『デート』でいい?
「ごちそうさまでした。とっても美味しかった!」
「ほんとですか?それは良かったです」
私と根岸さんは二人で食べ終わった食器を洗った。
つい先程まで甘えたさんだった彼女の面影は無くて、ただ今そこにいる彼女は正にギャルの如し快活な女の子だった。
「それじゃあ、ご飯も食べたことですし。私はコインランドリーに行ってきますけど、根岸さんも一緒に行きませんか?」
「あ、うん。じゃあ行こっかな。え、てかこの格好で?」
根岸さんが自身の着ている服を指さして言う。
「? そのつもりですけど。何か問題が?」
「い、いや。問題と言うか、それこそ問題しか無いというか」
「??」
根岸さんは何を懸念しているのだろう。
私のルームウェアを着た根岸さんは、女性の私から見ても非常に可愛らしい。
紫と白のボーダーのパーカー。
肌触りはもこもこで、思わず抱きしめたくなるような触れ心地。
+αでフードにはウサギ耳である。
下のハーフパンツもパーカーとセットのもので、同じようにもこもこ。尾骨の辺りにはウサギの丸っこい尻尾がついている。
私のお気に入りだ。
ますます、根岸さんがその格好で外に出ることの何を懸念にしているのか、分からない。
「何かおかしな点でもあるでしょうか?」
「いや、え?旭川おねーさんは、自分の格好とか、それで外出ることとか、恥ずかしくないの??」
「はい。ちっとも」
私が着ているのはパジャマ。
お風呂上がりだから当然である。
ピンクに白のチェック模様の、割とシンプルなデザインのパジャマ。
けれど、胸の部分にワンポイントでハムスターの刺繍が施されている。
私の中では一番人気だ。
これで外に出ることの、いったい何を恥ずかしがれと?
私が首を傾げていると、根岸さんは目線をキョロキョロ。口をあわあわとさせて。
ひとしきりパニックになった後に、落ち着きを取り戻して私に言った。
「じゃあもう、いっか。ほら、行くなら早く行こっ。旭川おねーさん」
「え、えぇ。そう、ですね?なんだか無性に引っかかりますけど、行きましょうか」
根岸さんは私の手を引いて。
私は洗濯物が入った籠を持って。
もうすっかりと暗くなった4月の夜。
19時30分の夜の世界へと飛び出した。
「ところで、根岸さん根岸さん」
「んー?」
「ここら辺にあるコインランドリーの場所、分かってて私の前を進んでいるんですか?」
「…………んん?」
「いや、だってほら、随分と我が物顔で突き進んで行くものですから」
「いや、ごめん。知らないけど」
「……………………そうですか」
私は根岸さんの隣に並んだ。
自然な動作で籠の二つある持ち手のうち一つを根岸さんが持った。
こういう、さりげない優しさを、心が壊れかけた彼女がまだ持っていることに、やっぱり私としては込み上げるものがある。
「そういえば」
「今度はなに?旭川おねーさん」
「それです、それ。もう一つ聞きたいことがありまして。その、おねーさんという呼び方は、いったい?歳も一つしか離れていませんし、呼び捨てでも構いませんよ?」
「いや、アタシが構うから。アタシ、高校には行ってないからさ。なんか先輩って呼ぶのも学生じゃないのに、おかしな気がして」
「そう、ですか。…………でも、それはそれで確かに、良いかもしれませんね。私、一人っ子なので妹弟が欲しかったんですよ」
「お?じゃあ、おねーさんよか、旭川おねーちゃんのが良いかな?」
「ふふふ。どちらでも、お好きな方で呼んでください」
私としては、後者が良いと思ったけれど。
結局は私と根岸さんの関係も、今夜あと少しのタイムリミットだ。
…………もう少しだけ、彼女と離れたくない私がいる。
…………もうこれ以上、彼女を苦しませたくない私がいる。
…………このままいっそ、根岸さんに同棲という提案をしてしまうのも有りかもしれない。
「じゃあ、アタシのことリードしてね?旭川おねーちゃん!」
私の中で、まだ燻り始めたばかり気持ちが迷走を始めた。
◇ ◇ ◇
「いやー、本当にどうもありがとう旭川おねーちゃん」
「いえいえ、別にこれくらい。私の溜めてた洗濯物のついでですし」
「それでも、だよ。今日は、本当にありがとう」
お互いに、目を合わせない。合わせることが出来ないのだ。
ランドリーでの待ち時間。60分のうち最初の方は仲良くお互いに笑顔で会話が弾んだ。
でも、時間が経つに連れて。
笑顔は少なくなる。
根岸さんも気付いているんだ。
もうすぐ、お別れの時間だと。
「荷物はありますけど、少しコンビニに立ち寄っても良いですか?」
「え?」
「先程、卵を無駄にしてしまって。少し高いですけどコンビニでも今では卵も売ってますから」
「うん!いいよ!行こっか!!」
あと、もう少しだけ。
彼女と別れたくなくて。
だけど、そんな私の内心を知らずか、根岸さんは夜なのにも関わらず太陽みたいな笑顔を私に向けてくる。
「なんだか、二人っきりだと『デート』みたいだよね!」
「デデデ、デート!?」
「うん、デート!」
「コインランドリーとコンビニに行くことが、デートとして成立しているのか疑問ですけど」
「成立するよ!だって、アタシと旭川おねーちゃんがどう思うかで、それはデートに変わるんだから!!」
……なるほど。
じゃあ、これはデート、なの?
今までお付き合いしたことが無いものだから、もちろん『デート』だって初めてだ。
「でも、これが私の初めてのデートですか。私らしいと言えば、らしいですが。それでも、少しロマンチックなデートにも憧れてしまいます」
「じゃあさ!!」
根岸さんがグッと顔を近づけてきた。
私と彼女の距離が半歩分狭くなる。
「明日も!明後日も!デートをしようよ!!何処かに行っても、きっとアタシ、旭川おねーちゃんと一緒なら楽しめる気がするし。それこそお家デートでも全然良い!!」
この言葉を聞いて、私はストンと心の中の燻っていた気持ちが妙にあっさりと落ちた感覚を得る。
彼女を助けるためには、きっとこれが私が出来る最大の手段。
「では、根岸さん。一つ提案なんですけど――
―――私と一緒に暮らしませんか??」
出会って一日にも満たない関係。
けれど、彼女の心は確かに、私に助けを求めているのだから。
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本作品は如何がでしょうか。
素敵なレビューもいただけて、とても嬉しいです。
私事ですが、百合関連でみさきと盛り上がりたいよって方々。
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えっちぃですけど、みさきの妄想って小説のURLを貼る予定です。(5/15)
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