Ordeal

yokamite

God only knows

 22世紀に突入した人類社会──我々は、数十年前から喫緊の課題だと叫び続けた国家間紛争や内戦、それらに起因する人道・人権問題、越境的な諸環境問題、加速する少子高齢化と生産年齢人口の減少、世界人口の急増に伴う慢性的な食糧不足、貧富格差と犯罪発生・自殺率の増加、人種・性差別など、複雑多岐にわたる問題を克服することができていなかった。


 もはや人類の未来もそう遠くないうちについえるかと、誰もがそう確信した時──或る日人類は、自らの創造主である「神」との邂逅かいこうを果たした。


「神」は言った。「願え、然すれば叶えられん」と。 

「神」曰く、これは「人類に与えられし最後の試練にして、最期の機会である」と。

「神」は説いた。「願いは力なり。原初の掟に従いて、最も強き意志のみが報われん」と。


 地球上に存在する百億を超える命は、銘銘願いを胸に抱いた。

──ある者は不老不死を。またある者は天下泰平を。

──富める者は自らに仇なす不穏分子の排除を。貧しい者は巨万の富と酒池肉林を。

──独裁者は支配と殺戮を。奴隷は王座の簒奪と確固たる権力を。

──楽観主義者オプティミストは人類の繁栄を。厭世主義者ペシミストは集団自殺を。


 人々が内に秘めた千差万別なる願いの数々──その全てが、決して相容れぬものだった。


 そこで人々は、自らの願いを「神」に届けるため、互いを憎み、争い合った。たったひとつしかない思いのままに願いを叶える機会を是が非でも掴み取るため、障壁となる他者の命を軽視して、憎悪の炎を殺意に変えた。銘銘いつしか本来の願いを忘れ、眼前の恨めしい邪魔者を何とかして殺すことこそが目的と挿げ替わっていた。


 時は満ち、再び降臨した「神」は人類の総意を承諾した。


 その刹那、地球上から全ての人間は消え失せた。

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