MとMも出会ったら 2人用台本

ちぃねぇ

第1話 MとMも出会ったら

0:ファミレス近くの駅にて


雅也:あの、すみません

桃子:はい

雅也:違ってたらごめんなさい。アプリのその…さよさんで合ってますか?

桃子:あ、いえ人違いです

雅也:そうですか、すみません…(ボソッと)遅いな

桃子:……あの

雅也:はい

桃子:そのアプリって…StoM(シートゥーミー)ですか

雅也:え…はい、そうです

桃子:(ボソッと)嘘ぉ

雅也:え

桃子:あ、ごめんなさい聞いといて。実は私も今日、そのアプリで人と約束してて、すごい偶然だなって

雅也:マジですか

桃子:はい。でも待ち合わせの時間になったのに全然連絡来ないし、すっぽかされちゃったのかな

雅也:いや、同じアプリで同じ時間に同じ場所の待ち合わせってなんか変ですよ。僕、運営に確認してみます。もしかしたらなにか手違いがあったかも

桃子:確かに。そうかもしれませんね、お願いできますか

雅也:はい。あ、じゃあ長くなるかもしれないしそこのファミレスでお茶でも飲みながら待ちましょう。この駅、野ざらしだしちょっと雨雲湧いてるんで

桃子:そうですね、そうしましょう


0:ファミレスに移動した二人


桃子:声掛けてくださってありがとうございました。あのままあそこでポツンと待ちぼうけは辛かったですから

雅也:いや、僕もアプリの名前出してもらえて助かりました。でもその…あなた

桃子:あ、もこです。ハンドルネーム

雅也:もこさん。僕はまさです。ええっと…もこさんってその、Mですよね?

桃子:あ…やっぱりわかります?

雅也:はい。だから違うだろうなって思いながら声掛けたんですよ。けど、あの駅結構寂れてるし他にそれっぽい人もいないしで、行ってみよっかなって

桃子:まささんもその、同じ属性ですよね?

雅也:はい、Mです。わかりますか

桃子:わかりますよぉ。Sの人ってなんか、オーラが違いますもん

雅也:確かに

桃子:あと、結構時間にルーズな人が多いイメージです。あ、あくまで私の出会ってきた人たちがそういう人多めだったってだけの話なんですけど。だから今回も声掛けてもらわなかったら一人でずっと待ってたかも

雅也:わかります。多少の遅刻なら無連絡当たり前だし、前の彼女なんか、着いて連絡したら「今起きた。眠いから今日無しで」とかドタキャンしょっちゅうで

桃子:ひどい

雅也:でしょう?

桃子:あ、でも私ドタキャンよりも集合時間前に来られる方が嫌でしたね

雅也:え、早め集合ダメですか?

桃子:10分とか15分とかなら分かりますよ、電車の乗り換えがスムーズにいったとか。でも、1時間以上前に来て「着きました」って送ってくる人がいて…「そこらでぶらぶらしてるから適当に来てください」とか続くならわかるんです。でも、「着きました」の一言だけ。これって暗に「早く来い」って言ってるようなもんじゃないですか。めっちゃこっちの行動操ろうとしてません?

雅也:確かに、それはめんどくさいですね。配慮が無さすぎる。相手のこと考えられる人なら「急がなくていいからね」とかつけるし、そもそも着いたって連絡せずに時間潰して待ってるでしょうから

桃子:そうなんですよ!こっちは男性と違って顔洗ってすぐに飛び出せるわけじゃないんです。メイクに最低30分、髪巻いてセットしようと思ったら1時間なんてあっという間です。…可愛いには時間がかかるのに、そこら辺一切くみ取ってくれないんです

雅也:休みなら溜まってる洗濯とか回してるかもしれないし、起きる時間から家出る時間まで、全部逆算して動きますもんね

桃子:そうなんですよ!全部狂うんですよ!なのにそこら辺全然考えてくれなくて!で、急いで会いに行ったら「俺に早く会えて嬉しいだろう」ってオーラバンバンで!

雅也:うわ~萎えますね

桃子:激萎えですよ!全然嬉しくないですよ!というか、Sっ気のある人たちって謎に自分に自信のある人多すぎませんか?

雅也:あ、それめちゃくちゃわかります!「あたしの顔好きでしょう」とか「この声がいいんだっけ」とか、平気で言ってきますよね。プレイの一環だとしてもちょっと引きますよね

桃子:そうなんですよぉぉ!ちょ、ここビールあります!?私話したいこと沢山あるんで聞いてもらっていいですか!?

雅也:飲みましょう飲みましょう!(店員を呼び出し)すいません、生ビール二つ

桃子:あ、枝豆も欲しいです。まささんは他に要ります?

雅也:いえ僕は…っと。失礼、電話が…ん?知らない番号だな。ちょっとすみません

桃子:どうぞどうぞ。(店員に)以上で。お願いします

雅也:(電話しながら)もしもし?…え?あーアプリの。え、手違い?…はい。はい…今いるのは駅近くのファミレスで…はい、じゃあ待ってます。…あ、ゆっくりで大丈夫です。こっち飲んで待ってるんで。…ええ、では(通話終了)

桃子:どうしましたか

雅也:運営からの電話でした。どうやらSとMをマッチングするはずが間違えてSとS、MとMを会わせてしまったようで

桃子:ええ?だからですか

雅也:みたいです。で、今からSの方たち、こっち合流するらしいのでここで待ってて欲しいと言われました

桃子:なるほど。じゃあ飲んで待ちますか

雅也:そうですね。酒の肴(さかな)に愚痴は最適ですし

桃子:違いない(笑)


0:運ばれてくるビール


桃子:あ、ありがとうございます(店員退場)

雅也:(ボソッと)…これが普通だよなぁ

桃子:え?

雅也:あ、いや…とりあえず乾杯しましょうか

桃子:そうですね。じゃあ、この奇妙な出会いに乾杯!

雅也:乾杯!…っと、それで、何の話でしたっけ

桃子:あの謎の自信!ナルシシズムについてです!

雅也:ああ…ナルシストの人、多いですよね

桃子:そうなんです!なんであんなに自分に自信が持てるんですか!?いや、お前の声好きじゃねぇから!声優にでもなったつもりか!「ここが気持ちいいんだろ」とか何耳元で囁いてんのって感じで!

雅也:ああ、それすっごくわかります。正直、鳥肌ですよね

桃子:鳥肌!まさにそう!(だんだんヒートアップして)「これが欲しいんだろ、ちゃんとおねだりしたらくれてやるよ」とか、そんな租チン要らねぇんだよ!入れたのかどうかわかんないサイズ感でドヤってんじゃねぇ!なに悦(えつ)に浸ってんだ私がカラカラなのが見えてねぇのかこん畜生!って感じで!

雅也:ちょ、ちょっともこさん!声が大きいです

桃子:あっ…すみません

雅也:いや、気持ちは痛いくらいわかりますから

桃子:え、わかってくれるんですか?でもその、まささんは突っ込む側なのに

雅也:あ、実は僕男も女もどっちもイケるんで。彼氏がいるときは大体突っ込まれる側なんで

桃子:(食い気味に)その話詳しく!

雅也:その反応、もこさん腐ってますね?

桃子:ご飯3杯は余裕です

雅也:(笑って)僕が男性相手にしててヤだなって思うのは、ゴム着けずにしようとする人ですね

桃子:うわーサイテー。それはSとかMとか置いといて人として最低でしょう

雅也:ですよね。男同士って繋がろうとしたらどうしたって後ろ使うからリスキーな行為なのに、「着けたら気持ちよくないから」とか「着けると中折れしちゃって最後までできないから」とか言い訳してゴム嫌がる人が結構いて。この人たち、感染症怖くないのかなとか頭湧いてんのかなって本気で思うことあります

桃子:湧いてますよ、絶対。でもそれ、男性同士に限ったことじゃないですけど

雅也:もこさんもゴム嫌がる人、いました?

桃子:ザラです。「着けたらイケねぇもん」って。知るかですよね

雅也:マジですか。妊娠したら、とか考えないんですかね。それか責任取るつもりでいるとか?

桃子:そんな考え浮かんですらいないんですよ。できるなんて想定してないからそういう事が出来るんです。まあ仮に?できたとして?そんな無責任なおめえと結婚して責任取ってもらうとか地獄だわ!って思ってますけど

雅也:違いない。いやぁ女性相手でもいるんですね、そんな人

桃子:元カレがそれでした。「つけてよ」って言わないと「忘れてたわ」って。そんなわけないじゃないですか!忘れられます!?

雅也:無理です無理です。お互いに病気持ってなくても常在菌はいるわけで、それを混ぜ合わせる行為なんだから当然危険がいっぱいで。特に僕らなんてほら、出会いにアプリ使ってますから病気持ってない確証すらないわけで…あの薄い膜にどれだけ助けられているか。加えて女性相手でしょう?子供なんか出来たら彼女はもちろん、自分の人生だって180度変わっちゃうわけで、そんな怖いこと欲求で乗り越えられるわけがない

桃子:まささん…!

雅也:失敗が怖いならやり方はいろいろあると思うんです。家でゴム着けたまま一人でシてみるとか、ゴムの薄さやメーカー変えるとか、どうしても滑りが悪いってんならローションに頼ったって

桃子:そうです!そうなんです!そんなあれこれ全部せずに「気持ちいいからナマでしたい。ピル飲めば?」とか軽く言ってくるんですよ、どう思います!?

雅也:うわぁ…ドン引きですよそのセリフは

桃子:まあ、流石に切りましたよね、その一言で。なんでお前の為に毎月金と時間かけて産婦人科受診せにゃならんのかって。副反応、無いわけじゃないのに私の体調は一切無視かいって。やりたいのはそっちなんだからそのための努力と配慮をせぇ!って

雅也:努力って、膜一枚被るだけですけどね

桃子:そうなんですよぉぉ!もう私今、猛烈(もうれつ)に感動してます!男って生き物に絶望しかけてたのでほんと、まささんが光り輝いて見えます

雅也:おおげさです(笑)僕は至極真っ当なことしか言ってないですし、多分そんな男の方がごく稀だと思いますよ

桃子:じゃあ私、もれなくハズレくじを引き続けてきた人生のようです

雅也:(笑って)それを言うなら僕も、もこさんに感動した部分があって

桃子:え?

雅也:ほら、店員さんに「ありがとうございます」って言ってたじゃないですか。あれ、前の彼女に「なんでお礼なんて言ってんの?だっさ」とか言われて凹んでて

桃子:うわぁ…

雅也:「お金払ってんだからお礼なんて言わないでよ、みっともない」って…あ、僕この人無理だってなって。度重なるドタキャンに疲れてたのもあって、「もういいよ、別れよ」ってその場で言っちゃいました

桃子:それはそうなりますよ。もしかして、「いただきます」も言ったらそんな感じでした?

雅也:「ごちそうさま」もです。食事するたびにチクチク「めめっちい」だの「男らしくない」だの言われて

桃子:そんな男らしさ要らないと思います。というかそんなの男らしさでも何でもないですよ

雅也:そう言ってくれて救われます。さっきもほら、ちょっともこさんの声がおっきかったじゃないですか。あ、責めてるわけじゃないですよ?でも注意したらすぐに謝ってくれて直してくれて…僕、それに感動しちゃって

桃子:そんなことに感動するなんて、今までどれだけハズレ引いてきたんですか

雅也:数えたら悲しくなるので止めておきます。2杯目、頼みますか

桃子:はい。あ、私呼びますよ。まささんもビールでいいですか?

雅也:お願いします

桃子:(店員を呼び出し)生二つお願いします。あ、ジョッキ下げちゃってください。ありがとうございます

雅也:やっぱ、いいなぁ

桃子:(店員退場)…まささん、こんなことに感動しちゃダメですよ。当たり前ですって

雅也:その当たり前が出来ない人が多いんですよ…特にS気取ってる人たちは

桃子:あー…確かに

雅也:SMって基本、プレイ中も性質でもそうですけど…信頼関係があるからこそ成り立つものだと思っていて、そこをはき違えた人が多すぎるんですよこの界隈。強気でオラオラで「お前は俺の思い通りに動けばいい」「痛いのが好きなんだろ」みたいな考え方してる人が多すぎて、そうじゃないだろって

桃子:わかります。(ビール到着)ありがとうございます

雅也:(一呼吸おいて)SってサディストのSである前にサービスのSだと僕は思っていて

桃子:サービス?

雅也:はい。ああこれ、男性相手にしてる時あるあるなんですけど、男同士ってやっぱ圧倒的に経験少なくて、得てくる知識元がBLだったりAVだったりするんですよ。で、そういうのってほぼ100%フィクションじゃないですか。初手で感じられるとか絶対ないし慣らさずに突っ込めるわけないし

桃子:当たり前ですよ。一昔前のBLなんてローション無いからって生クリーム塗りたくってましたし。フィクションじゃなかったら怖すぎますって

雅也:もこさん、あなた腐歴(ふれき)長いですね?

桃子:わかっちゃうまささんも相当ですね?

雅也:(笑って)やりたいばっかの男って、こっちのこと完全に見えてないんですよ。ここ触ったら気持ちいいのかな、とかここは痛いのかな、とか、観察すればすぐにわかるのに一切見てない。ただもう自分の得てきた知識を試したいだけ

桃子:わかります…わかりますよぉ…

雅也:首絞めセックスとか、ピンポイントで絞めてくれるから気持ちいいんであって、何の知識もなしにいきなりやられたら苦しいばっかりで恐怖でしか無いんです。でも本にはそう書いてあった、AVでは悦(よろこ)んでたって思ってるから相手のことなんて全く観察せずに実行してしまう。最悪、それで人を殺すなんて想定は一切せずに。…サービス精神あったら、そんなこと起こりえないと思いません?

桃子:間違いないです

雅也:言葉攻めだってこっちのことちゃんと見てくれてたら鳥肌なんか立てずに純粋に嬉しいと思うんですよ。実際に濡れてたら「濡れてる」って言われたら恥ずかしいし気持ち高ぶるし。でもカラカラなんですよ、実際は。見りゃわかるだろって思うけど、見てないんだから分かりっこない。「ここがいいんだろ」って決めつけで擦られても痛いだけで、早く終われとしか思わない。それを本人は満足した気になってる。「よかったろ」って得意げなんですよ

桃子:ああ…刺さりまくって痛いです。ホントに良かったら「もっと」ってせがみますって

雅也:そうなんですよね

桃子:あと、そういう見えてない人たちって自分が終わったら速攻寝ません?

雅也:わかりますわかります。え、僕まだ逝ってないんだけど?ってなりますよね

桃子:ほんそれ!特に女なんて目に見えるゴール見えないじゃないですか。散々奉仕させられた挙句、向こうが果てたらはいお終いって何考えてんだ?ってなりますよ。お前のスティックでなんとかならないんだったら電マとかいろいろあんだろう!何でこっちの為に全力出さねぇんだ!と。しかもそれが連勤明けの貴重な休みだったりすると、あれ、私何のためにここにいるんだ?って虚無感に襲われます

雅也:連勤明け!せっかくの貴重な貴重な1日…!

桃子:わかってくれます!?

雅也:わかりますよ!連勤明けの休みがいかに貴重かわからない奴は万死に値します

桃子:そうなんですよ!疲れてるのくらい見ればわかるんですよ!私げっそりした顔してるんですよ!!それなのに気持ちよくないセックスなんてしたくないんですよ!なのに一切の配慮無しで身体まさぐられて「しよ」ってバカじゃないかと!嘘ついて生理だって断ったら「じゃあ口で」って。口ってなんだ口って!生理痛舐めんなっ!!疲れてんだよ寝・か・せ・ろ!!

雅也:もうそれは埋めていい案件ですよ。男の僕から見ても最低男です、それは

桃子:あ、あと休日って言えば

雅也:まだあるんですね

桃子:尽きませんよ、残念ながら。聞いてくれますか

雅也:もちろん

桃子:…私昔、年下の子と付き合ったことがあるんです。私が26で相手が21、まだ大学生でした

雅也:ほう

桃子:で、学生さんだからしゃーないとは思うんですけど、社会人の忙しさが分からない。そして分かろうとしない。考えすらしない。…その日私またまた連勤明けの休みだったんですけど、彼がどうしても美術館に行きたいって言い出して

雅也:美術館

桃子:なんかイタリアのどーのこーのの高尚な作家さんが展示会してるらしくって、どうしても見たいからデートしようって。結構渋ったんですよ、私、その日5連勤明けだから止めにしない?って。絵になんか全然興味なかったし。でもどうしても行きたいって

雅也:一人で行ってくれって感じですね

桃子:ほんとですよ!…でまあ、折れたんです。年下だし可愛かったから。…でも、デート行ったら3時間美術館の中歩かされて、途中休憩とか無くですよ?かといって会話で盛り上げてくれるわけでもなく一人で見たい絵を好きなだけ堪能してるんですよ。横で能面顔で死んでる彼女に目もくれずに

雅也:うわぁ

桃子:で、その時何に驚いたかって、美術館出た後二人でファーストフードに入ろうとしたんですけど、ほら、ポイントが貯まる店ってあるじゃないですか

雅也:RとかTとか?

桃子:そうそう。その店でも貯まるって書いてあったから会計の時出そうとしたら、彼がにっこにこでスッ…と自分のポイントカード出してくるんですよ

雅也:えっ。会計はもこさんで?

桃子:そうなんですよ!「カード持ってる?なかったら貯めていい?」とか一切聞かずにスッ…って。え、今何が起こってるの?って私頭真っ白になっちゃって

雅也:家族間ならまだわかるけど…友達ですらしませんよそんなこと。だってポイントって要はお金でしょ?それを無言でさらっていくって、泥棒じゃないですか

桃子:そうなんですよ!まあその彼他にもセコイとこがあって、食事代は私が出してましたけど他割り勘してたのに、たまたま大きいお札しかなかったから「とりあえず払っとくね」って言ったらイコール奢られたと捉える人で

雅也:ええええ。食事奢ってもらってた上でですか?

桃子:ええ、ガッツリ食べさせてましたとも!普通立て替えてもらったら、店出た後速攻返すって言い出しません?

雅也:しますよ秒で。向こうから「返して」って言わせるなんてできませんから。コンビニとか自販機探して崩しに行くし、でなきゃ電子マネーで送金とか

桃子:違うんです。彼の中では奢られたことになってるんですいつの間にか

雅也:うわぁ、イリュージョン

桃子:で、何が強烈だったかって

雅也:まだ続きあるんですか

桃子:ありますよ、心して聞いてください

雅也:怖いなぁ

桃子:家帰ってベッドに飛び込む私に、ラインが飛んできたんです。「あの作家の絵が見られるなんて最高だったよね!これで明日からの仕事も頑張れるね!」って

雅也:……は

桃子:もう私フリーズしましたよ

雅也:そりゃフリーズしますよ。え、だってもこさんその作家さんに興味なかったんですよね

桃子:1ミクロンも!なんなら家でずっと寝てたかったですよ!せっかくの貴重な休みですよ!?

雅也:ですよね!?それなのに「付き合ってくれてありがとう」でも「疲れてたのに無理して付き合わせてごめんね」でもなく「絵が見れてよかった」!?どんな感性の持ち主ですか!

桃子:ね!彼はきっと宇宙人なんだって、私…今でも思ってます

雅也:それは、なんというか

桃子:たまにうちに来てもヤリたいばっかりで、そのくせまあ経験ないから下手なんですよ。でご飯とか作るときも本人実家暮らしだったから一切動かない。自動的に出てくると思ってる。お茶すら淹れない。急須の場所が分からないとかじゃない、淹れるという発想がそもそもない。後片付けも当然手伝わない。食べてすぐにしようって乗っかかってくる。バカじゃないの。加えてその美術館デート。いくら年下って言ったって心折れて、後日お別れすることになりました

雅也:そこまで来るともはやホラーですよ。ほんとにお疲れさまでした

桃子:いえいえ。ってこれじゃあSとかMとかじゃなくて単純に過去の恋愛の愚痴になっちゃってますね

雅也:確かに。…あの

桃子:なんでしょう

雅也:これはふとした疑問…というか確認なんですけど

桃子:はい

雅也:もこさんってSっ気のある人でないとダメなタイプですか?

桃子:え?

雅也:いや、お話を聞くに変にハズレくじばかり引いてる気がして…別にSにこだわりがあるような感じじゃなくて

桃子:あー…そうですね、正直属性とかどっちでもいい気がします。このStoM(シートゥーミー)も出会い系アプリの中から変わり種試してみよっかな、くらいの意識で入れただけで…正直、今日も変な人に当たったら退会しようかな、くらいに考えてましたから

雅也:…実は僕もなんです

桃子:え?

雅也:Sな人がいいって言うのは、Mってどっちかっていうと受け身なイメージじゃないですか。デートプラン丸投げ、とか、それこそセックスの時にマグロなイメージって言うか

桃子:それは確かに

雅也:だからどっちかって言うとSの人とマッチングしたかっただけって言うか。でも、もこさんと話してて思ったんです。僕、SとかMとかよりもまず、ちゃんとした人とお付き合いしたいって

桃子:あー…

雅也:えと、僕はこのアプリで身体だけの関係でもまあいいと思ったし、相手の熱量があるならそれ以上のちゃんとしたお付き合いもありだと考えてたんですけど、もこさんは?

桃子:私も…シたいって思いはそりゃありましたけど…いい加減、ちゃんとした恋愛にも憧れてました

雅也:僕なんて、どうでしょう。あ、もちろんお友達からでも構いませんし、その、相性確かめてからでも…って、それはなんかしたいだけみたいでやだな。ええと、だから

桃子:…いいですね、それ

雅也:え

桃子:少なくとも、変なとこに変だ!って思える感性は一緒だって思いましたし、それに…実は、まささんの顔、ちょっとタイプだったんです

雅也:ほんとですか

桃子:はい。だから…このビール飲んだら、移動しませんか?私の家、こっから3駅なんです。お互い、相手にされてみたかったこと試してみませんか。M同士ってことは、してみたかったこともされてみたかったことも結構あると思うんですけど

雅也:それは…最高の夜になりそうです

桃子:はい。最高の朝を迎えたら、連絡先交換しましょう

雅也:はい。じゃあ、もう一度乾杯しませんか

桃子:そうですね

雅也:この奇跡の出会いに…乾杯

桃子:乾杯

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

MとMも出会ったら 2人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ