけていなさそうで、僕はいつも目のやり場に困っている。
次に、イメージと違う部分。
柔らかい雰囲気に反して、長く濃いまつ毛やぽってりした紅色の強い唇など、顔のパーツは意外と派手だった。
化粧をしたら夜の蝶として羽ばたきそうである。
スタイルも、第一印象は『丸くてぽっちゃり』だったが、良く見れば平均を超えるか超えないか程度だった。
じゃあ、どこからその印象を受けたのかというと、丸顔と、典型的ぽっちゃり行動、それに恐らく――僕なんていうド底辺が容姿に言及してすいません、死にます――ブラウスを押し出す豊かな膨らみがそう思わせてるようだ。
猫背を直したら、多分シャツのボタンが弾けるんじゃないか。
それが彼女をずんぐりに見せていた。
続いて、柳女さん。
髪のインパクトが強すぎて最初は気付いてなかったけど、柳女さんは些か不可解な存在だった。
なぜなら、彼女の外見は、一般人のレベルを遥かに凌駕していたから。
他の女子二人だって、素材は恵まれている方だと思うけど、彼女に至っては、纏っている雰囲気がそもそも違った。
ただ色白なだけではない。
薄い肌。
血の筋さえ見えそうな透明感。
ブルベ冬。
雪の名を冠した化粧水のCMで起用できそうだ。
タッパがあり、顔も小さい。
座っていると前に飛び出すように見える長い脚は、ガラス細工のよう。
体の五十%を覆うカーテンのような髪だって、痛まずに、ストンと落ちて艶があるのは、魔法のようだった。
きっと、トリートメントのCMも出れるだろう。これで既に二本ゲットだ。
重い前髪と激しい猫背で、自身の輝きを覆い隠そうとしていたが、ほぼ無駄な努力だった。
なんでこんな人が、こんな陰気漲る部屋にいるんだろう。
謎だ。
いるべきは芸能事務所だろうに。
実は人類ではなく、妖怪の類かもしれない。
彼女は、僕はおろか、他の女性陣とすら、ほとんど接触しようとはしなかった。
毎日、首をぐっと下に向けて、スマホをいじるばかり。
悪い想像をすれば、格が違うのよってことかもしれないが、まぁ、陰の中でも人嫌いタイプなのだろう。知らないけど。
国木田さんは、まぁ、これまで言った通り。
栗毛のもこもこした見た目は、六月の湿気も手伝ってか、冬毛の小動物のようだった。
じっと本を読んでいることが多く、必要以上の会話も交わさず。
たまに目が合うと、その鋭い視線に射抜かれ、少し息苦しくなる……
そんなでこぼこな集団が、互いに近寄りすぎず、離れすぎず、適切な距離を保っているのが、この部活だった。
過干渉は厳禁。
それが、心調部の暗黙のルール。
沈黙だけが、僕たちの共通項だ。
正直……非常に助かる!
コミュニケーションしないのがデフォなら、これほど陰キャに優しい場所もない。
依頼もなく、アクシデントもなく、部室のお化けに慣れさえすれば、なんとか一年過ごせるかも……
なーんて、思ったのがフラグだったのでしょうか……
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