第26話 私に任せろ!
貴族というと、もっと堂々として自信満々な人を想像していたが、パパさんは身長もフィオナと同じくらいだし、憔悴しているというか、肩を落として自信を欠いた様子。
「マホ。私、お金が必要って言ってあったでしょ? ダンジョンができてからね、うちでお金を出していろいろ揃えたんだ。ダンジョンの前にあった宿屋とか、街道なんかも」
「あ~、あれね」
誰も使ってなさそうだった建物群のことか……。
「そう。ダンジョンに探索者がたくさん来てくれれば、上手く回るはずだったんだ。でも、思ったようにはいかなくて……」
「借金だけ残ったってこと?」
「うん」
「借りてる相手は? 返さないとどうなる感じ?」
「……請求が国に行って、お取り潰しになっちゃうと思う」
「お取り潰しって……貴族じゃなくなっちゃうってこと?」
なんでも大商人に債権を出してお金を借りたらしいんだけど、債権はその該当貴族が支払わなかった時に国王に請求できる仕組みなんだって。
もちろん、国王はそうなったら激怒して当該貴族は領地没収。その領地のあがりで債権を回収するということになるのだそうだ。
だから、そうなる前にどうにかしてでもお金を返さなきゃならない。
「もちろん、そうなっちゃ困るから、なんとしてでもお金は作んなきゃなんだけど、けっこう額が大きくて」
「あと、どれくらいあるの?」
さすがに厳密な金額はフィオナは把握していなかったが、パパさんによるともう領地を切り売りするしかないレベルらしい。
しかも、それでも一時しのぎにしかならない為、最終的にはお取り潰しの未来が待っているとか。
なんか、思ったより深刻そうだ。
「お父様はやさしいから、食料なんかは外に流さないし、税の取り立ても厳しくしないの。でも、このままじゃ、本当にお取り潰しになっちゃうかもしれなくて」
「だから、フィオナは魔石が出た時にあんなにはしゃいでたのね」
「私が悪いのだ……。ダンジョンが領地にできたことに浮かれて、返せるかもわからない額を借りてしまったから……」
まあ、確かにパパさんも迂闊ではあったんだろうけど、今さらそんなこと言っても仕方がない。
「とにかく、私に任せてくれればどうにかしますよ。結局、お金の問題なんですよね?」
「しかし……なにができるんだね。こう言ってはなんだが、あの迷宮はもうすでに見放された迷宮だ。しかも、最下層の宝珠はすでに使われたということなのだろう? そこに、これから人を呼び込むことなど不可能だろう。やはり、あきらめて国に委託してしまったほうが……。委託をすれば、ダンジョン収益で少しずつでも金を返すことぐらいはできるかもしれない」
「ん~。まあ、大丈夫ですよ。大丈夫。多少は時間がかかるかもですが、とりあえずの魔石はあるわけですし、利子分だけでも払っておいて貰えれば。要するに人を呼んでお金が稼げればいいんですよね?」
「ちょ、ちょっとマホ。そんな安請け合いして、迷宮を攻略するのとは違うのよ!? さっきも見たでしょ? もうあのダンジョンには探索者なんてほんのちょっぴりしかいないのよ?」
「わかってるって。どっちかっていうと、迷宮攻略より、迷宮を使って街を繁栄させるほうが楽でしょ」
「なんでマホはそんな自信があるの……?」
だって、ホームセンタ-の無限在庫があるんだもん。
さらに、転送碑でどの階層にでも飛べる上に、アイテム袋もある。
勝ち確だよ、勝ち確。
問題は、怪しくないように事を進めるってとこだけよ。
「楽しくなってきたねぇ、フィオナ! 私にまかせんしゃい!」
「マホって本当に前向きでカッコイイよね。私、見習わなきゃ……」
「ふふ、フィオナとはいっしょに学校行く約束もしてるからねぇ。家の問題なんてチャチャッとクリアしちゃわなきゃね!」
「そっか……学校。約束したもんね。えへへ」
「そういうことよ」
領地を発展させて、ダンジョンにもお客さんを呼び込んで、私とフィオナは学校に行く!
学校がどういうやつかも、どこにあるのかもしれないけど、私もフィオナももう15歳だ、学校に行く年齢としてはそこそこ年齢が行っているかもしれない。
急がなきゃね。
「パパさんもそれでいいですか?」
「ぱ、パパさん……、いや、本当に手伝ってくださるのなら、私は」
「お父様、お願い。マホは私たちが知らないようなことをたくさん知っているし、道具もたくさんあるから、本当になんとかしてくれるんだって思うの。私、マホを信じてるんだ。だから、お父様も、マホのこと信じて欲しいの」
「フィオナがそれほど言うのなら……。うん。お願いできますかな、マホさん」
「まっかせておいて下さい。あ、もちろんいろいろ協力してもらいますよ? 私一人じゃいろいろ限度がありますから」
「もちろんだとも。うちの家の者たちも使ってもらって構わんよ」
普通に考えたら、私みたいな馬の骨に託すなんて選択肢はないはずだが、よほど追い込まれているのだろう。というか、ダメ元かな? いずれにせよ、無い袖は振れないんだろうし。
人を貸してくれるのは助かる。さすがに人手はどれだけあっても足りなくなるはず。
あとは、領主の名前を使ってアレコレすることもあるだろうし、パパさんの許可が下りたのは大きいんだよね。私個人ではただの小娘にすぎないから、上手くいかないこと多くなるだろうし。
その後、フィオナの家族といっしょにご馳走をいただいた。
一枚板の大きなテーブルに並ぶ、豪華な食事。
お皿は木と陶器。磁器はあんまり流通していないのかも。
コップは陶器で、ガラスではない。飲み物はワインを用意してくれたが、前にフィオナが「ワインは高価でお祝いの席ぐらいでしか飲めない」って言ってたっけ。
死んだと思っていた娘が帰ってきたお祝いだな。
お金の問題を聞いた後だから、この食卓が相当に無理して揃えたものだというのがわかってしまい、少し恐縮だ。お酒くらいホームセンターから持って来ておけば良かったな。
それにしても、美味しそうだ。
肉が焼けた香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。
ヨダレが出てくる! お腹が無限に減ってくる!
「……マホ、無理して食べなくてもいいからね? 私も……ちょっと美味しいものを食べ過ぎちゃってたかも」
「いやいやいや、美味しそうじゃん! めちゃくちゃ食べるよ、私は」
「本当? マホの世界の料理とはだいぶ違うと思うけど」
フィオナはホームセンターで保存食やらお菓子やらばっかり食べて、少し勘違いしているようだ。
私たちだって、普段は新鮮なものを好んで食べているっていうの。
というか、あれだけ地下でいっしょに過ごしたんだし、ほとんど味覚が同じだってわかりそうなものだが。
「ほんと、どれも美味しそう! あ、テーブルマナーとかある? 私、そういう教育受けてないから、ヤバい動きしてても許してね?」
「また、そんなこと言って。マホ、私なんかよりずっとマナーにうるさいじゃん」
ダンジョンで食事をする時に、手洗いをキッチリさせたり、いただきますさせたりしてたからかな? 別にあれはマナーってわけでもないんだけど……まあ、いいか。
なんといっても、肉だ。メイドのウラちゃんによると、さっき捌いたばかりの肉だという。
塩とハーブをまぶしてオーブンで焼き上げただけのものだが、ダンジョンでは絶対に食べられないものだ。
新鮮野菜のサラダも嬉しい。オリーブオイルに似た油がかかっていて、さすが貴族の食事というやつだ。
「ん~~~~~! おいひい~~~~~!」
「私もひさしぶりだから……やっぱり美味しい」
ひさしぶりに食べる新鮮な食材。
私もフィオナもかなり感動して、ちょっと泣いた。
ホームセンターでは食事には困らないけど、やっぱり保存食みたいなものが主だったから。
甘い物には困らないんだけどねぇ。
その後、一泊だけさせてもらって、次の日の朝。
私は一度、ダンジョンに戻ることにした。
ポチとタマとカイザーとアロゥの世話があるのだ。というか、勢いで出てきてしまったけど、大丈夫だろうか。心配だ。大丈夫かな?
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