第10話 一発勝負だからね!
その後も、ガソリンスタンドからレギュラーガソリンを失敬しまくり、容器に詰めまくって、ドラゴン部屋へと運び続けた。
ドラゴンが目を覚ましてしまったら計画は破綻するので、どうしても気が急いていたのだが、休憩を挟みつつ2日もかかった。
なんやかんやで、5400リットル分ものガソリンを配置した。
さらに効果があるかわからないが、工事現場用のワイヤーのくずかごの中に鉄球やら巨大なボルト、ナット、釘、斧を入れてみた。クレイモア地雷のように、ドラゴンを貫いてくれる可能性に期待することにする。
「これで終わり?」
「まだ終わりじゃないよ? ここからは服を脱いで全裸で作業します」
「え? あの、なんか変なこと言わなかった? 私の聞き違いかな……」
「ガチだよ。万が一でも、静電気が飛んだら一瞬で『死』だからね」
静電気がこの世界に存在するのも確認済みだ。
なんなら、髪の毛も丸坊主にしたほうがいいくらいだが、まあ、まとめて耐電キャップを被るくらいでいいだろう。
水着があればよかったけど、残念ながらホームセンターには売っていない。
ここからの作業は、私自身の静電気を常に抜きながらやるのは当然として、何もかも触る物は全部気を付ける必要がある。
「まあ、究極、私だけでやってもいいんだけどね。リスク分散の意味でも」
「えっ、そしたら私だけ残されちゃうじゃん! ヤダ!」
「ん~……そうだね。じゃあ、2人でがんばろ!」
とりあえず、まだガソリンを部屋に運び入れたにすぎない。
実作業はこれから。
なんたって目的は気化爆発。
爆発→燃焼のコンボを食らわせる計画なのだ。
ということで、二人で全裸になり、ガソリンをドラゴン部屋に配置したポリプロピレンのコンテナに静かに移していく。
体育館なみに広い空間だから、5メートルおきくらいに大きいコンテナを配置し、そこにガソリンを注いでいくわけだ。この状態ではガソリンはそれほど気化しない……はずだ。多分。
まあ、だからこれは前準備。
ちなみにドラゴンは眠ったままだ。まあまあガソリン臭が漂っているが、直接的な攻撃を食らうまでは目を覚まさない仕様なのかもしれない。
ドラゴン部屋は、ホームセンターがある階層から階段を100メートル近く上がった先にあるのだが、闘技場のような形というか、半地下(というと語弊があるが)になっていて、扉から少し階段を降りる必要がある。
これは、ガス爆発を狙うのに都合が良かった。
ガソリンの比重は空気より重いからだ。
そうでなければ、階段から地下……つまり、ホームセンターがある階層へと気化ガソリンが流れ込んできてしまっていた可能性があった。
「う~ん。あとは…………どうしても電気は使わなきゃだめだろうな」
一発勝負だ。考えられる手段は全部やったほうがいい。
残りの仕込みは3つ。気化、攪拌、着火。
でも、これだけの規模の爆発を起こす以上、下手をしたらホームセンターがある私達の階層まで影響を受けることになる。電源をホームセンターから有線で取るのは危険だ。
「でも、なんとかなっちゃうんだよなぁ。ホームセンターは何でも売っている……」
私はフィオナと2人でリチウムイオン蓄電池を運び入れた。
無限在庫だから、たいして数がないものでも潤沢に使うことができる。
ポータブル電源は、発電機と違い「燃焼」を伴わないから、この場合でも単独使用が可能だ。
燃料式発電機だと、気化ガスを吸い込んだ時点で「ボン!」である。
合計30個の投げ込み式ヒーターを、ガソリンの入ったコンテナにそれぞれ入れて、コンセントを蓄電池に繋ぐ。まだ電源は入れない。
水を例に出すまでもなく、液体は温度が高いほうが揮発しやすい。
扉前の高台に工事用のファンを3台設置し、これもコンセントを繋ぐ。
消費電力が高そうなので、それぞれに蓄電池を用意した。
最後は着火装置。
まあ、着火装置はなくてもガソリンがそのうち引火点を超えて爆発するかもだが、あったほうが良いだろう。
ガスコンロを解体して点火プラグを失敬。
ケーブルでダイヤル式タイマーに繋ぐ。
11時間後に通電するようにセット。
「さて、あとはガソリン撒いて電源入れるだけなんだけど、心の準備はいい?」
「う、うん……。これで、うまくいくの……? なんか、私ぜんぜんわけがわからないんだけど……」
「わかんない。でも、これで死なない生き物だったら、人間が殺すのは無理なんじゃないかな」
あとは神のみぞ知るというやつだ。
私はフィオナを下の階に待避させ、各所に配置した容器に入れたガソリンを横倒しにして、こぼすように撒いた。
コンテナに入れたガソリンがあるわけだし、必要あるかどうかわからない作業だが、念のためだ。
問題はうまく爆発しなかった場合だが、その場合のことは考えたくない。
携行缶何十個分かのガソリンを撒き、すべての電源をON。
ヒーターがガソリンを温め始め、大型ファンが空気と気化ガソリンを攪拌し始める。
着火は11時間後。
私は、扉をキッチリ閉め下の階に戻った。
「ふぅ……。なんとか終わったね。あとは11時間後にどうなるかだよ」
「倒せるかな……。これでダメだったら……もう手がないんでしょ……?」
フィオナの不安そうな顔。
震える指が、腰のポーチに伸びる。
「はいはい、ご禁制は禁止ね。こっちにしときなさい」
ポケットに入れておいたマルボロを渡して言う。
「それに、別にこれがダメでも手はあるから大丈夫よ」
「そうなんだ。すごいな……マホは」
「私が凄いというより、ホームセンターが凄いんだけどね。もっと厳密に言うと、人類が凄いってことになるのかな」
「だとしても……。私、なんにもできてないから」
「ガソリン運ぶの凄かったじゃん。私じゃ、あんな馬力はないから無理」
まあ、なんにせよ、ダメだったらダメでまた考えればいいのだ。
――この攻撃でドラゴンが起きて下の階に突入して来なければだけど。
……ま、それは言わないでおこう。
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