Opus,2

 春山さんと一緒に、昼の下がりきった午後をテクテク歩くこと十五分――見知らぬ家へ到着した。

 

 うん、表札は「田中」なので、どうやら俺の家らしい。


 あら、やだ。


 前世より立派なお家前世は木造の平屋だお


 それでもって、春山さんの家はもう少し先にあるらしいが、俺の分の授業ノートを取ってくれていたらしく、俺の体調がもう大丈夫なら宿題まで見てくれるという。


 この子は神か……。

 あっ、なんか春山さんの背後に、燦然と輝く後光が見えるのだが。


 それから俺達は仲良く、時に楽しく、宿題をしたのだった。



 ◇◇◇



 翌日――。

 俺は学校の教室でニマニマしていた。


 それもその筈で。


 な、なんと――同じクラスに鳴神ナルカミ誠也セイヤきゅんがいたのだ。


 ――鳴神誠也きゅん。


 彼は、俺が死ぬ直前までプレイしていたエロゲ『君と僕のデイドリーム』、通称『君デイ』の主人公君だ。


 いやはや、こんなことがあるだろうか?

 いや、普通ではないだろう。

 しかし、重度のラノベ読者だった俺には理解出来る。

 俺は多分――エロゲ『君デイ』の世界へ転生したのだろう。

 

 うん、でもまー。


 彼女を寝取られたショックで、頭がおかしくなった説も捨てきれないが……。


 しかし、今はそんなこと些細なことだ。

 な、なぜなら――隣から、この俺の貧相な鼻に芳しく薫ってくるフローラルな香り。

 そして、運動場に引かれた白線ラインのような糸目を更に細くするほどの眩しい御尊顔。


 そう俺の隣席には『君デイ』でも最難関ヒロインとの呼び声が高い山本ヤマモト凛音リオンがいたのだ。


 ちなみに俺の推しだったりする。


 ごっつ、可愛い。


 い、生きてて良かった。


 と、シュールな事を思いながら、引き続きニマニマするのだった。



 

 ◇◇◇


 

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