23話 地雷少女古賀

古賀は、目を見開いた。リーベルの腹に鋭い刃が突き刺さっていた。


刃の先にいたのは…


「な、なんで? ニシちゃん…。」

 

無表情で立ち尽くす丹心川の姿だった。

 

「リ、リーベル! 」

 

ドサリと地面に落ちるリーベルを支える。古賀は理解できなかった。何故、こうなった。何故、丹心川がリーベルを刺した。いや、違う。先程までそこに立っていたのは、古賀だ。丹心川は確かに古賀を狙って刃を突き刺したのだ。

 

「どうして、どうして! 」

 

「あーあ。失敗しちゃった。」

 

「ニシちゃん! なんで? どうして? 」

 

「なんで、なんで、うるせえなぁ! 」

 

突然現れた褐色の男、ブルームが古賀の顔面目掛けて蹴り上げた。咄嗟に受け身を取った古賀だったが、その威力に耐え切れず、地面に転がった。

 

なんとか体制を整えるが、状況が掴めない。丹心川の傍にはブルームがいる。なぜ、丹心川が悪魔側にいるのだ。

 

「ニシちゃん、どうして? 」 

 

「どうして? どうしてだと思う? 」

 

「古賀が、ニシちゃんの分まで書いちゃったから? 」

 

「ふふっ、そう。そう。それだけだと思う? 」

 

「え? 」

 

丹心川は無表情から一転。にんまりと目を細め笑う。古賀を心底馬鹿にしたように笑う。

 

「古賀のね、存在自体が私ダメなんだ。だって、そうでしょ? ぶりっ子だし、いい子ぶるし、才能があるくせにそれを隠そうとするし、でも全然隠れてないし、人が気にしてるところ平気で口にするし、綺麗ごとばっかり言うし。嫌いにならない理由ある? 」

 

古賀はその場に固まる。丹心川からこんなに嫌われているとは思っても見なかった。確かに喧嘩することは多々あった。この前だって些細なことで喧嘩した。だけど、これほど修復不可能なまでに嫌われているなんて知らなかった。

 

「私がね、古賀の傍にいたのは、そうした方が私の好感度が上がるからなんだよ。古賀が自由奔放なおかげで先生からも評価貰ってた。でもね、それももう限界になった。


確かに旗に文字を書けなかっただけのことなら、怒ったりしない。ましてや、古賀を殺そうなんて思わないよ。でもね、でも、もう我慢の限界なの。だって、そうでしょ? 仕方ないでしょ? いつもいつもいつもいつも、目障りなほど煩くて、天然のふりして、人を見下してる。私は凄いんですとでも思ってるわけ?


ああ、気持ち悪い。

嫌い嫌い嫌いよ、あんたなんて。


でもね、私だけじゃないんだよ。よく考えて? なんで、古賀の周りばかり悪魔に落ちそうな人が多いのかを。ね? 分かるでしょ? みんな古賀に鬱憤溜まってるの。だから、みんな負の感情があふれ出る。そして、悪魔たちが近寄ってきて、悪魔の囁きを受け入れちゃうの。



全部全部全部、古賀のせいなんだよ?




でも、みんなは古賀との付き合いが短いから、知能のかけらもない悪魔に変貌していく。恨みも少ないからね。


ただ、私は違う。



古賀のこと、大っ嫌いなのに一緒にいたから、恨みも悲しみも、苦しみも、怒りもたくさん、たくさん、たくさん集まった。だから、黒いモヤに飲み込まれなかった。ありがとう、古賀。古賀のおかげだよ。初めて、私のためになったね。」

 

クスクス笑う丹心川。古賀は全身力が抜けて、膝をつく。そう、不思議だった。なんで、人間は世の中沢山いるのに、古賀の周りの人ばかり悪魔に落ちかけるのか。不思議だった。なんでだろうと思った。思ったけど、考えないようにしていた。考えることを恐れていた。

 

「ニシちゃんは、古賀と一緒にいるの嫌だったの? 」

 

「当たり前でしょ? 私ね、あんたみたいな女、









        地雷なの






                   」

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地雷少女古賀 @ziraishouzyo_KOGA

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