地獄の婚活パーティ 5人用台本

ちぃねぇ

第1話 地獄の婚活パーティ

【登場人物】

丸山:実況アナウンサー男(38歳)面白ければそれでいい、を地で行く人。

片桐:補助女(34歳)二股男と最近婚約したばかり。普段は冷静。元ヤンキー。

愛子:婚活女子(27歳)鑑定士

麻里奈:婚活女子(26歳)愛子の婚活仲間。

佐藤:二股男(38歳)年収詐称中1200万。実際は250万程


0:別室にて


丸山:さて、いよいよ始まります「婚活パーティー、ちょっと覗いちゃお!」実況はわたくし、丸山裕貴と片桐はなでお送りします

片桐:片桐はなです。よろしくお願いします

丸山:よろしくお願いします。いやぁ…始まっちゃいましたよ!

片桐:ほんとに始まっちゃいましたね…。よくこの企画通りましたね?

丸山:かなり危ない企画ですよね。顔出しはもちろん、声も名前も一切変えることを条件に、参加者には極秘で婚活パーティーを隠し撮り!

丸山:そしてそれを私たちが別室から面白おかしくはやし立てる!いやぁ~ばれたらいろんな所から怒られそうだなぁ

片桐:怒られるだけじゃ済まないと思いますけど。それに、これを放送するだけでかなり非難ごうごうじゃないですか?撮影許可とか同意書とか取ってませんよね?

丸山:大丈夫です!参加者の皆様はモザイク処理でほんとに姿形もわからない状態になりますし、音声も加工、名前ももちろん表現もところどころ変えますから!

片桐:わー…捏造し放題ですね

丸山:捏造だなんてとんでもない!プライバシーに最大限配慮した結果ですよ!

丸山:…それに、いざとなったらこの企画を持ってきた私の上司の首が飛ぶだけ!そしたら私は昇進するかもしれない!むしろ皆様、クレームどんとこいです!

片桐:それでいいのかしら…

丸山:さぁ、それでは早速参加者たちの様子を覗いてみましょう!カメラさん、会場の様子映しちゃってください!

片桐:どうなっても私は知りませんからね…ええと……女性は…おしゃれな人が多いですね。男性は…チェックのシャツ率たっか!

丸山:チェックのシャツだめですか?僕も週4でチェックですけど…

片桐:だっさ!

丸山:え?

片桐:いや、なんでも。…男性は身なりに少し気を使うだけでモテる可能性大ですから、こういう場には皆さんどうぞおしゃれしていらしてくださいね!

丸山:チェック、ダメですか…?

片桐:あ、あそこの女の子可愛いですね!薄ピンクの上品なワンピースなんて、攻め方知ってますよ!カメラさん、寄ってください

丸山:ダメかなぁ…?

片桐:こんなに可愛い子でも、彼氏できない時はできないんですよね…今って出会いの数が圧倒的に少なくなってますから。ほら、親戚のおばさんが縁談持ってきた、とか普通のご家庭だとなかなか聞かなくなりましたし

丸山:…確かに綺麗な人が多いですね。といっても、姿が見られるのは僕たちだけなんですけど。…音声さん、あの子たちの声拾ってみてください


0:会場にて


愛子:麻里、どう?いい人いた?

麻里:うーん…微妙。てか、いっつも思うんだけどさ…チェックのシャツの人ばっかじゃない?

愛子:わかるー!なんで男ってああいうカッコ好きなの?それしか売ってないの?

麻里:ムニクロ妄信してるよね

愛子:婚活パーティーにチェックのシャツで来たらそれだけではじくって


0:別室にて


片桐:丸山さん、黙って落ち込んでいくのやめてください、カメラ回ってますよ。…チェックのシャツもたまにならいいですから。たまになら

丸山:帰ったら断捨離します…


0:会場にて


愛子:あと、おでこ脂汗でテッカテカな人いなかった?

麻里:いたいた。鼻毛男でしょ?

愛子:鼻毛!確かに!それも気になった!!

麻里:なんで会場入る前に鏡の前で整えて来ないかなぁ…男子トイレには鏡ついてないの?

愛子:きっと鏡がばりんばりんに割れてるのよ

麻里:何そのトイレこーわ!


0:別室にて


丸山:なんか…すごいですね

片桐:そうですか?女なんて男がいないところではこんなもんですよ

丸山:片桐さんもああいう会話されてたんですか?…そういえば最近婚約されたと聞きましたが、お相手の方とはどこで出会われたんですか?

片桐:私のことはいいから映像に集中してください


0:会場にて


愛子:そういえばさ、今日って年収600万円以上の人限定なんだよね?なんかさ、怪しい人いたんだけど…

麻里:怪しい人?何番?

愛子:えっとね…確か7番?8番だったかな?


0:別室にて


丸山:番号呼び!囚人か!

片桐:婚活パーティーってそういうものですよ。一人一人に掛けられる時間は…参加者人数にもよりますが長くて3分、下手したら30秒なんて会場もありますから

片桐:カップル成立発表も「男性3番女性6番!おめでとうございます!」って感じなので、くっついてから相手の名前知ることもザラです

丸山:なるほど

片桐:悲しいのは番号の記憶違いで予想外の人とマッチするケース。少なくないんですよね

丸山:そんなことあるんですか

片桐:それこそザラですよ。…カップル成立後って大体カフェとかで連絡先交換の流れになるんですけど、「間違えましたごめんなさい」で正直に立ち去るのならまだ可愛いものですけど…

丸山:けど…?

片桐:携帯忘れてきた振りして、渡される電話番号とか個人情報だけ聞いて「連絡しますね!」ってフェードアウトしたり、ひどい時には嘘の連絡先渡してその場から逃げたりする人もいますから

丸山:ひえー…それはえげつない。じゃあ待てど暮らせど連絡が取れない男女が出てくるじゃないですか

片桐:ザラですね

丸山:いや~婚活…恐ろしい世界です。皆様はくれぐれもお相手の方に誠実に対応してくださいね!…ところで片桐さん、絶対経験者でしょう

片桐:(無視して)カメラさん、面白そうなのでその二人の女性張り付いててくださいね

丸山:片桐さーん?


0:会場にて


愛子:あれ~…?どの人だっけなぁ…怪しすぎて大きくばってん付けておいたんだけど、そこら辺の男、なし寄りのなしが3人くらい続いてたから、みんなばってん付けてて番号ごっちゃになってるわ…

麻里:わかるわ…。チェック表に少しでも記憶残そうと頑張るけどさ…ないわーって思ってる人続くとめんどくさくて理由省いて×付けちゃって、結局なんで×付けたのか分からなくなるのよねぇ

愛子:…私あんまりひどいパーティー、フリートークの時間に帰ったことあるもん。一個も〇の無いモンスター達とこれ以上一緒にいられるかっ!って

麻里:私も…お腹痛い~とか嘘ついて帰ったことあったなぁ…


0:別室にて


丸山:これってあるあるなんですか

片桐:あるあるですね。…でも褒められた行為ではないので、皆様は絶対途中退室は辞めてくださいね。下手したらそこの主催する婚活パーティーに今後出禁になることもありますから

丸山:なるほど。…言葉の重みが違いますねぇ


0:会場にて


麻里:というかさ、一人一人に掛ける時間なんであんなに短いんだろうね。私、あの時間で顔と名前と番号が一致したことほぼないよ?番号覚えるので精一杯

愛子:顔と名前と番号…絶対マッチしたいって思わなきゃ記憶に残んないよね…そんな人、パーティー10回参加して会えるかどうか

麻里:別に高望みなんてしてないのにね…。「イケメンで金持ちで学歴あって背高い人」とか言わないのに。普通に会話ができて普通に働いてて普通の顔なら大当たりとか…辛いわぁ

愛子:私今日おろしたてのワンピースで着飾ってきたのにさ、しょっぱな当たった人スウェットで来てて絶句したわよ

麻里:いたわ、スウェットおじさん。パジャマか!って思ったもん。…なんであんな格好で来るんだろ?男性の方が参加費高いはずなのに…みすみすお金をドブに捨てるようなものじゃない

愛子:ありのままの自分を見てくださいってことじゃない?でもそういう人に限って、自己紹介カードの「好きな女性のタイプは?」の質問に「笑顔の可愛い人」とか書いてるんだよねー

麻里:わかるーー!!!可愛いは作られたものだから!なんの努力もせずに可愛い子はテレビの中だけだから!そしてそんな殿上人(てんじょうびと)は下界に降りてこないから!

愛子:殿上人まじうらやま。というかドラマの世界まじうらやま。イケメンしかいない世界線ってどんだけ得積んだら行けるの?

愛子:年上のイケメンから迫られ、後輩のイケメンに懐かれ、家に帰ればイケメンの夫が料理作って待ってんだよ?一人でいいから下界に寄・こ・せっ!!


0:別室にて


片桐:彼女たち完全に今回の婚活パーティー捨ててますね。はずれだったんですね

丸山:すごいですね…片桐さんもはずれのパーティーに当たった時はあんな感じに戦意喪失してお連れさんとグチってたんですか?

片桐:ええまぁ…いや、そんなことしません。何言わせるんですか。ここカットしてくださいね

丸山:プロデューサーに伝えておきますから足踏まないでください


0:会場にて


麻里:話それちゃった。で、その怪しい人ってのは?

愛子:あ、そうそう。ほら、ブランドっぽいスーツで身固めた人いなかった?グレーのスーツの眼鏡!腕にホレックスの時計してた人

麻里:えぇ…?いたかな?時計なんか見てる余裕なかったよ?

愛子:年収欄に1200万って書いてた人

麻里:あー!あの人か!マジでっ?てびっくりしたもん。ちょっと年上すぎたからやめといたけど

愛子:やめといて正解だよ。あの人多分、1200万どころか600万も怪しいよ

麻里:え…どうして?ホレックスしてたんならそれくらい稼いでるんじゃない?高いんでしょ?

愛子:だってあれ…偽物だもん

麻里:ええ!?なんでわかるの?

愛子:私、職業鑑定士だよ?言ってなかったっけ?買取専門店で働いてるの

麻里:初耳よ!

愛子:そうだっけ?まあ麻里とする会話って基本、合コンの予定立てるか次の婚活パーティーの日程決めるだけだしね

麻里:婚活仲間だもんね…でも偽ホレックス男か…スルーしてよかったぁ

愛子:年収1200万稼いでる人が偽物のホレックスつけてるって絶対おかしいもん

麻里:確かにー


0:別室にて


丸山:婚活仲間…そんな仲間ができるんですね

片桐:婚活は情報戦ですから。例えば合コンなんかだと、いいなと思っている人が重なっていないことを確認して、その人の情報を何人かで小出しに聞いていくんですよ

片桐:一人でねほりはほりするとしつこすぎて引かれたりしますけど、協力者が何人かいれば引かれないでしょう?

丸山:なるほど

片桐:ちなみに、いいなと思っている人が重なると戦争が起こるので、そこは必ず初めにすり合わせてくださいね

丸山:戦争ですか。…ちなみに婚活仲間がゴールインした場合、その協力関係はどうなるんでしょうか

片桐:関係性にもよりますけど…消えてなくなることの方が多いと思います

丸山:ということは、あんなに仲良さげに喋っている彼女たちも数年後には…

片桐:あくまで一般論ですから

丸山:一般論なんですか?実体験ではなく?

片桐:それよりもその偽ホレックス男、追ってみましょう

丸山:片桐さんノリノリですね。…あっ、だから足踏まないでくださいって~

片桐:7番…はスーツじゃないですね。8番は…え?

丸山:スーツですね。…あの人じゃないですか?偽ホレックス男。…確かにホレックス付けてますね…あれ偽物なんですか?私にはわからないですね…

片桐:圭吾…?

丸山:ん?片桐さん今何か言いました?

片桐:…カメラさん、あの男性に接近してください。早く!

丸山:か…片桐さん?


0:会場の様子を見ながら別室クローズアップ


佐藤:今日のパーティーは当たりです。あなたのような素敵な女性に出会えるなんて。ほんとに彼氏いないんですか?こんなにお綺麗なのに

丸山:どうやら8番さん、熱心にお相手を口説いているようですね

佐藤:出会いなんてありませんよ…仕事ばかりしていたもので

丸山:位置が悪いですね…お相手の女性の声が聞こえません。残念です

佐藤:年収、驚かれました?いやなにちょっと…会社を経営しているもので。…いや、そんな大したもんじゃないですよ

丸山:ほほう、社長さんをされているんですか。そりゃ年収も高いわけだ

佐藤:…いえいえ。大橋さんの得意料理の欄、確か肉じゃがでしたよね。…僕肉じゃが大好きで。それで印象に残ってたんですよ

丸山:肉じゃが!やっぱりいつの時代も胃袋を掴むのは肉じゃがと決まっているんでしょうか

片桐:(ボソッと)あんた…肉じゃがそんなに好きじゃないじゃない…

丸山:ん?片桐さん?

佐藤:僕ほんとに好きなんですよ、肉じゃが。…子供っぽいでしょう

丸山:ギャップ。ここでギャップを発揮してきましたね。年収と好物の対比!稼いでいても庶民の味に惹かれるという気安さ、子供っぽさ…!…この男性、分かってやっているのでしょうか?

佐藤:いつか、大橋さんの肉じゃが食べさせてくれたら嬉しいな…なんて、ちょっと気が早かったですかね?

丸山:この男性やりますね!番号ではなくちゃんと名字で呼んで、あまつさえ将来の話の匂わせる…これはやり手の匂いがしますよ!ね、片桐さん!……片桐さん、聞いてます?

片桐:なんで…

丸山:片桐さん?さっきからどうしました?

佐藤:僕、実はこういうパーティーに参加したの初めてで

片桐:…じゃあ私とはどうやって出会ったって言うのよ

佐藤:こう見えてほんとはすごく緊張してるんです。……ええ?ほんとですよ、信じてくださいよ

片桐:…緊張?まんま同じセリフね

佐藤:投票前にこんなこと言うの、ルール違反でしょうけど

片桐:…このセリフも知ってるわ…

佐藤:僕、あなたの番号を書いてもいいですか?…出来ればあなたとマッチしたいです

片桐:ふふ……ふふふ……一字一句同じじゃねぇかぁぁぁ!!

丸山:か…片桐さん!?

片桐:なにが年収1200万の社長だ?あぁ!?あんたはただの平社員だろうが!40にもなって私の半分しか稼げない平均以下のダメリーマンだろうが!!

丸山:ちょ、片桐さんどこへ!?


0:別室から会場へ飛び出していった片桐。


片桐:圭吾っ!

佐藤:えっ…はなちゃん…!?なんでこんなところに…

片桐:てめぇ婚約者の私がいるってーのにこんなとこに来て…なに、よその女口説いてんだ?あぁ?

佐藤:これは、えっと…その

丸山:片桐さん!ちょ、音声さんカメラさん、片桐さんを止めて…!

片桐:あんた私に言ったじゃない。「こんなに素敵な人に出会えるなんて、僕はなんて幸せ者なんだ」って…あの言葉…そう、嘘だったの…ぜーんぶ

佐藤:いやこれは、その…違うんだよ…

片桐:違う?どこが?なにが?

丸山:ちょっ、片桐さん!落ち着いて!会場のお花握りつぶさないで!!

片桐:こんなところにまで来て、がっつり寄生先変えようってか?ええ?あんたがロクに家に給料も入れず、稼いだ金ぜーんぶ自分で使えるのは誰のおかげだ?ええ?

佐藤:いや~それもこれもはなちゃんあってこそ!はなちゃんは僕の天使だよー!

片桐:黙れ!この腐れ外道がっ…!

佐藤:ひーっ!顔はぶたないでー!!

丸山:片桐さん落ち着いて~お願いだから落ち着いてぇぇ!

片桐:34歳になって結婚焦った私が悪いのか!?婚活パーティーと不毛なラインの応酬に疲れた私が悪いのか!?

片桐:婚活仲間からの度重なる結婚報告に泣いた私が悪いのか!?金がなくても優しいいい人だと信じた私が悪いのか!?

片桐:やっと捕まえた普通の人との普通の結婚生活を夢見た私が悪いのか!?ダイヤなんかいらないわ、あなたがいればいいのって…酔ってた私が悪いのかぁ!?ああ!?答えろやクソ男がぁぁ!!

丸山:あ~もうだめだ…

片桐:婚活パーティーなんざ…くそくらえだ!(佐藤の顔面にグーパン)

佐藤:ぐはっ…!

丸山:…この企画、お蔵入りだわ

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地獄の婚活パーティ 5人用台本 ちぃねぇ @chiinee0207

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