今、冒険者の中で話題の『死神』、その正体に迫る!!

咲春藤華

第1話 『死神』



 皆は『死神』と聞いて何を想像するだろうか?


 ボロボロの黒いローブを着ている?

 大きな鎌を持っている?

 動く骸骨?

 足はある?


 誰もが想像する死を告げる恐怖の象徴、それが『死神』である。

 



 我々、冒険者の中でその『死神』の噂が流行りだした。


 それは『冒険者が魔物との戦闘で危険に陥ると颯爽と現れ、魔物を黄泉の国に連れていく』だったり、『盗賊に襲われる辺境の村に一番に駆け付け、ほかの冒険者が来たときには片付いた後だった』だとか。『剣、斧、槍、弓、大鎌、杖、魔術。あらゆる武器、魔術を使う』『ボロボロの黒いローブで顔が骸骨だった』『背は高かったり、低かったり、見た人によって違うらしい』エトセトラエトセトラ


 このように『死神』と呼ばれているには、悪い噂は聞かない。

 凡人に対する『死神』ではなく、人に害する魔物や悪人に対しての『死神』であるらしい。

 見た目は恐ろしいが正義の味方である、というのが、噂の『死神』に出した結論だ。

 


 誰もが想像する恐怖の象徴とは正反対の存在であるらしい『死神』に、我々はそれが本当であるか、調査を進めた。



 まずは、先月10月15日の夜、辺境に位置する〇〇〇村に頭領バルボッサ率いる盗賊団27名が攻めてきた。知らせを受けたCランククラン『黄金獅子の鬣』が10月16日早朝の到着した。村は一見無事で、一行が村に入ると村の中心部の広場に盗賊団と思われる死体の山があったそうだ。村長に一部始終を聞くと、盗賊団が村に攻め入った時点ですでに半数がこと切れていた。村長含め村の人は攻められていたことにも気づいておらず、剣戟がして事態に気づいたという。村の人が警戒しながら音のする方に向かうとおびただしい数の死体とその中心に立つ真っ黒い影が見え、赤く光る鬼火のような眼とそれに照らされる骸骨のような顔をしていたらしい。これが初の『死神』の目撃情報だ。その後、『死神』は闇夜に紛れるように姿を消したという。


 次に、Dランククラン『天駆ける天馬』はBランク級変異種オーガに遭遇。撤退するも追いつかれ、あわやというときに黒い影が現れ、Bランク級の魔物を倒して立ち去ったという。これが二度目の目撃情報だ。


 続いて、三度目の目撃情報は……………



__________________



 11月1日早朝、冒険者組合入口横掲示板


「……」


 ひとりの男。

 早朝の新聞の一部。今、話題の『死神』についての記事を読んでいた。


「……」

(話題になってんなぁ。……そりゃ、あの格好は目立つか)


 早朝の新聞を読むのは男の日課であり、貴重な情報源を得れる大きな機会だ。

 冒険者にとって得れる情報は多いに越したことはない。その情報が正しいかはよく考えなければいけないが。


 どこでどんな魔物が出現したか。危険地帯の情報。討伐の依頼。盗賊団の悪事。護衛の依頼。薬草採取の依頼。冒険者集合の呼びかけ。

その他いろいろ。


 どれも冒険者を続けていくには必要なものだ。


 そのほかにも簡単な依頼や、町の清掃依頼など________


「グリムさーん! おはようごさいまーす!! 今日もお早いですね!!」


「んぁ……あぁ、ユエリィ。おはようさん」


 冒険者組合受付嬢ユエリィ。

 ほかの受付嬢の中ても若く、優しく、美人。冒険者の中でも人気が高く彼女の受付場所はいつも長い列ができているくらいだ。

 仕事もよくできるし、ほんわかしていて可愛い。

 ……ん、んんっ!!(咳払い)


 ここら辺は個人の感想であるため参考にはならないだろう。あまり彼女について考えると妹に怒られてしまう。こわいこわい。


「その新聞は……。ああ! 今朝のですね!! グリムさんも『死神』に興味がお有りなんですね!!」


「あぁ〜……興味はあるな。不思議だろ? 子供を怖がらせるためによく使ったり、恐怖の代名詞の『死神』が人助けをするんだぜ? 見た目は『死神』らしい格好をしてるのに、颯爽と現れる。この言葉の並びがなかなかに面白くてな。」


「そうですね〜。私も子供のころはよく『早く寝ないと骸骨のお化けが連れてっちゃうよ!!』って脅かされましたもんね〜」


「だろ? 俺も経験あるからな」


「グリムさんはどう思いますか?」


「ん?」


「『死神』の正体ですよ!! その新聞では正体まではわからなかったみたいなので、グリムさんは『死神』はどんな方だと思います?」


「んん〜……そうだな。背が高い、背が低い。見る人によって変わる身長。体つきがわかりにくいボロボロのローブ。幻術系の魔道具か? 顔は骸骨。これは仮面かなんかだろな。……個人の推測としてはこれくらいだろうか」


「あぁ〜、魔道具ですか。それは考えていませんでした。幻術なら男性か女性か、かもわからないですね。んん〜、どんな方なのでしょう」


「(意外と女性だったりな……)」


「え? なにか言われました?」


「いや、言ってないよ。……それじゃ、俺はそろそろお暇するぜ。今日も忙しいだろうがユエリィも頑張ってな」


「はい!! 頑張ります! でも、グリムさんは依頼は受けられないんですか?」


「今日もやめとくよ。それに妹が待ってるからな」


「そうですか……わかりました!! お疲れ様です!!」


「おう。ありがとな」


 そう言って冒険者組合を出ていく。

 そこまで良い情報はなかったな。

 少し屋台で何か買ってから戻るか。

 お腹を空かせたうちのお嬢様がお怒りになってしまう。いそげいそげ。




__________________


「おにぃ! 遅い!!」


 ほらね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る