フラグへし折り部 3人用台本

ちぃねぇ

第1話 フラグへし折り部

【登場人物】

亜美:米花町(こめはなまち)に戻ってきた女、吉川亜美

光子:米花町(こめはなまち)に住み続けている女、津村光子

部長:ありとあらゆるフラグをへし折ってきた女、小玉元子




0:とある大学のキャンパスにて懐かしい人物と再会した亜美。


亜美:みっちゃん!

光子:え……あみちゃん!?

亜美:わー!久しぶりっ!みっちゃんの転校以来だから…10年ぶり?

光子:そうだね、私が8歳の時に転校したから丸っと10年だね

亜美:みっちゃんがまたこの町に戻ってきてるなんてびっくりだよ。

光子:うん、また戻ってきちゃったよ、この…「米花町(こめはなまち)」に

亜美:…みっちゃん?どうしたの?顔怖いよ

光子:そうかな?まだ大学に慣れなくて緊張してるのかも

亜美:わかるー私もここに来る間にサークルの勧誘のチラシいっぱい貰ってちょっと驚いてる。この大学いろんなサークルがあるんだね

光子:独自の同好会とかもたくさんあるよ

亜美:へぇ~そうなんだ。みっちゃん詳しいの?

光子:うん、まあいろいろ調べたから

亜美:へぇ~でも変わったサークル名が多いよね。「命大事にクラブ」とか「救命方法レクチャー部」とか

光子:そ…うだね…

亜美:みっちゃんはサークル入るんだよね?

光子:もちろん!入らないとまずいっしょ!

亜美:う?うん、だよねー友達とか先輩とか作らないと

光子:いや、それもそうなんだけど…

亜美:どうしたのみっちゃん。なんか様子が変だけど

光子:やめて!そんなフラグ立てないでっ!

亜美:え?なに?フラグ?

光子:そっか…あみちゃんは米花町(こめはなまち)から出てないからわかんないのか…

亜美:え、なになに。なんの話?

光子:知らなきゃ知らないままのほうがいっか…

亜美:みっちゃん?さっきから一体何の

光子:でもな…知らないほうが危険ってこともあるし…うーん

亜美:みっちゃーん。聞いてる?

光子:…よし。…あみちゃん!

亜美:え、はい

光子:サークルってもう決めた?

亜美:まだだけど…

光子:じゃあ、私と一緒に見学に行かない?

亜美:いいけど…どこに?

光子:「フラグへし折り部」

亜美:フラグ…へし折り部?


0:フラグへし折り部の部室にて。


部長:ようこそ我がサークルへ。よくここまで無事にたどり着いたね

部長:私はこの「フラグへし折り部」の部長、小玉元子(こだまもとこ)です。君たちの名前を聞いてもいいかな?

光子:津村光子です!

亜美:吉川亜美です。

部長:津村くんと吉川くんだね。君たちがここに来たということは、君たちもこの町の危険性を熟知してるってことでいいのかな?

光子:もちろんです!

部長:そうかそうか。うん、この町で生き抜くためにはそれはそれは大変な心構えをしなくてはならない。君たちも常日頃から

亜美:あ、あのー…

部長:なんだい?吉川亜美くん

亜美:えっと、一体何の話をしてるのかさっぱりわからなくて

部長:え?

亜美:この町の危険性とか、この町で生き抜くとか心構えとか…そもそも、このサークルっていったい何をするサークルなんですか?

部長:まさか、君は何も知らずにここに来たのか?

亜美:はい。えっと、みっちゃんに連れられて

光子:この子、この町から出たことがないんです。

部長:そうか…外の世界を知らなければこの反応も致し方ないのか

亜美:え?

部長:何から説明しようかな…じゃあそうだな、吉川くん。君の家にテレビはあるかい?

亜美:ありますけど

部長:じゃあ君はニュースを見たりするかな?

亜美:時々は。大体バラエティとかアニメばっかり見ちゃうんですけど

部長:じゃあ、最近見たニュースで覚えているものを教えてくれるかな

亜美:最近ですか?最近はおっきいのあったかな…この間の銀行強盗は解決してるし、ビルの爆破予告も偽物だったし

光子:ストップ!

亜美:え?

光子:やっぱりこの子、もう

部長:毒されているね

亜美:え?え?

光子:あみちゃん、この町で銀行強盗ってどのくらいの頻度で起きてるか知ってる?

亜美:え?えーっと…月一くらい?

光子:うん、そうだね、大体そのくらい

部長:では吉川くん。この町の爆発さわぎはどのくらいの頻度で起きているかわかるかな?

亜美:え?確か今月は2件しか起きてないから…

光子:それ!!

亜美:びっくりした!どうしたの?大きな声出して

光子:部長、これは

部長:重症だね

亜美:なんなんですか、二人そろって!

部長:吉川くん。最近のニュースで殺人事件を扱っているものを覚えているかな?

亜美:え?殺人ですか?そんなの一日に2、3件は起きてるし、どれもあんまり覚えてないですよ。あ、一週間前に起きたDEF連続殺人事件なら

光子:あみちゃん

亜美:ん?なに?

光子:あのね、今からとってもショッキングなこと言うんだけど

亜美:何よ、怖い

光子:あのね。…他の町ではね、そんなに事件って起きてないの

亜美:え?

部長:米花町(こめはなまち)と、隣の杯町(さかずきまち)…この二つの町の犯罪発生率は異常なんだ

亜美:どういうことですか?

光子:あみちゃんは殺人事件が一日3件起きてるって言ってるけど、他のところ、例えば愛知とか大阪とか…ううん、同じ東京の中でも、そんなに事件が頻発してるのはここだけなのよ!

亜美:ええ?!だ、だって警視庁に爆破予告とか、ああもうそんな時期かなぁ~って

光子:春の風物詩みたいに言わないで!

部長:いとこが愛知に住んでるが、近所で事件なんて10年に一度も経験してないそうだ

亜美:そんな!でもそれはたまたま、いとこさんが住んでるとこが田舎だっただけで

部長:田舎ではない。あと田舎は平和というのは思い込みだと思う

光子:同じ東京でもね、そんなに頻発しないのよ、爆弾騒ぎ。殺人事件なんて、区内で月に一度あるかないかよ

亜美:え…そんな…じゃあ、この町は…米花町(こめはなまち)は…

光子:超犯罪都市なのよ

亜美:そんな!!この町がそんなに危険な町だったなんて…!でも、私のクラスで一緒だった子誘拐されたけど、無傷で帰ってきてたし

光子:あみちゃん…あのね、誘拐事件ってね、普通に生きてたら出会わない超レアケースなのよ?

亜美:うそでしょ!?小学校のとき2人くらいいたでしょ?クラスに!

光子:ええ、いたわ。そしてそれが普通だと思ってた。いずれ私も誘拐されて、運が良ければ無傷で帰れるんだろうなーと思ってた

部長:津村くんはこの町の出身なんだね?

光子:はい。小学校3年生までこの町に。そのあと父の転勤がきっかけで静岡県に行き、そこで衝撃を受けました。

亜美:衝撃って?

光子:その町に10年住んでたけど…一度も爆破されなかったの!

亜美:ええ!?

光子:ビルも遊園地も、もちろん観覧車の中も無事!「この観覧車に乗って無事に地上に戻ってこられたカップルは末永くラブラブ」なんてジンクスすらなかったのよ

亜美:そんなっ!じゃ、じゃあ遊園地に行くには保険証携帯必須、万が一の緊急連絡先を家族に伝えるって条例は?

光子:なかったわ。中学生のころ友達だけで普通に行って普通に楽しんで普通に帰って来たわ

亜美:殺人事件は?

光子:もちろん起きてないわ

亜美:麻薬の売買は?

光子:一切知らないわ。売ってたのはポップコーンくらいよ

亜美:そんな…

部長:これでわかったろう。この町と、隣の杯町(さかずきまち)は狂っているんだ

光子:私、この町に戻るのほんとに怖かった。一度この町の異常さに気づいてしまった私が、平穏無事な生活を送れるのかなって

亜美:みっちゃん

光子:どうしてもこの大学に学びたい先生がいたから入学を決めたけど、心の中ではずっといつ殺されるんだろう、いつ誘拐されるんだろうって怯えてたの

部長:津村くん

光子:でもね、私たくさんたくさん調べて、そしてついに見つけたの

亜美:なにを?

光子:この「フラグへし折り部」の存在を!

亜美:えぇ?

光子:この「フラグへし折り部」はね、ありとあらゆるフラグを折って折って折り畳んで、回収する前に消し去る術を日夜研究しているの

亜美:はぁ?

部長:そうとも。この超犯罪都市米花町(こめはなまち)に通う学生にとって、フラグの存在はまさに命取り。そんなものを迂闊に立てたら生きて帰れるわけがない!

亜美:はぁ

光子:だからね、私。入学したら絶対この「フラグへし折り部」に入るって決めてたの!ここに入って、ありとあらゆるフラグをクラッシュして私は生き延びるの!

亜美:あーそうなのねぇ…なんかよくわかんない話になって来たから私帰ろっかな…

部長:だめだ吉川くん!

光子:だめよあみちゃん!それフラグ!

亜美:ええ?

光子:なんて危険なことを!

部長:「わりーちょっと電話来たから先行っててくれ」

光子:「付き合ってらんない。私先に帰るわね」

部長:「お?なんだこのガラスの欠片」

光子:「俺、この戦いが終わったらあいつに言いたいことがあるんだ」

部長:「ふっふっ。ああ、いや、まだ話すときじゃないから…あとで話すよ。な、犯人さん」

光子:これら全部フラグ!

部長:まごうことなきフラグ!

光子:こんなフラグが経ったが最後、生存率はぐっと下がる。もう信じられないくらい殴り殺される!

部長:先に帰るなんて言っちゃだめだ!この町でそんな発言…自殺行為だぞ!

亜美:ええ…?

光子:やっぱり連れてきてよかった。このままほっといたら、あみちゃんそのうち消されるところだったよ

亜美:そんな大げさな

部長:吉川くん、君が今生きているのはたまたま偶然事件に遭遇しなかったにすぎないのだよ。いついかなる時に、ついうっかり打ち立てたフラグの前に消え去るかもしれない。

亜美:そっか…そっかなぁ…?

光子:この町の恐ろしさをなめちゃいけないよ

亜美:う、うん、わかった…それで部長、あの、このサークルって具体的にはどのような活動をしているんですか?

部長:そうだね、基本はイメージトレーニングが主かな

亜美:イメトレ?

部長:そう。例えば吉川くんが犯人を示す何かを偶然見つけてしまったとしよう

亜美:あ、事件に遭遇しているところから始まるんですね

部長:吉川くんは壁の隅に丸められてるメモを見つけたらどうする?

亜美:え?そうだなぁ…特段汚れてなさそうだったら、素手で拾ってゴミ箱にでも

部長:じゃあその部屋にゴミ箱がなかったら?

亜美:そりゃ、あとから一緒に捨てるために持ち帰るかなぁ

光子:はいアウトー!

亜美:え?

光子:小さな親切即斬首!

亜美:ええ!?

部長:吉川くんの行動は大変すばらしい。すばらしいが…それは数ページ先に犯人に首を絞められる未来しか待っていない

光子:そうよ!大体事件現場付近に落ちてるもの勝手に拾って持って帰るなんて、警察官泣かせよ!

亜美:あ、そっか、事件現場なのかそこ

部長:いいかい、吉川くん。生き残りたければ余計なことはするな

光子:良かれと思ってとった何気ない行動のせいで数百人という人が亡くなっているのよ

亜美:ええ…?でもそのちっちゃな親切が人との出会いとかに繋がったりもしますよ?

部長:え?

亜美:だって、今の私の彼氏、私が財布を交番に届けたことで知り合ったんだもん

光子:あー…

亜美:すべてのフラグをへし折っちゃうって、例えば「部活のみんな、今日来れないんだってさ。この後どうする?」とか、ちょっと気になってる相手に言われたとき「俺これからバイト!」ってありもしない予定告げるってことですよね?

部長:ああ、まあ。その女が犯人かもしれないし…

亜美:犯人の可能性より、お家で美味しいオムライス作ってくれる可能性のほうが高いと思うんですけど

部長:あ、ああ…

亜美:些細なフラグを打ち立てて回収して、そうして物語は続いていくんですよね?

部長:う、うぐ…

光子:あみちゃん、やめて、それ以上は…!

亜美:全部のフラグをへし折っちゃったら、永遠に一人じゃないです?

部長:ぐはっ…!

光子:あみちゃん!部長のライフはもうゼロよ!!!

亜美:私は、この生まれ育った米花町(こめはなまち)が大好きです。何の疑いも抱かずに18まで無事に生きてきました。その間に彼氏も3人作りました

部長:か、彼氏…彼氏なんて、そんな、私には…一度も…

亜美:私は、フラグをへし折ることがいいことには思えません。ごめんなさい、部長の考えを否定するわけじゃないですけど、私には他のサークルのほうがあっている気がします

光子:あみちゃん…

亜美:ごめんね、みっちゃん。せっかく誘ってくれたのに。でも、この町が変わった町だってことは知れたから、誘ってくれてありがとう

光子:う、うん。変わった町の一言で済ませていいのか、だいぶ疑問なんだけど

亜美:私、他のサークル見て回るね

光子:あ、うん、付き合ってくれてありがと…


0:亜美退場。


部長:そんな…そんな…じゃあ私は今まで…

光子:部長…

部長:あの夏祭りのお誘いがそうだったのか!?あの土砂降りの時の相合傘がそうだったのか?私は…私はぁ…!!

光子:部長っ…

部長:ちょっと…顔を洗ってくるよ…

光子:部長、それはっ

部長:しばらく…一人にしてくれ…

光子:部長!それ…フラグですーーーー!!!

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