第15話 『一番槍』

 真っ黒な城壁に囲まれた、巨大な要塞。

 私は林の中に隠れてその様子をうかがっていた。まあ、バレバレだと思うけど。


 要塞の周囲を、赤い鎧を着た、翼持ちの魔族が飛び回っている。厳戒態勢って感じ。


「ずいぶん派手な鎧だな」


 隣でゼクスがヒソヒソと声をかけてきた。


「うん、あれはレッドアーマー。魔族の中でも、特に高い戦闘力を持つ精鋭って奴ね」


 赤い鎧は、魔王軍の一番隊のみが着用を許された、精鋭の証みたいなものだ。まあ、私からすれば、どっちにしろただのザコだけど。


「ゼクス、特にあの翼持ちの魔族は危ないから、下手に近づかないようにね」

「そうか……そんな危険な奴とお前を戦わせるわけにはいかないな。ならば、奴らの相手は俺が引き受けよう」


 アホか! せっかく忠告してやってるのに、なんでそうなるんだよ!


 私は鬼兵士を振り返って、軽く手を振った。


「おい、お前」

「えっ、あっしですか!? ひゃっほーぅ、スズ様にお声をかけられたぞ!!」

「うるさい、黙れ! もしゼクスが暴走しそうになったら、お前が責任もって止めろ」

「はい、わかりやした! お安い御用です!」


 お安い御用って……さすがに勇者を舐めすぎでは?

 まあ、どうでもいいか。


「勝手に死にそうになっても、助けないからね!」


 そう宣言して、私は林を飛び出し、黒い城壁に向かって走り出した。


「えっ、おい! スズ、まさか真正面から突っ込むつもりか!?」


 ゼクスがうしろで叫んでるけど、めんどくさいので無視!


 正面突破が、一番いっぱい敵と戦えるから、攻めるなら正面突破一択なのよ!


「貴様が噂の『死にぞこないの戦闘狂』か! 魔王軍の精鋭である俺様たちに真正面から戦いを挑むとは、度胸だけは褒めてやるぜ!」


 レッドアーマーたちがうじゃうじゃと集まってきた。


「へえ、そんな噂があるんだ?」


 私は剣を握り、刃に巻かれた包帯を破り捨てた。

 直後、ぐるりと取り囲んだ兵士たちが、前後左右から一斉に炎を吐き出す。


 私は足元に力を入れ、地面を踏みしめた。

 剣を両手で握って下段に構え――。


「勝手に変なあだ名つけんな、ボケーッ!!」


 横殴りに剣を回転させ、迫る炎を払った。

 竜巻のような突風が吹き荒れ、レッドアーマーたちが防御の姿勢をとる。


 馬鹿めっ!


 私はダッシュして、取り囲んでいた魔族の一人を袈裟斬りにした。

 赤い鎧がバキッと割れて、緑の血が吹き出すと、剣から伸びた青白い腕がそいつの心臓を貫いた。


「攻撃こそが最大の防御だ! 来世まで覚えとけよ、ザコども!」


 一撃一殺。


 私は次々にレッドアーマーを叩き斬り、取り囲んでいたザコどもを一瞬で全滅させた。


「さっすがスズ様! あのレッドアーマーを、いとも簡単に撃破しちまった!!」

「そこにシビれる、あこがれるぅ!!」

「続け続けぇ! スズ様を援護しろーっ! 皆殺しだぁ!」

「ヒャッハー!!」


 鬼兵士たちが悪役っぽい大歓声を上げながら走ってくる。うるせー!


 と。


 バサッ、と大きな翼を広げて、城門の前に巨大な赤い影が降り立った。


「噂通りの化け物だな、我輩が引導を渡してくれる!」

「お前は……」


 たしか一番隊の隊長の……えっと、名前は忘れたけど、まあまあ有名な奴。


「てか、あんたらどんだけ噂好きなのよ、暇人!」


 レッドアーマー隊長が巨大な三又の槍を構えると、赤いオーラが槍から立ちのぼる。あ、これは強化バフだ。


「命知らずの愚か者が! 一子相伝の魔界流暗黒槍術の技を喰らえ! 奥義ッ、凶龍閃!!」


 黒い炎をまとった槍で、目にもとまらぬ連続突きを放つ隊長。

 まあ、私の目には全部、止まって見えるけど。


「じゃあ、今日でその流派は終わりね、残念」


 飛んで来た槍を回避し、三又の部分に三連続攻撃を放つと、槍は隊長の手を離れ、回転しながら遠くに飛んでいった。


「ぐおっ、手がっ……!」

 

 隊長が手をプルプルさせながら後ずさる。


「ありえない……強すぎる……貴様ッ、本当に十三番隊の兵士なのか!?」

「元、だけどね」


 私は一撃で隊長の首を斬り落とした。


「今はただの最強の鬼さ」


 剣から青白い腕が伸び、隊長の心臓を握り潰す。


「うおおお! 皆の衆、スズ様の雄姿をもっと間近で目に焼き付けるでござる!」


 鬼兵士がヨダレを垂らしながら走ってくる。

 だから、私を変な目で見るなっての!


 巨大な鉄の城門を蹴とばして破壊した私は、キモオタの鬼兵士どもに追いつかれないようにさっさと先に進んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る