第13話 突然の来客

 今日は優々の誕生日。

 早起きをして、いろんなものを作って盛大に祝うつもりだったが。

 

 カーテンの隙間から差し込む太陽が眩しく目が覚め、時計を見た瞬間、体が飛び上がった。


「に、2時」


 まずい。かなりまずい。

 昨日優々に、「明日誕生日なんだし、明日のご飯当番は全部俺がやるよ」なんて大口叩かなければよかった。

 朝ご飯とお昼ご飯を作れなかった。

 これ、『貸し2』ができちゃったんじゃ……。


 寝起きながら色んなことを考えあたふたしていると、リビングの方から誰かの話し声が聞こえてきた。


「?」


 今日誰か来る予定あったっけ?


 俺は静かに扉を開け、体を隠しながらリビングに向かう。


「柏原ちゃんってすごいところ住んでるんだねぇ〜。うち、こんな高いところ来たの初めてだからなんかソワソワしちゃう」


「私の家ってわけじゃないんだけどね」


「ふぅん。訳ありってやつね。なるなる」


 ……なんで寺島さんがリビングにいるんだ。

 優々が呼んだんだろうなっていうのはわかるけど。

 せめて一言くらい言ってくれればいいのに。


 同居してるんだしこういうことはしっかりしておかないと、いつか良くないことが起きそう。

  

 俺はそう思い、優々がいるリビングに行こうとしたが。

 寺島さんの言葉に体が止まった。


「そんなことより……うち気になってたんだけど、最近理央っちといい感じ?」

 

「もちろん」


「へぇ。なんか良いことあったみたいじゃーん」


「むふふ。実はね、この前理央くんに私以外とそういう感じになっちゃダメだよ言ったら、首を縦に振ってくれたの」

  

 嬉しそうに話す優々。


「も、もしかして柏原ちゃん、理央っちとそういうことしたの!?」


「ししししてないけど?」


 優々は首をブンブン横に振った。

 

 危ない危ない。俺も連動して首を横に振りそうになった。

 寺島さんって結構妄想が激しいんだな……。

 

「どうしよ」


 困った。ここで二人の会話を盗み聞きし続けるわけにはいかない。優々に『貸し』のことを聞きたい。

 どうにかしてリビングから出させないと。


 そこまで考えて再び優々に目を向けると。

 ガッツリ目が合った。

 さっきまでブンブン横に振ってた顔がピタリと止まっている。

 声出したからバレたのかな?


「寺ちゃん。ちょっと私、やらなきゃいけないことあるの忘れてた。すぐ戻ってくるから適度に寛いでてぇ〜」


「おっけい。任せて」


 寺島さんにはまだバレてない……のかな。



  ◆◆


 

「ねぇ」


 されるがまま俺の部屋に押し込まれ。

 勢いで壁ドンされた。

 優々から花の甘い匂いがふわぁと覆いかぶさる。


「な、なに?」


 壁ドン初体験中なのでつい声が裏返った。


 そんな俺を気にせず、優々は少し顔を近づけ。


「多分今、朝ご飯とお昼ご飯の2つで『貸し2』あると思うんだけど……今1つ使っていい?」

 

「どうぞどうぞ」


 また顔を少し近づけてきた。

 

 顔と顔の距離が10センチくらいしかない。少し顔を動かしたら色々当たりそうだ。息遣いが聞こえてきて、心臓のバクバクが止まらない。


「じゃあ寺ちゃんの前では自然体でいて」


「わかった」


 いつもそうだけど。

 俺って優々にこうして迫られると、つい甘くなっちゃう。


「私との距離感間違えないでね」

 

「あぁ。うん」


 優々は俺の返事を聞き満足したのか、壁ドンをやめ部屋から出ていこうとした。

 

「寺島さんのところに行く前にちょっと聞きたいんだけど、あの人って俺と優々が二人でここに住んでるってこと知ってるの?」


「…………あ」

 

 知らないのか。


「もし知ったら色々面倒くさくなるんじゃね?」


「……同居してるのは二人の秘密にしたい」


 俺もそうしたいんだけど……。


「やべ。なんかリビングに置きっぱのものあった気がする」


 俺の言葉にお互い顔色が悪くなり始めたところ。


 更に追い打ちをかけるように。


「柏原ちゃ〜ん。お手洗い借りたいんだけどどこぉ〜?」

 

 寺島さんの声と共に、外側から扉が開かれ……。

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