第18話 レベルアップだ!
落ち着いてから、私とフィオナは一度ホームセンターに戻った。
「いやぁ、それにしても上手くいってよかったよ。これで3階層上がったわけだし、そろそろ例の転送碑ってのもあるかもね」
「だといいけど、転送碑って5階層ごとにあることが多いんだよね」
「そうなの? あー、だとしたらあと1階層か2階層で置いてあるんじゃない?」
「かもしれない。それに、次にもうある可能性もあるし。大きいダンジョンだと、3階層ごとに転送碑がある場合もあるんだって」
それって全然あてにならないってことじゃないのか……?
でもまあ、ドラゴン以降はけっこう余裕で階層クリアできている。
なにより魔物が単体というのがいい。ゴーレムの群れとかが出たら即詰みだ。
「ヤモリ部屋に照明付けるのまだ途中だけど、今日はもう休もうか。さすがに疲れたね」
「あれだけ急激に迷宮順化が進めばね。でも、本番は寝て起きてからだよ」
「そんな筋肉痛みたいな……」
フィオナによると、迷宮順化して強くなったのを自覚するのは、一度外に出て寝て起きた時なのだそうだ。寝てる間に魔力的なものが身体に馴染むのかもしれない。
「まあ、とにかく今日はお祝いだよ。おいしいものおなかいっぱい食べて、爆睡しよ」
「やったぁ。私、あれがいいな。おにぎり」
「じゃあ、心を込めて握っちゃうよ」
前に一度だけおにぎりを作ったらフィオナはかなり気に入ったらしかった。
なんといっても、ホームセンターにあるものだけで美味しく作れるからね。米は売るほどあるし、炊飯もできる。海苔もあるし、具も瓶詰めのシャケのほぐし身、佃煮、梅干し、ツナ缶もある。
お米を研いで、炊飯器に入れる。
電気が来ているから、とても楽だ。家と変わらない。
まあ、私は親に何度となくキャンプに連れていかれたから、薪に火を付けて鍋で米を炊くことも可能ですけどね。さすがに、疲れている時にやる気はしないけど。
私はごはんを炊いている間にオカズの用意をすることにした。
おにぎりだけでもまあ問題はないけど、おミソ汁もほしいしね。
お米が炊けたら、ホイホイッとにぎっていく。
迷宮順化したからか、あまり熱さを感じない。腕力が上がった感じはまだほとんどないけど、寝て起きたら、いきなりスーパーマンになってたりするのだろうか?
「フィオナもやってみる?」
「え? いいの?」
「そりゃいいよ。あ、手はキレイに洗ってね?」
小さめのおにぎりを2人で20個も作って、夕飯とした。
時計はあるけど、時間の感覚は全然なくて、本当に今が夜なのかどうかはわからない。関係もない。でも、さすがにそろそろお日様が恋しいというのはある。
これ、ホームセンターに電気が来てなかったら、攻略云々ってより先に、おかしくなってたかも。
照明が生きていてよかったよ、ホント。
「私が作ったの、みんなまん丸になっちゃう。マホ、どうしてこんな上手に三角に作れるの?」
「コツがあるのだよ。手をこうすぼめてホイホイっと形を整えてだね」
「その、ホイホイって部分がわからないんだよぉ」
「ま、食べれば同じだよ。おんなじ」
厳密にはおにぎりにも上手い下手があるけど、私のが特段美味しいなんてことはない。
フィオナが握ったのも美味しいよ。むしろ、自分が握ったやつじゃないほうが美味しいわ。
おなかいっぱい食べて、残ったおにぎりは冷蔵庫に入れた。明日の朝ご飯だ。
食後は、甘い物を食べて、ちゃんと歯を磨いて、お風呂に入って寝た。
◇◆◆◆◇
「おおおおおおお! なんじゃこりゃぁあああああああ!」
「あ、おはようマホ。今日も元気ね」
「なんじゃこりゃあああああああ!」
「これが迷宮順化だよ? 昨日のうちに言ってあったじゃん」
元気がモリモリ沸いてくる。すごい万能感。今の私なら、自動車でも持ち上げられるんじゃないだろうか。
一晩経って、目覚めた私は昨日のパワーアップなど嘘でしかなかったかのように、スーパーマンになっていた。
18リットルのオイル缶が、ヒョイッと持ち上げられてしまうほどだ。
たぶん、フィオナと同じくらいのレベルにまで一気に上がったのではないだろうか。
「ダンジョンから出れたら、寺院でどれくらい順化が進んでいるか見てもらえるよ?」
「マジで? レベル判定ってやつじゃん」
また一つ楽しみが出来てしまったな。
私はパワーアップしたことで、武器の一つも振るえるだろうと、手斧を装備することにした。
ホームセンターで入手できる武器といえば、斧に鎌にバールにチェーンソーである。
包丁で槍を作ってもいいが、攻撃力は低そうだ。
「マホ、強くなって喜んでるとこ悪いけど、私たちくらいの強さじゃ、どのみちこの階層の魔物には通用しないと思うよ……?」
「そ、そんなのわかってるって。気分、気分」
全く抵抗する手段がないよりは、マシというやつだろう。
それが蟷螂の斧だったとしてもね。
◇◆◆◆◇
「さーて、今日も元気に照明を運びましょうか」
「はーい。あの魔物もういないかなあ?」
「いたら経験値にしてやるよォ!」
実際、オオヤモリは倒し方が確立できているので、サービスモンスターだ。
出れば出るだけレベルアップできそう。
そんなことを考えながら階層を上がっていき、ヤモリ階に到着。
そこには驚くべき光景が広がっていた。
「――マジですか」
「なんで? こんなの聞いたことない」
「ボスを倒したからってことかもね」
真っ暗だったヤモリ部屋が明るくなっていた。
地面の裂け目はそのままだが、これなら余程マヌケでない限り落っこちる心配はないだろう。
周囲には光る虫(厳密には虫ではなく精霊の一種らしい)が飛び交っている。
「これなら照明はいらないかぁ。次の階層に行こ」
◇◆◆◆◇
いちおう、裂け目に昨日のとは別のヤモリがいないことを確認してから、扉まで移動した。
階段を上って、次なる階層へ。
「さてさて、次はなにがあるかな。直接的な暴力的魔物がいる感じは勘弁して欲しいね」
「普通の階層だったら、魔物もどんどん湧いて出てくるからね」
「そうなの? めっちゃ怖いじゃん……」
ドラゴンがこの瞬間に復活したりしてたら、一気に詰みだ。
いや、毒草でもヤモリでも詰みは同じだけど。
なんか急に不安になってくるな。大丈夫か?
「あはは。大丈夫よ、マホ。迷宮にいる特別な魔物は二度と復活しないから」
「そうなの?」
「うん。そのかわりすっごく強くて、名前なんか付けられてたりするみたい。私も他のダンジョンで活動してたっていう冒険者から聞いた話だけどね。倒したら、もう出ないんだって」
「へぇ。まあ、考えてみたら何度も何度も出てこられても困るもんな……」
ダンジョンは行って帰ってを繰り返して探索するもののはず。行きに苦労して倒したやつが、ヘトヘトの帰り道で復活してましたじゃ、やりきれない。
ザコモンスターだって、復活して欲しくないくらいなのに。
いや、ザコは復活してくれないと経験値稼ぎができないからダメか。難しいところだな。
そうこうしているうちに扉に到着。
少しだけ開き、中を確認すると、そこは湖だった。
「なんだこりゃ! ダンジョンはビックリステージの宝庫だな」
「ダンジョン内に水場があることはあるけど……これは驚きかも、けっこう綺麗ね」
「これ、水の中になんかデカい魔物が潜んでるパターンでしょ……」
厳密には湖ではないのだが、通路らしき部分以外は全部が水で覆われているのだ。
あの下がどうなっているのか、ライトで照らしたりすればわかるかもだが、あまり近付く気にはならない。絶対なんか出てくるでしょ。私は詳しいんだ。
「どうする……? ボートとかある?」
「あるけど、そんなの即沈没させられるって」
「じゃあどうするの?」
そんなもん決まってるじゃん。
「ドドデン! ダンジョンの水ぜんぶ抜く!」
「え、ええええ……?」
「なんとうまいことに、水を捨てる場所も、下の階層にありましてですね。水ステージなんて付き合ってられるかっての」
でっかい水溜まりって怖いよね。
こういう水がタップリある階層とかには、本能的な恐怖すら感じる。ただでさえ薄暗いのに、水の中に何が潜んでるかわからないわけだし。
幸い、ホームセンターには水中ポンプもホースも売るほどある。
全量抜いて、魚がいたら夕飯のおかずにしてやるぜ。
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