Etude,2「Farewell」

 僕達はリビングで中学時代の卒業アルバムを見ていた。


 写真の下に印字された名前。

 

 ――春山小梅。


 僕には、幼馴染のような名前がない。

「田中」という苗字だけだ。



 ◇◇◇



 朝、携帯のアラームで目が覚めて――またすぐに二度寝をする。


 僕は朝が弱いという設定だから。


 二回目のアラームで起きて、洗面所で顔を洗い、歯を磨く。


 母さんがよく焼いてくれたトーストにバターを塗って、牛乳と一緒に食べる。

 

 毎朝、七時四十五分に幼馴染が迎えに来る。


 一緒に登校して、教室へと向かう。


 君はその道のりで色々な物語の話をしてくれる。


 僕は君の話を聞くのが好きだった。


 いつか僕も物語の登場人物のように、お腹の底から笑ったり、飛び上がるほど嬉しい出来事に喜んだり、自分以外の誰かを自分以上に愛せるようになるのかな?


 君の話に出てくる登場人物達に思いを馳せていると、いつもあっという間に教室へと着いてしまう。


 君は窓側の前から三番目の席。

 僕は廊下側の前から五番目の席。


 僕の方からは君がよく見えた。

 君はいつもそれを「ちょっと羨ましいな」と笑う。



 僕にはその言葉の意味が解らなかった。


 

 ごめんね……。



 小梅ちゃん――僕はね、君が哀しい想いをしているなんて解らなかったんだ。

 

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