第35話 魔法陣召喚だ!


 私たちはホームセンターの品物をいろいろとアイテム袋に詰め込んで、96層へ訪れた。

 なるほど、確かによくよく見てみると、魔方陣は死んでいないように見える。

 赤く色づいているし、わずかに発光も残してる。


「それで、これどうすればいいの?」

「供物を置いて、来て欲しいモノに呼びかければいいですガァ。向こうが納得すれば答えてくれるはずなんですガァ」


 やっぱりこれ悪魔召喚じゃない?

 まあ、魔物がいたり、ダンジョンがいきなり発生したり、ホームセンターを異世界からまるごと呼び寄せるようなとんでも世界だ。悪魔くらいいるか。


「ふ~む? なんでも呼び出せるのかな。リストが欲しいよね、こういうの。ドッペルゲンガーが出てきたわけだし、友好的なドッペルゲンガーとかも呼び出せるのかな」

「どうだろ。呼び出せるの……かも?」

「試してみるか。私のドッペルゲンガーなら、仮に襲ってきたとしても対処可能だしね」


 ということで、呼び出すのは私のドッペルゲンガーだ。

 供物は……電動工具インパクトでも与えておけば、ホイホイ呼び出されてくるだろう。私だし。


「……コホン。じゃあ、いくよ! 我が呼び声に応えたまえ! ドッペルゲンガー!」


 私がそう叫ぶと、魔方陣が輝き、初めてこの階層に訪れた時と同じように一体の人影が魔方陣の上に出現した。

 

 全身が影の中にいるような人影。

 男なのか女なのかもわからない、なにもかも曖昧な人物が立っている。


「あ……あれ? 私のドッペルゲンガーが出てくると思ったんだけど」

「我は汝の影、汝は真なる我。召喚の応え参上した、私はドッペルゲンガー」

「しゃべったぁあああ!」

 

 いや、そりゃ喋るか。喋ってくれないと意思疎通とか難しいもんな。

 ていうか、ポチたちでも喋るんだから、この世界じゃ喋るのがデフォよ。たぶん。

 それにしても、中性的で不思議な響きを持つ声だ。私は好きだな。


「あ、あー思ってたのと少し違うけど、私になれる?」

「もちろんです、マスター。では、私と手を合わせてください」


 そう言って右手を前に突き出すドッペルゲンガー。

 恐る恐る手を合わせると、すぐにドッペルは私の姿になった。


「わ、私だ!」

「マスターの情報を取得いたしました。どのような用事でもこの私めにお任せください」

「ふぅん? 中身は私にならないんだ?」

「記憶情報は取得していますが、人格は私のままです」


 なるほど、それはそれで便利かもしれない。

 なにもかも「私」になってしまったら、いきなり自己のアイデンティティが崩壊しそうだからな。


「あなたって手を合わせれば私以外にもなれたりするの?」

「当然です、マスター」

「じゃあ、次はフィオナになってみて」

「え、えええ、私!?」

「そんな驚くようなことじゃないでしょ。ポチとタマとカイザーにもなってもらおうかしら」


 というわけで、一通り試してみたが、ドッペルは全員に変身できた。

 なるほど、これは味方ならいいが、敵になったら厄介極まるやつだな……。


「それにしても、あなた……いやなんか名前がないと不便だな。名前とかあるの?」

「いえ、私はあちらの世界にある本体から再構築された分体のようなもの。供物の対価として、あなたのしもべとなるべく作り出された存在。名前はありません」

「ん? そうなの?」


 ドッペルゲンガーが本体ならば、前に一度倒した時点でもう出てこないということになる……のか? いや、たくさんこいつらがウジャウジャいる場所(魔界とか?)があって、そこから抽出されたやつが呼び出されるみたいなシステムかと。

 私がそんなようなことを訊ねると、ドッペルゲンガーが詳しく説明してくれた。


「私の本体があった場所の名前は私もわかりません。マスターの記憶から言葉を当てはめるならば、魔界とか地獄とかいうものかもしれません。この魔法陣は、この世界から呼び声を届ける装置ですね。供物を対価に、応えても良いと思った者が、自らの魔力を使って分体を送り『交換』する。いわば、物々交換装置といえば、わかりやすいでしょうか」

「なるほど……。しかし解せんわね。私が置いた供物って、電動工具だけど……」

「ああ! あれば素晴らしいですね! あのような装置は我々がいた世界には存在しませんから、本体は自らの半分もの力を私に分け与えたほどですよ!」

「そんなに」


 こいつらの価値観がわからん。

 まあ、電動工具は人類の叡智の一端ではあるかもしれないが、それにしたってねぇ。こいつらが地球と取引する前で良かったな。


「まあ、とにかく君たちのことはわかった。それじゃ、名前は……私が付ける感じ?」

「そうですね。マスターが付けて下されば」

「ふぅむ。シャドウとか? ドッピーでもいいけど」

「ではドッピーで」


 そっち選ぶんかい! いや、いいんだけどね。別に。可愛いよね、ドッピー。

 

「じゃあ、ドッピーは基本的に私の姿でいるように。はい」


 私が手のひらを前に出すと、それには及ばないと、そのまま私の姿に変化した。


「おおっと、マジで? 一度変化した人間の姿に変わることができるってこと?」

「そうですね。もちろん限度はありますが」

「最強じゃん」


 こいつはなかなかの強キャラですよ。コピーニンジャじゃん。


「さて、私はなにをしますか? マスター」

「そうだね。まずは……肉体労働ができて力が強くて、ついでに戦闘も強くて、でも見た目の圧迫感がない人間タイプの存在を呼び出したいから、紹介して?」

「ふむ……? なるほど、このダンジョンで働かせる人足をご所望なのですね? マスターの記憶から情報を呼び出してますが、主な仕事は、宝箱の設置、設備の取り付け、メンテナンス、探索者の救出など……ですか。それならば適任の者がおりますよ」

「こいつ有能すぎる……」


 フィオナの気持ちがわかっちゃうかも。これなら私すらいなくてもなんとかなるんじゃない?

 横にいるフィオナの横顔もちょっと曇ってるかも。可愛いなこいつ。

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