第40話 中二病(SIDE:夜)
東京に住み、上場企業に勤めるごく普通のOLだった夜神里緒奈は、しかし、一つだけ普通ではない点があった。
それは、極度の中二病だということ。
どこをどう間違えたのか、彼女は社会人になっても、自分は特別な存在なのだと信じ切っていた。そんな彼女は、仕事帰りの道で、通り魔に襲われていた小さい子供をかばい、通り魔に刺されて死に、女神によって『プレイヤー』に選ばれた。
「リオナ、あなたはレアルタ大陸に転生し、魔王を倒すのです」
「くっくっく、ついに我が真の力を見せる時が来たというわけか。女神よ、魔王を倒すかわりに、一つ条件がある」
「条件? まあ、一応、希望を聞くだけ聞きましょう」
「うむ。我は、普通の人間におさまるような存在ではないのじゃ。すなわち、転生させるのであれば、それなりの『器』を用意してもらわねばならん」
「器……?」
「ああ。我にふさわしい肉体……不死身のヴァンパイアという器じゃ」
「不死身ですか……面白い。たまにはそういうのも面白いかもしれないですね。いいでしょう。リオナ、あなたはヴァンパイアの真祖として転生し、魔王を倒すのです」
そして、彼女は転生した。
不死の女王、リオナ・ブラッド・アルカルドとして。
彼女は転生してすぐ、あっさりと魔王を殺した。
『プレイヤー』としての力と、不死身の肉体。それはまさにチート級の反則的な強さであり、彼女はその強さに魅入られていた。
よりエキサイティングな戦いを求めて、彼女は世界各地を巡り、ほかの『プレイヤー』を殺していった。勇者を名乗っていた者たちも、彼女によって次々と死んでいった。
それによって世界は混沌と化し、第二、第三の魔王が出現した。それもまた『プレイヤー』であり、次々と彼女によって滅ぼされていった。
「まったく、ザコしかおらんな。我が強すぎるのかもしれんが。ククク」
まさに無双状態だった彼女は、ある時、魔女の森に住む女の噂を聞く。
伝説の魔女と呼ばれ、恐れられる存在。
強い敵がいなくなって退屈していたリオナは、早速、魔女の森に向かった。
森の中で謎の黒いペガサスがいきなり襲いかかってきたので、アッサリ返り討ちにすると、彼女の前に『傍観者』と名乗る赤い髪の女――オルルカが現れた。
「リオナ。あなたが自分を特別な存在だと思うことは、何も悪いことではありません。誰だって、自分の人生の中では、自分が主人公なのですから。でも、『世界』と戦えるほど、あなたは特別ではないのですよ」
「世界と戦う、か。面白いではないか。傍観者とやらを殺したら、何が起きるのか楽しみじゃ」
「……後悔しますよ」
オルルカのその言葉を無視して、リオナは彼女を斬った。
その瞬間。
リオナの視界にノイズが走り、それからすべてが真っ暗になった。その闇の中で、オルルカの声が聞こえて来た。
「世界は書き換えられました。あなたは封印され、運命が変わることがなければ……あなたは300年、孤独な世界をさまよい続ける。さようなら、リオナ。300年後の世界で、またお会いしましょう。あなたが正気だったら……」
それから300年、暗闇の中で孤独な時間をひたすら過ごしたリオナは、転生前の記憶は完全に失った。それでも彼女がギリギリ、精神を保ってこられたのは、ただ『世界』に復讐することを求めていたから――。
だが、目覚めた彼女の前に、今までに戦ったことのない、最強だったはずの彼女すら圧倒する強さを持った者が現れた。
――スズ。
「面白い。300年、我慢した甲斐があったというものじゃ。ああ、早くまたスズと戦いたい! できれば、眷属にもなってくれないかなぁ。アイツが眷属だったら楽しそうじゃ。スズ、お主は必ず戻って来るじゃろ!? 我と同じ、戦闘狂のお主なら!!」
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