第31話 庭園

 ハウリーがそっと手を引いて連れてきてくれた場所は、花が咲き誇る庭園だった。


 ガゼボに座り、ハウリーが手早く用意してくれたお茶を飲んでいる。

 あっという間の早業に、ミシェラは戸惑ってしまう。


「準備が早すぎじゃないですか……?」

「実は、最初からここに誘おうと思っていたんだ。この時間に食べる甘いものは背徳の味だよな」


 いたずらっぽく笑うハウリーは、ミシェラにクッキーを渡した。


「そうなんですか? クッキーは高いからですか?」

「……確かにミシェラには無縁の話だったな。美味しく食べてくれ」

「はい。甘いものって本当に美味しいですよね!」


 お肉も美味しいが甘いものも美味しい。ミシェラは最近知ったお菓子というものにすっかり夢中だった。


 すっかり無心で食べてしまう。一枚をあっという間に食べ終わる。


「私のも食べるか?」

「えっ。いいんですか? 有難うございます!」


 美味しいものをくれる人はいい人だ。さっきのはバターの香りのものだったが、こちらはナッツが入っているようで、食感が全然違う。


「ミシェラは美味しそうに食べるな。……でもまだ太らないな」

「えっ。家畜を見るような目で私を見るのはやめてください」

「そんな目では見ていない。……でも、すっかり綺麗になったな」


 風で流れる白髪を撫でながら、ハウリーが目を細めた。


「フィアレーが毎日凄く頑張ってくれるんです。凄いですよね。自分の髪の毛じゃないみたい。それに、凄くいいにおいがするんですよ」


 褒められたのが嬉しくて、ミシェラはずいっとハウリーに詰め寄った。


「本当だ」


 ハウリーは近寄ってきたミシェラの髪をひと房取り、顔を寄せにおいをかぐ。

 そのまま肩を抱き寄せられ、ミシェラは分とは違う柑橘系のいい匂いがすることに気が付いた。


 ハウリーの匂いだ、と意識した瞬間慌てて身体をはなした。


「わー! すいません! 急に近寄ったりして。恥ずかしい」

「まったく。他の人にしたら駄目だよ。……こんな風に距離を詰められるんだから」

「誰にもしませんハウリー様にもしませんごめんなさい!」

「私はいつでも歓迎だけれどね」

「ハウリー様は意外と冗談が好きですよね」

「そうだったかな」


 いたずらっぽく笑うハウリーに、ミシェラも笑ってしまう。


「さぁお茶会の続きをしよう。星もゆっくりみなくてはね」

「ここに来るまでに歩きながら見ましたよ?」

「そういうことじゃない」


 ふたりで楽しく過ごしたガゼボは、ミシェラの宝物の時間になった。


 その日も、ミシェラは夜遅くまで勉強に励んだ。

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