第41話 ミシェラの魔法

 城に戻ってから三日、ハウリーの名前で実技の試験でも使った訓練場に集まるように言われた。


 ミシェラは、フィアレーに魔術師のローブを着せられた。

 だぼだぼのワンピースのようなそれは、ミシェラが着ると子供が魔術師に憧れて着たような似合わなさだった。


 それでもフィアレーはにこにこと、送り出してくれた。


「いってらっしゃいませ。ミシェラ様」


 心もとない気持ちで訓練場に向かとその端にある大きな机に、ハウリーをはじめシマラとマウリゼ、更になぜかフィラッセが集まっていた。


 偉い人勢ぞろいだ。ミシェラはハウリーの隣に開いていた席に座らされる。

 なんだかとても落ち着かない。


「今日集まってもらったのは、こちらを見るためだ」


 ハウリーは近くにあった机に、手に持っていた紙を広げた。それは先日ミシェラが書いた答案だった。


 急に自分の答案が広げられて動揺する。

 しかし隠そうにも、皆が見入っていて邪魔をすることができない。


「この最後の回答、ここを皆にも見て欲しい。特にマウリゼ」

「これがなにか……えっ」


 じっと見ていたマウリゼだったが、ハウリーが指差す部分を見て、驚きの声をあげる。


「これは一体……?」

「ミシェラ。これは、どういった回答だ」


 静かに問われ、そんなにも酷かったのかとミシェラは動揺した。思わず言い訳じみた言葉が出てしまう。


「あの、それに関しては習っていないものだったので、知っている知識で書きました。……間違っているかもしれないけれど、何もないよりはずっといいと思って」


 最後の問題に関しては、小屋の本から学んだ知識で書いた。


 ミシェラが知っている魔術は、城で学んだものとはまるで別ものだった。だから、ミシェラは知っている知識を一度手放して新たに学んでいた。


 それでも身体になじんでしまった魔法陣はなかなか抜けることなく、安定しない。ただ、座学に関してはなんとか覚えることができた。


 この最終問題だけは、習っている知識だけでは魔法陣は完成しなかったので、知っている知識で埋めるしかなかった。


「マウリゼ。どう思う」

「これは……。ミシェラが習っている部分では半分もわかりません。考え方を見る為に作った問題です。……全部埋まっていますが、今の常識で言うと、間違いです。ただ、ミシェラの回答が間違いかどうかは正直わかりません。失われた技術が入っていますね。例えばここ」


 マウリゼは答案用紙にある魔法陣の一部分をなぞる。


「通常であれば、ここには氷のシンボルが入るはずです。……でも、失われた技術の研究でよく見かける別のシンボルが入っています。……今現在これが何を示すかわからないのですが」


 魔法陣は、様々な意味の組合せで作成される。その要素の一つがシンボルと呼ばれるものだ。


 魔法陣におけるシンボルは、それ自体で森羅万象や神を示している。魔術や魔術において重要な位置を占め、使用する魔術に合わせてシンボルの種類や配置が変えられる。


「そうだな……。ミシェラ。これは何のシンボルかわかるか?」

「これは、氷の神イヒカのものです。氷の神に祈ることによって、魔術の効果が増えるのでその為に入れています。私の書いた魔法陣では、これがないと氷の柱を立てる前に霧散するはずです」

「神のシンボル……。聞いたことがない。だが、これ自体は既存のシンボルであることは間違いないです。このシンボルは、失われた技術が記録された魔法陣で見たことがあります」

「そうだ。思い付きで入るものじゃない……! これも、これもそうだ……」


 マウリゼとフィラッセが興奮気味に話す。二人は指さしながらどんどん話し込んでいる。

 その二人を横目で見ながら、ハウリーはミシェラに問いかけた。


「この魔術を実際に使うことは出来るか?」

「え? ええ。実際に動かしたことはないですが、この系統の魔法陣の展開自体は試したことがあります。問題なかったと思います」


 魔法陣が安定して展開されれば、通常魔力さえ足りれば発動は問題ない。大きな魔法陣であれば、起動中の魔法陣を安定させるのが難しいけれど。


「じゃあ、この魔術を使ってみてくれるかな。前にも聞いたと思うが通り、ここは安全だから気にせずやってくれ」

「……わかりました」


 皆がなぜ厳しい顔で自分の答案を見ているかわからないミシェラは、首を傾げつつ魔法陣を展開する。

 使い慣れた魔法陣に関しては、当然安定している。神様が魔術を使う力を貸してくれる。


「じゃあ、寒いと思うのでちょっと下がってくださいー」


 大分大きな魔法陣だ。きっと出力も高いだろうと声をかけると、皆ミシェラからかなり後退した。


 そんなにはきっと危なくない。

 コントロールだって悪くないのに。

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