第5話 〖進化〗

 〖挑発〗の発動を止め、少しするとウルフ達は踵を返した。

 攻撃が効かねぇオレに構ってても時間の無駄だって考えたんだろうな。


「スゥラースラッス!(次会った時は覚えてやがれよ!)」


 去り行く背中に罵声を飛ばし、それから一息つく。

 ダメージは無かったが、自分よりデカイ奴に襲われ続けるのはちょっと心にクるものがあった。

 スライムは瞼を閉じれねぇから尚更だ。


 それはそうと、ひたすら攻撃に耐え続けたたためか〖ブロック〗なる〖スキル〗を得ていた。

 自分や武器の防御力を高められ、衝撃も軽減できるらしい。

 オレの〖タフネス〗で使う機会があるかは疑問だが、まああって困る〖スキル〗ではないな。


「(今日のところはこの辺にして寝床を探すか)」


 空は茜色だしもういい時間だ。

 スライムの巣には戻れねぇから自力で探さなきゃなんねぇ。


「(と、その前に夕飯だな)」


 寝床の近くに死体があると、臭いに釣られて他の魔獣が来るかもしれねぇ。

 なので今ここで食事を済ませる。


 ウルフの骸を前にして舌舐めずりをする。舌は無いけども。

 元人間の価値観的には生食はちょっと……って感じだが、スライムとして生きて来た経験がこれを食料だと認識させる。

 野垂れ死んでいた魔獣など、動物を食べたことは何度もあるのだ。


「(いただきます!)」


 にょっ、と体の一部を伸ばして手を合わせ、ウルフの体にへばりついて〖溶解液〗を発動。

 少しずつ肉体を溶かしていく。


「(うへぇ、獣臭ぇ……けどやっぱ肉は美味ぇな)」


 人間だった頃に食べていた焼いた肉とは全く異なる味わいだが、これはこれでスライム的には美味だ。

 肉に含まれるマナが溶かすたびに流れ込んで来るし、溢れる鮮血は一滴吸収するごとに体が潤うかのよう。


 そうして消化しつつ、ふと体の違和感に気付く。


「(そういや、何かムズムズするな)」


 思い返せば、さっきのウルフを倒した時からそんな感覚はあったんだよな。

 取りあえず〖ステータス〗を覗いてみるか。


「(ほうほう、〖進化〗可能か……マジか!?)」


 どうやらこの感覚は〖進化〗出来るようになったサインだったみてぇだ。

 敵を倒せず〖レベル〗を上げられないオレには一生無縁だと思っていたが、まさか一日で〖進化〗できる〖レベル〗に漕ぎ付けられるなんてな。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>不破勝ふえとう鋼矢こうや(ラフストーンスライム)が〖スキル:食い溜め〗を獲得しました。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 はやる気持ちを抑えつつ食事を進め、二匹をペロリと平らげた。

 昔はこんなに食べられなかったはずだけど、〖レベル〗が上がって胃(?)のキャパシティも増えたんだろうか。


 ただ、それにしては体が大きくなったり重くなったりはしていない。排泄もスライムは行わない。

 質量保存の法則を完全に無視していて、スライムの生態は複雑怪奇である。


 とまあスライム考察置いておいて、次は〖進化〗……の前に寝床探しだ。

 少しの間森を歩き、良い感じに目立たない木を見つけた。


 お誂え向きに根の下に小さなスペースがあり、今日はここで夜を明かすことにする。

 オレはその中に潜り込んだ。


「(取りあえず〖進化〗できる種族の確認だな!)」


 自身の内側へと意識を沈める。



~進化先~~~~~~~~~~~~~~~~

ジュエルスライム 獣位:雑獣ぞうじゅう

・スライム系統の希少種。

・ほとんどの攻撃を寄せ付けない〖タフネス〗と卓越した〖レジスト〗で防御能力はスライム界一。

・逃走のための種族スキルも有し、逃げ足も速い。


ロックスライム 獣位:長獣ちょうじゅう

・スライム系統の通常種。

・岩石質な肉体はスライムとは思えないほど堅固。そして〖パワー〗も高い。

・岩に擬態する能力を持つ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 オレが選べるのはこのどっちかみてぇだな。

 ジュエルスライムが防御・速度型で、ロックスライムが防御・攻撃型ってところか。


 この二つで、単純に強いのはロックスライムの方だ。

 なにせ〖獣位〗が上だからな。


 〖獣位〗は魔獣の強さを示す大まかなランクで、〖長獣〗は〖雑獣〗の一個上。

 この森だと中堅クラスになる。


 ただ、ロックスライムが通常種って言われてんのは気になる。


 他の同種を見た試しがないので、ラフストーンスライムは希少種と見て間違いない。

 もしオレの〖タフネス〗が希少種由来の能力だとしたら、ロックスライムになることでその優位を失っちまう恐れがある。


 それに、オレが今日編み出した必殺〖圧し潰し〗戦法には、あまり〖パワー〗は必要ない。

 そういう面でも、状態異常対策も万全で逃走手段もあるジュエルスライムに軍配が上がる。


 でもやっぱ総合力が高いのは〖長獣〗のロックスライムの方だろうしなぁ。

 ムムム……いや、判断材料がない以上、悩み過ぎても意味ねぇか。


「(……決めたぜ、オレはジュエルスライムに〖進化〗する!)」


 そう決意した途端、体の内に漲っていた力が一層激しく暴れ始めた。

 暴れ回るほどに力は加速、膨張して行くようで。

 荒々しく循環する力の渦が肉体を押し拡げて行く感覚だ。


 やがて体が沸騰するように熱くなる。

 全身が炭酸水になったみたいに体内から気泡が浮かび上がり、高まった力が一気に弾けた。


「スラァーッ!」


 横溢するエネルギーに思わず咆哮を上げ、それと同時に〖進化〗は完了したのであった。



~非通知情報記録域~~~~~~~~~~~

・・・

>>不破勝ふえとう鋼矢こうや(ラフストーンスライム)が〖進化〗を開始しました。

>>種族がジュエルスライムに変化しました。

>>〖進化〗に伴い〖スタッツ〗が変化しました。

>>〖スキル〗が追加されました。

・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る