第09話 確実な方法でいこう!

「できた」


 どれぐらい煮詰めればいいかわからないのでテキトーだが、まあ大丈夫だろう。

 鍋一杯のニコチン抽出液の完成である。


「これってどれくらい危ない毒なの?」

「わかんないけど、私やフィオナなら、スプーン一杯飲めば確実に死ぬかな」

「えっ、こわ……」


 前にニュースで見たけど、数滴でも死ぬとかいう話だったような。

 あのドラゴンでも、これを全量飲ませれば死ぬと思う。静脈注射できればもっといいが、パイプを尖らせたもので注射代わりになるだろうか? いや、起きちゃったら元も子もないか。


「さらにドン! 謎の薬品オールスターズです」


 殺鼠剤、殺虫剤、農薬、塩酸、希硫酸、洗剤、漂白剤、電池にじゃがいもの芽。

 あと薬局コーナーの後ろの棚のキツめの薬とか。

 

「こんなに!? 生活物資を売ってる店って話じゃなかった?」

「まあ、いちおうは生活物資ではあるんだよ。ただ、過ぎたるは及ばざるがごとしってこと。たくさんあるから、致死量に届くこともあるでしょ」

「なるほど……?」


 でも、根本的な問題があるんだよなぁ……。


「それで、その毒をどうするの?」

「それなんだよなぁ」


 あのドラゴン、寝てて鼻息は凄いけど、口はちゃんと閉じてるんだよ。

 口がだらしなく開いていれば水風船に入れて投擲とうてきしたりとか、遠隔で鍋を傾ける装置を作って流し込むとか、やれなくもなかったのだが、ちょいと難しそう。

 あとは注射作戦か? 注射針なんか売ってたっけ? 鉄パイプを加工して作る?

 う~ん。


「よし! これはこれとして、もうちょっと他の案考えましょうか!」

「え、えええええ!? 毒は?」

「初手でやるにはハードルが高すぎたわ」


 これだから勢いでアイデアを出すとダメだな。

 なにせ、あれが起きてしまったらノーチャンスなのだ。

 起きる前に倒しきらなければならない。ということは、一撃必殺でなければならないのだ。


「他になんて……なんかあるの……?」

「まあ、あるよ。リスクもあるからどうかなって思ったけど、単純に一番殺傷力あるやつ」

「そんなのあるの? じゃあ、なんで毒なんて……」

「リスクがある方法っていったでしょ」


 だって閉所だし、地下だし。

 威力は最強だけど、やっぱねぇ。

  はねぇ……。


「あっ、あのドラゴンって火噴くやつ? 吐息に火の気が混じるとダメなんだけど」

「わからないけど、大丈夫じゃないかな。ドラゴンのブレスは魔法の一種のはずだし」

「なら、たぶんイケるな……。火属性攻撃無効とかだと厳しいかもだけど」

「火属性……? ってなに?」

「ほら、火は一切効かない魔物とか、水の攻撃は一切効かない魔物とか、そういうの」

「ん~。そういうのは別にないと思うけど」


 属性という概念はない感じなんだろか。

 まあいい。


 じゃあ、早速用意しますか。


 ◇◆◆◆◇


「さて、フィオナに伝えておくけど、これから扱う液体はめちゃくちゃ危ないので、慎重に取り扱うように!」

「はっ、はい!」

「うん。いい返事だね。っていうか、マジでドラゴンも殺せるかもしれない威力を秘めたものだから、本当に注意してね」


 ホームセンターと同じく、併設されたガソリンスタンドにも電気が来ている。

 というか、普通に営業中という風情のままで、事務所にもそのまま入れてしまう。

 機械も電源が入ったままだ。


 問題はこれをどうするかだが、ドラゴン部屋に置いて爆発させる。要するにそれだけの話だ。

 ガソリンそのものをぶっかけてもいい。たしか、気化爆発させるためには大量の酸素が必要と聞いたけど、あの部屋はかなり広かった。巨大なドラゴンと戦闘できるように広く作られているのだろう。

 問題は、爆発の衝撃でダンジョンが崩れたりしたら終わりということだが、どうせアレを倒せなければ上に行けないというのなら同じことだ。

 フィオナが言うには、ダンジョンが崩れたなんて話は聞いたことがないという。というか、そもそもダンジョンは自然発生的に出来る異界であり、地下であり地下ではないのだという。

 ちょっと意味がわからないが、信じるしかない。


 さて、ガソリンを扱うにあたって、一番の問題は火だ。

 爆発の三要素は、可燃性ガス、支燃性ガス、火種だったはずだが、うっかり静電気でも発生した日には用意している最中にお陀仏である。

 一応、微量のガソリンで実験してみたが、問題なく爆発はした。

 つまり、ここにある空気は支燃性ガス……つまり酸素ということだ。私が生きているということは、濃度も21%前後がちゃんとあるということ。

 というか、私が普通に生活できている時点で、この世界は地球とあまり変わらないということになる。重力とかもそうだし、物理法則とかも。


 ガソリンスタンドからガソリンを手に入れる方法については、少し苦労したが、ホームセンターの事務所で契約カードらしきものを発見。それを使って給油することができた。

 多分、配送用トラックの給油用に契約しているのだろう。


 ありったけの容器にガソリンを詰め、ちゃんと蓋をした状態で、音を立てないようにドラゴンの周囲にならべていく。

 ドラゴンはなぜだか起きないので助かる。最初の一撃をもらったら起きるタイプのボスなのかも。


「ふぃ~。疲れるね……。階段の上り下りが地味にキツい……」

「もう疲れたの? 私がやるからいいよ?」

「なんでフィオナはそんなタフなの……」

「こう見えて、それなりに迷宮順化してるからね」

「例の便利なパワーアップ方法ね」


 迷宮で魔物を倒すことで、行き場をなくした魔力を取り込み人間としての強度が上がる。その現象のことを迷宮に順応していく、つまり迷宮順化とか言うらしい。

 なんだか本当にゲームみたいで面白い世界だ。

 私も順化してみたい。

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