第39話 『赤 』

「わああああっ!」


 真っ暗な穴に落ちた私は、ひたすら暗闇の中を落下していた。

 なんか知らないけど超深い! 魔王城の下にこんなのがあったなんて!


「へぶうっ!!」


 とか思ってたら、思いっきり顔面から地面に着地してしまった。


 その瞬間、真っ暗だった視界がいきなり真っ赤な炎で覆われた。360度どころか、上も下も全部が炎に包まれて、私の体にも炎が!


「ぎゃあああっ! あつつつぅ――――くない!?」


 全身が炎に包まれているはずなのに、まったく熱を感じない。

 一瞬、頭を打ったせいで私の体がおかしくなってしまったのかと思ったが、体のどこも燃えていないのを見ると、どうやら違うらしい。


「魔法の炎か……」


 たぶん、着地した時に何かしらのトラップを発動させてしまったみたいだが、魔法攻撃であれば私の場合は無効化できるため、無事だったみたいだ。さすが私。


 とはいえ、視界が炎に包まれていて、ぜんぜん何も見えないのは不便だ。


 とりあえず足元に気をつけながら進んでいくと、その炎の中から、大量の不死者が炎を上げながら襲い掛かってきた。


「どこにでもいるな、こいつら!」


 押し寄せる不死者を剣で斬り捨てて進んでいくと、やがて私の前に下に進む階段が現れた。


 地上から穴に落ちて、だいぶ深いところまで落ちた気がするけど、さらに下があるらしい。


 そういえば、魔王城に住んでた頃、城の地下には数百年のあいだ封印されている地下ダンジョンがあるって話を聞いたことがある。ひょっとしたらここがそうなのかな?


 そんなことを思いながら階段を下りていると、また何かトラップを発動させてしまったらしく、天井から大量の槍が降って来た。


「トラップがあるってわかってれば、どうってことないね!」


 私は剣でその槍を叩き折って、さらに階段を下へと進む。


 下の階も不死者が大量にいたので、片っ端から斬り捨てて進んでいく。途中、トラップが発動したりもしたが、物理攻撃(矢とか槍とか鉄球とか)は回避したり剣で叩き壊したりしたし、魔法攻撃については無効化されるので全然余裕だ。


 そんな感じで迷路みたいなダンジョンを進んでどんどん下に降りていくと、ついに一番奥と思しき場所に辿り着いた。

 奥には何かボス部屋みたいなのがあるのかと思っていた、私の期待は裏切られた。

 そこにあったのは、私の腰くらいの高さの、小さな祠だった。


 と、不思議なことに、そこに着いたとたん、私が持っていた魔剣が心臓の鼓動のようなリズムで青白く輝き、それに呼応するように、祠の中でも何かが光った。


 見ると、その祠は何かを封印しているようで、魔法のバリアが張られている。

 普通、こういうバリアはうかつに触るとビリビリとして跳ね返されるものだが、私が手を突っ込むと、逆にバリアの方が一瞬で弾け飛んだ。


「ひええ、やっぱり魔法を無力化する力って反則だよねぇ」


 反則レベルの能力にちょっとドン引きしつつも、私は祠の中で光っていた正体を掴んで外に引っ張り出した。


 それは、形でいえば私が持っている黒い魔剣とそっくりだった。ただ、色が違う。その剣は、全体が血のような赤だった。


 手に持った瞬間、赤い光を放ち、私の中に一つのイメージが流れ込んで来た。

 魔王の間で、魔王に似た男が、この剣で斬られる映像。


「ああ、わかったよ。私の父親が使っていた魔剣なんだね」


 黒い魔剣と違って、20年前まで現役バリバリだったこの魔剣は、魔力も十分のようだ。


「冥府の魔剣……魂を切り裂く剣、か」


 ちょっと残念な気もするけど、こいつの能力を使えば、リオナも殺せてしまうだろう。どうやら、そろそろ幕引きをせざるを得ないみたいだ。


 どこから湧き出してくるのか、また私の背後から不死者の群れが迫ってきた。


「ちょうどいい、あんたらでコイツを試し切りさせてもらうよ!」


 私は黒い魔剣を腰に差すと、赤い魔剣で不死者を斬った。

 斬られた不死者は、たった一撃で粉々になって消滅した。魔剣が「もっと斬れ」と言うかのように、刃が赤い炎をまとい始めた。


「これはいい」


 私はニヤリとして、次々に不死者を一撃で粉砕していく。

 この剣の能力は肉体だけではなく、敵の『存在』そのものを切り裂くことができる。不死者と戦うのに、これほどうってつけの武器はない。


 私は不死者を蹴散らしながら、さっき来た道を逆に辿って上にどんどん進む。

 階段を駆け上がるたび、私のテンションもどんどん上がっていった。


「ああ、早くまたリオナと戦いたいなぁ! 今度こそ、決着をつけるよ!」

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