第23話『表彰状をもらって、公認に!?』

 ここここれは、緊張しているとかそういう簡単な話じゃない。


 全校生徒が体育館にぎゅうぎゅう詰めとなっているわけだけど、先生達が並んでいる壁際の列に私は並んでいる。

 一番近くの列に居る人達から、時折注がれる「なんでそこに居るの」という無言の疑問。

 私はこれからみんなの前で賞状をもらっちゃうんだよ、なんて言えるなら言ってしまいたい。


 久しぶりの全校集会だからか、校長先生がいろんなことを長々と話してくれている。

 普段は早く終わってほしいと思っているけど、今日だけは本当にありがたい。


「すぅー――ふぅ……」


 アイドル活動をしている時でさえ、こんな沢山の人の前に立ったことがない。

 心臓の音がうるさいぐらいに聴こえてくるし、手汗ががががが。


「――では、そろそろ今回の集会を開いた所以である表彰式に移っていこうと思います」


 いよいよこの時が来てしまった。


霧崎きりさき美夜みやさん、登壇してください」


 手に汗握ったまま、手と足が同時に出ているかもしれないという懸念を抱えながら、一歩一歩とぎこちなく歩き出す。

 緊張のあまり、みんなの方は振り返って確認はできないけど、間違いなく私に視線が集中していることでしょう。


 校長先生のところまでたどり着いて、姿勢をピンと伸ばす。


「霧崎美夜さんはこの度、とある人物をダンジョンという危険な場所にて救助しました。その姿は勇敢で、危険を顧みず身を挺してモンスターと戦ったと聞きました。ですので、今回は冒険者組合より探索者栄誉賞を授与する運びとなりました」


 これで、私が探索者として活動していることが知られてしまった。

 別に隠しているわけじゃないから、こういういい知らせで広まったことはよし。

「よく頑張りました。おめでとうございます」


 校長先生から賞状を差し出され、少し踏み出して受け取り――少し下がってお辞儀をする。


 後ろのみんなから盛大な拍手が耳を叩く。

 それに応えるよう振り返って、頭を下げる。


「それでは霧崎さん、降壇して大丈夫ですよ」


 校長先生の言葉通り、私は尚も緊張した足取りで元の位置まで足を進めた。


 たぶんこの間、たったの数分ぐらいだったんだと思う。

 だけど体感では時間の経過がゆっくりにしか思えなかった。


 いやぁ、これからどんな感じに変わっちゃうんだろう。

 草田さんに言われた通り、嫌みを言われたり嫉妬されちゃったりするのかな。

 私だけならいいかもだけど、美姫も嫌な思いをさせたくわない。


 もしもそうなったら、もう学校には通えなくなっちゃうのかな……。




「授業が始まる前ギリギリで呼び出しちゃってごめんね」

「いいえ、間に合えばたぶん大丈夫です」


 全校集会が終わった後、校長先生の部屋に呼び出された。


 校長先生の席、お高そうな机の上には勝克かちかつ大鷹おおたかという名前が記されたプレートが置かれている。

 呑気に部屋中を見渡している余裕はないけど、なんだか管理長の部屋もこんな感じだったような。


「2つほどあるんだけど、どちらも簡潔に伝えるね。霧崎さんは驚いちゃうだろうけど、こちらはあんまり気にせず進めるね」

「は、はい。わかりました」

「じゃあまず1つ目。実は、とある企業様から提供いただいて霧崎さんが活躍している姿を観させてもらったんだ」

「え」

「あの姿には感じるものがあってね。本当は全校集会をせずに表彰式を執り行ったほうがいいと思ったんだけど、ああいう感じになったというわけだ」

「なるほど、そういう経緯があったのですね」

「その話をいただいたときは、映像を流したほうがいいのではという話もあったのだが……それはさすがに霧崎さんのプライバシーを考慮してね。だけど霧崎さんがよしとするなら、いつかは流したいなと考えている」


 とりあえず、その私が知らないところで録画されているものを観てみないとなんとも言えない。


 ダンジョンで男の人を助けた時の話なんだろうけど、どこからどこまでで、どんな感じに私は映っているんだろう……?


「その映像って、私はどんな感じに映っているんですか……? ヤバそうじゃないですか?」

「若いこの基準がわからないから、そのヤバさってのは判断できないのだが。大人数に見られても問題はないとは思うよ。むしろ、あれをお蔵入りにしてしまうほうがもったいないぐらいだ」

「そ、そうなんですか? なら、私的には別に問題はないです」


 たぶん、草田さんがこういう話を持ち掛けられたら、「売り出しのチャンス!」と言っているだろうから私も少しは貢献しないとだよね。

 というか、そもそも自分のことだし。


「そう言ってもらえるとありがたいよ。このことは企業様にも話を通しておくけど大丈夫かな?」

「はい。悪用だけされなければ、私はなにも問題ないです」

「わかった、ありがとう。そして2つ目なんだけど、その企業から配信機材の提供を受けてね」


 校長先生は引き出しに手を伸ばして、紐状のものを取り出した。


「いまいちこれがどんなものかはよくわからないんだけど、配信? というもので使えるらしい。なにやら最新技術で作られたものらしくて、ダンジョン内でも配信することができるとかなんとか。霧崎さんって、配信業もやってるの?」

「え、あー……それは」

「まあ、この学校はアルバイトをしても大丈夫だし、なにも問題はないんだけどね。なんなら、有名になってくれる分にはじゃんじゃんやってくれていいからね。できれば学校を宣伝してくれるともっとありがたい」

「あはは……有名になれたら、その時は」


 言った通りで、今の私にはなにも知名度がないから、これぐらいの返事しかできない。


 そしてアイドルのことを言うのを躊躇ってしまった。

 人気がないから、自信がないから、たぶん。


「取扱説明書的なのは後からデータで送られるらしいから。霧崎さんのお知り合い? 関係者の人? 宛に送られるらしい。――ということで話は以上」

「わかりました。それでは失礼します」


 一礼をした後、受け取ったペンダントのようなものを上着のポケットに入れて部屋を後にした。

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