第23話 告白(SIDE:空)

「まったく、スズは何をやってるんですか!」


 スズが暗黒騎士にトドメをさそうとした瞬間、屋上に黒い風が吹き荒れ、シエルは慌ててゼクスの腕を掴み、屋上から飛び降りた。

 疾風魔法を使い、地上の草むらの上に不時着する。


「あ、ありがとう、シエル。あの嵐は一体……?」

「どうやら、モタモタしているあいだに、さらにヤバイ奴が現れたようです」


 シエルはそれだけ答えて、再び空に飛び上がった。


(やっぱり、最後のボスはこの最強魔女の私がビシッと決めないとダメみたいね!)


 やる気満々で屋上まで飛んで行った彼女は、黒い嵐の中に突撃した。


「わーっ! 思ったより風が強い! 一瞬で目がカラカラに!? もう~私、ドライアイなのよっ!」


 風の中でシエルが必死で目をゴシゴシやっていた時、屋上にいたスズがいきなり吹き飛んできて彼女に激突した。


「ぶふぅーっ!! な、何してるんですか! 危ないですよ!!」


 シエルがスズの腕を掴んでキレ気味で叫ぶと、スズはびっくりしたように目を見開いて、「ごめん」と謝った。


(おっと、つい大聖女キャラを忘れてブチギレちゃったわ。スズをビビらせちゃったけど……まあ、コイツにはビビッててもらうくらいがちょうどいいわね)


「パンドラ、この淫乱女ぁ~っ! 今日のところは見逃してやるけど、次に会った時は容赦しないわよ! 首を洗って待ってろ、バァーカ!!」


 スズがシエルの腕を掴んだまま暴れながら叫んだ。


「ちょちょ、うるさい! 暴れないでくださいよーっ!!」


(なんだコイツはっ!? 頭イカレ過ぎでしょ!!)


 空中でバランスを崩したシエルが急降下しはじめ、掴んでいたスズの腕を離した。


 落下するシエルの視界の端で、スズがゼクスにキャッチされ『お姫様抱っこ』されているのが見えた。


(おいーっ、こらっ! ゼクス!! なんでそっちの野蛮人をキャッチするのよ! しかも『お姫様だっこ』って! さっき助けてあげた恩を――)


「ぶふぅーっ!!」


 シエルは頭から地面に激突し、顔面が半分くらい土に埋まってしまった。


(ゆ、ゆるさねぇ……あのクソ女、やっぱり魔族より先にアイツを始末しないとダメみたいね!)


「おーい、シエル、生きてる?」


 誰かがワキ腹をつんつんしている。


(この声は、スズ! スキありっ! この至近距離なら確実に殺せるッ!! くらえ、虹魔法――って、オイ! 何やってんだ私は!? ゼクスもすぐ目の前にいるのに、人殺しなんかしたら完全にアウトじゃん! 落ち着け私……私は大聖女、私は大聖女!)


 シエルは何とか笑顔を作って答えた。


「だ、大丈夫ですよ、スズさんこそ、ご無事で……ほ、本当に良かったです……」


(本当はくたばってほしかったけどな!!)


 シエルがハンカチで顔の泥を拭いていると、スズとゼクスの会話が聞こえてきた。


「別に謝ることないよ。むしろ、あんたがいてくれなかったら、あのバカップルを二人同時に相手することになっただろうし……」

「スズ……ありがとう! 俺、もっともっと修行して、経験も積んで、レベル上げて、強くなるよ! スズのことをちゃんと守れるように、頑張るから!」


(いやいや、どう考えても勝てたのは私のおかげですよね!? まあでも、私もレベル上げが必要なのは間違いないわね……あの暗黒騎士にも言われちゃったし。仕方ない、私がレベルアップするまでは、スズも盾くらいにはなりそうだし、もう少し生かしておいてあげるか。あくまで、私のレベルアップのためにね!)


「こほん……ごほごほ……うおーっふぉん!!」


 シエルがわざとらしく咳払いすると、ゼクスが近づいて来た。


「シエル、大丈夫か?」

「大丈夫です。一応、要塞都市プルートの奪還は成功したことですし、一度、王都に戻られてはいかがでしょうか?」


(よし、私がゼクスだけ連れて空を飛んで帰ることにしよう。豚女は豚らしく、ノロノロ地上を歩いて帰ればいいのよ。プププ)


「スズはどうするんだ?」

「私は戻らないよ。せっかくここまで来たんだし、このまま奴らを追うから」

「え、追うって……まさか魔王城に行くのか?」

「うん、そうだよ?」


 当然のように頷くスズに、シエルは目を丸くした。


(こいつ、マジでバカなの? たった一人で魔王城に行くって、死にに行くようなもんじゃないの! それにアンタには、私がレベルアップするまで盾になるっていう大事な役目があるのよ!)


「ちょっと、スズさん! たった一人で魔王城に乗り込むなんて、無謀すぎます! あなたも一旦戻って、騎士団と一緒に、力を合わせて挑むべきですよ!」

「いや、いいよ一人で」


(よくねーんだよ、バカ野郎! どんだけ死に急いでんのよ!)


「わかった、じゃあ俺もスズと一緒に、魔王城に向かう事にする」

「「はあああ!?」」


 ゼクスの言葉に、スズとシエルが思わずハモってしまった。


(ゼクスったら……何がどうなったら、そういう結論になるのよ!?)


「ぜっ、ゼクス、王都への報告はどうすんですか!?」

「シエル、報告はお前が通信魔法でやっておいてくれ。それに、シエル」

「ええ、なんで私が報告……はい、それと? なんですか?」

「シエル、こんなことを言うのは、勇者として間違っているかもしれないけど……もし可能なら、キミも俺と一緒に来てほしい。俺にはキミが必要なんだ」

「えっ……!」


 ゼクスのその言葉を聞いた瞬間、シエルは頭が真っ白になり、全身真っ赤になってモジモジした。


(私が必要ですって……ギャーッ! ゼクスったらぁ~スズが見てる前で、大胆なんだからぁ~! 思わず真っ赤になっちゃったじゃないのよっ! もう、不意打ち過ぎでしょっ! でゅふふ、でゅふふふ)


「し、しょうがないですねぇ……わ、わかりました。この大聖女シエル、慎んでお受けしましょう!」


 そう答えたシエルが、チラリとスズを見ると、彼女は何やらガックリした様子で、とぼとぼと先に歩き出していた。


(ぷーっぷっぷ、負け犬は憐れね~♪ さっきの『お姫様だっこ』には一瞬、ヒヤッとさせられたけど、やっぱり、ゼクスのハートは私だけのものだったようね! シエルちゃん、大勝利~!!)


 こうして、それぞれの想いを胸に、勇者パーティは魔王城を目指し、進み始めたのであった。

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