第3話

ネクとベリは、ロッグの指示した場所に向かった。

少し崩れたビルの中、入り口のロビーを抜けた奥、ドアの前で身を潜めるロッグにネクとベリは近づく。

2人は機体を待機状態アイドリングモードに切り替え、出来る限り騒音を抑えた状態にした。

ドア越しにちらりと部屋の中をのぞく。

ロビーよりは広くはないほどの部屋。

他のビルよりも数mほど天井が高い……7m、8mほどだろうか。

瓦礫や壊れた家具が散乱し、そしてその先にはモンスターの姿が見える。


装甲蟻ミュルミドーンだ。数は確認できただけで、3。体長は2m強』


ロッグの言葉にネクは思案する。

『装甲蟻』……廃墟を巡る冒険者はもちろん、そういった場所の知識には疎い一般的な街民にも知られる代表的なモンスターだ。

旧世代に『蟻』と呼ばれていた生き物を遺伝子改良し、作成された生物兵器。

過去の大戦時に放たれ、今も相当数が生き延び、野生化して独自の生態系を作り上げている。

労働階級ワーカー』や『斥候階級スカウト』でも2mを超え、『戦士階級ウォリアー』ともなれば5mを超える体躯を持つ。

強靭な外骨格に、瓦礫すら砕く顎、鋼鉄すら溶かす酸を吐き出すが……脅威なのはその繁殖力と食性。

数が多い上に、金属すら食う悪食の持ち主だ。


冒険者となる際、教習で何度も聞かされるモンスター。

しかしネクにとっては、出会うのも、戦うのも、初めての相手になる。


『斥候階級か。戦士階級は見てねえよな?』

『ない。巣は近くに無いと見ていいだろう』

『無視したいところだが……宝を漁ってる時に襲われても嫌だわな』


ロッグとベリが相談をする。

こういう時、まだ冒険者としては新人のネクは黙って話を聞くしかない。

先輩冒険者の会話を聞いて、その判断力を盗み、養っていくのだ。


『ネク、お前ならどうする』

『……そうですね……』


ロッグはネクに話を向ける。

ただ黙って聞くだけではなく、自分なりの考えを用意するのも新人冒険者としての義務だ。

数秒ほどの間をあけ、ネクは口を開いた。


『僕がショックグレネードを投下して、ロッグさんとベリさんが近接攻撃で1ずつ仕留めます。

 最後の1体は全員で相手をしましょう』

『作戦の根拠は?』

『装甲蟻は大きな音を聞くと反射的に身体を止める……と習ったので、その隙を突きます。

 部屋は大きいですが……遮蔽は少ないので、ロッグさんが確認した数も3で間違いない、と思います』

『銃は使わないのか?』

『装甲蟻の外骨格は硬いので、銃だと致命傷になりにくい……かなりの数の銃弾を撃ち込まないといけないです。

 近接攻撃なら素早く無力化できます』

『……よし、合格だ。教科書には書いてないだろうが、銃弾のコストも考慮に入れれば完璧だ』

『んだな。装甲蟻一匹仕留めるのに、んな金もかけられねえよ』


ロッグとベリの言葉にネクは機体の頭を下げる。

もっとも、この辺りは冒険者として活動を続ければ自然と身についていく思考だ。

ネクを責めるような雰囲気はなかった。


『では、その作戦で行こう。戦闘準備』


その言葉に、ネクは身を引き締めた。

操縦桿を握る手が、自然と震える。

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