第22話『表彰式って……本当ですか!?』

「おはようございます草田さん。今日は珍しいですね」

「話しておかないといけないことがあってね。登校前に軽いドライブにでも行きましょう。もちろん、学校までちゃんと送り届けるわよ」

「わかりました」


 草田さんが扉を開けてくれて、私は車に乗り込んだ。


「車で学校まで送ってもらうのなんて、凄く久しぶりです」


 運転席に座った草田さんに向かって、ついそんなことを言ってしまう。


「この一回で、楽なことを覚えちゃダメだからね」

「ふふっ、大丈夫ですよ。ちゃんと体力トレーニングをやっていますから。――それで、お話ってなにかあったのですか? もしてかして、悪いお知らせだったり……?」

「いや、全然そういうわけではないの。どっちかっていうといい話よ。でも、美夜ちゃん的にはかなり驚いてしまうかもだけど」


 ここ最近でいろんな驚くことがいっぱいだったから、これ以上のことと言われるとなんだろう?


 考えても考えてもわからないから、目線を斜め上につい首を左右に曲げてしまう。


「現実味のない話だとは思うんだけど……これから、学校で美夜ちゃんの表彰式が行われることになったの」

「え? 私が表彰式ですか? なんのですか?」

「えーっと……実は私、ある人を経由して美夜ちゃんが活躍していることを耳にしたの。――ダンジョンであの人を助けた話とか、ね」

「あれは……」

「うん。あの日、美夜ちゃんが話をしたそうにしていなかったから私も深追いしなかった。でもこんなに凄いことをしたのなら、少しぐらいは自慢してくれてもよかったのに。と言っても、美夜ちゃんのことだからどうせ私達に心配をかけないようにとか考えていたんでしょ?」

「……はい。今まで黙っていてごめんなさい」

「いやいや怒ってるわけじゃないから」


 どうせ私が黙っていれば、誰にも心配をかけずに時間が経過するとともに草田さんも忘れてくれると思っていた。

 だから今、こうして真実を語られるとブワッと鳥肌が立ってしまう。


「まあそんなこんなで、助けてもらった人が恩を返したいってことでいろいろと行動して私を探し当てたって感じなの。その流れで賞状と副賞付きで」

「なるほど、そういうことがあったんですね。なら、もう断ることもできない感じってことですね。なんだか商店街で福引で1等賞を当てた気分です」

「それいいわね。実質、そんな感じよ。副賞がとんでもなくデカいから。私達の今後も左右するほどに」

「え、なんですかそれ。物凄く気になるじゃないですか。草田さんだけ知ってるのズルいですよ」

「ふふっ、こればっかりは開けてビックリ玉手箱ってことで」


 草田さんは悪戯にわらっっているのが、バックミラーを通して見えている。


「ただ……先方に意見を尊重して、全校生徒の前で賞状を渡されることになっているんだけど」

「えぇ!? なななななんでそうなっちゃったんですか!? そういうのって、ひっそりと校長先生のお部屋でやるものじゃないんですか!?」

「いやね。私も美夜ちゃんが言うように、細々とやってもらえないか交渉してみたんだけど、その後のことも考えてそうなっちゃった。ごめんね。超恥ずかしいと思うけど、我慢して」

「うぅ、その様子だと拒否することもできなさそうだし、私にできることがあるとすれば学校を休むぐらいしかない。でも、それをさせないために草田さんが車で私を学校まで送ってくれている。……私が逃げられないように。ですね?」

「あっははー、許ちてっ」


 草田さんの顔は見えないけど、たぶんウインクをしながら舌を出して甘噛みしているんでしょうね。

 いたずらっぽく可愛い感じに笑って。


「そんでもってなんだけど、その時の美夜ちゃんがまさかのまさか、録画されていたみたいなの」

「えぇええええええええええええええええええ!? ろ、録画ですか!?」


 私は超超超驚きすぎて前のめりになってしまうも、シートベルトによってガッと止められる。


「しかも、助けに入ったであろうその時からずっと」

「私、全て録画されていたなんて聞いてませんよっ!」

「ぶっちゃけ、ヤバいわねっ」

「ヤバいわねっ、じゃないですよ! だって事務……所……」

「そう、事務所に所属していたらヤバかったかもなんだけど、打ち合わせを思い出して。今はそこまで気にする必要がないってわけ」

「たしかに、言われてみればそうですね。まさに、打ち合わせをしていた通りで逆に売り出せるって話ですか?」

「さっすが、ものわかりがよくて助かる~」


 初めてこんなことを聴いていたら、たぶん今頃心臓が口から出ていたと思う。

 さすがは草田さんというか、前もって打ち合わせをしていたから助かった。


 そして、草田さんのことだからその録画されているであろうデータをどう使おうか考えているんだと思う。


「とりあえずこれでコソコソと探索者の活動をしなくて済むってことね。まあまだその映像が公開されたとかではないから……まあでも勝手に公開されるようなことはないからスキャンダルとかになることはないわ。来たる時に備えて寝かせておくから」

「なんだかそこまでくると私の頭では追いつけません」

「まあここら辺は大人の戦いだからね」


 草田さんとこんな近くにいるのに、どこか遠く感じてしまう。


「だけどここからは、これからの心構えというか忠告」

「はい」

「当然、表彰式が執り行われるということは、美夜ちゃんがしている活動が公になるということ。別に隠していたわけでもないからそこまで慌てるわけことはないんだけど、注目を浴びることになる」

「高校生で探索者は多くないですからね。しかも女子となるとなおさら」

「そうね。今回はアイドル活動をしているというのは伏せてくれるみたいだけど、まあ気づかれるまでそう時間は掛からないでしょうね。それまでにもう1つの攻め手がほしいんだけど……」

「みんなから探索者についていろいろと質問されそうですね」

「そこで、なんだけど。心構えの話に移るね」

「はい」


 草田さんの声色が一瞬にして様変わった。


「今の時代だからこそって話になるんだけど、ほぼ間違いなく全校生徒の中で誰かはSNSにその件を投稿すると思う。そして、それはマスコミ陣にも伝わって学校まで取材しに来ると予想できる。美夜ちゃんだけだったら私とかがカバーできるんだけど、その手は他の生徒にも及ぶ」

「……私のせいで、他の人たちに迷惑がかかるというわけですね」

「結論から言うとそうなってしまうわね。その結果、嫉妬や恨みとかいろんなものが美夜ちゃんに振りかかっちゃうかもしれない。それが心構え。教師達も同じく」

「私、学校に居られなくなっちゃうんですかね……」


 そんな不安が、つい口から零れてしまった。


「だからこそ、そこら辺は大人の戦いなのよ。そんなことは絶対にさせない」

「草田さん……」

「なあに? 私に惚れちゃった? 1人ぐらいなら養えるぐらいにはお金があるから別に問題はないわよ」

「……もう、茶化さないでくださいよ。アイドルとマネージャーが同棲していたら、それこそ大問題になっちゃいますよ」

「同性だから同棲していてもどうせ大丈夫よ」

「ぷふっ、急に変なこと言わないでくださいよ」

「あわよくば、学校の先生方の采配に期待したいところではあるんだけど……期待するだけ失望してしまうから、そこら辺はあちら次第ね。一応、表彰式だけは関係者ってことで同席はさせてもらえることになったわ。校長先生に感謝ね」

「わかりました。はぁ~~~みんなの前で表彰されるとか初めてだから手汗が~~」


 話が終わるとちょうどよく、学校の前まで着いてしまった。


「じゃあまた後で。私は手続きとかしないといけないから」

「はい、ドッキドキで行ってきます」

「いってらっしゃい」


 人目の付かないところで車から降ろしてもらい、私は手汗を乾かすように両手をパタパタと振る。


 アイドル活動をしている時でさえ、人気がなかったということもあって沢山の人の前に立つことはなかった。

 だけど今日、全然意味合いは違うけどそれが実現してしまう。


「すぅーっ、はぁ~~~~~。よしっ」


 バックバクの心臓の音と共に、校門の方に歩き出した。

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