砂塵の時代
三二一色
第一章 砂塵の時代
第1話
旧世代と呼ばれている時代。
かつて世界には沢山の人が住んでいて、技術を磨いて病気や災害を克服していた。
摩天楼が至る所に築かれ、空や海にも人の手は及んで、夜でも大地は明るく輝いていた。
間違いなく、人は栄華を極めていた。
そして、大きな戦争が起きて、どれほどの時間が経ったかもわからなくなった今。
世界の殆どは壊れて砂で覆われて、残渣となった場所に人は集まって暮らしていた。
見渡す限りの廃墟。
地面は砂と瓦礫で覆われており、時折吹く風が砂塵を巻き上げている。
乱立しているビルはしかし、その多くが倒壊しており、辛うじて形を保っているものが幾ばくか残る程度。
そのビルの合間を縫って陸橋が架けられているのが見えるが、今は朽ち果てるに任されていた。
ガシャン、ガシャン―――風の音だけが聞こえていた廃墟に、機械が駆動する音が聞こえる。
現れたのは人型のロボットだ。カーキ色で全長3mほどのそれは、手に銃を持ち、背中に剣を背負っていた。
機体の所々は塗装が剥げ、浮いた錆も見えるものの、しかし手にしたサブマシンガンは新品のように輝いている。
頭部に備えられた、防護ガラスに覆われたカメラがキュイ、と音を鳴らし、陸橋を見やる。
『……昔は、この上を電車って言うものが、走っていたんだよなあ』
ロボットから声が漏れる。
随分と若い男性の声だ。少年の域は出ないように思えるだろう。
といってもそれは肉声ではない。特定の周波数で発せられた通信音声だ。
『ネク、観光は後にしろ。冒険者の仕事で来ているんだぞ』
『あっ!……すみません、ロッグさん』
『ま、思わず見とれちまう気持ちは解るけどな……なぁ、ルガ』
『……悪かったな、ベリ。確かに、俺も最初に来たときは見とれたが』
ネク、と呼ばれたロボットの通信に、3人の男の通信が応答する。
軽く通信を交わしながら、ネクは周囲を見渡して、半壊したビルへと向かう。
そこには先ほど通信した3体のロボットの姿があった。
ベリと呼ばれた、赤色に塗装された男の機体が、「よっ」という感じに手を挙げる。
『どうだった、ネク』
『大丈夫です。今のところモンスターとか、ドローンの姿は見えません』
『了解』
ロッグと呼ばれた男がネクに話しかける。
彼の機体は黒く塗られており、使い込まれ合成皮革が巻かれた突撃銃を手にしていた。
背にはネクの剣より1回りほど大きなものを背負っている。
『こっちはダメだな。念入りに漁ったが碌なものが残っていない』
『この廃墟も、もう何度か調査されているだろーし、やっぱ中央にいかねぇとだめじゃね?』
ルガとベリがぼやく。
彼らの機体が背負っていたコンテナは今は地面に置かれ、物資がいくつか入ってはいるが、まだまだ容量には余裕がある。
少なくとも、これだけの量で撤収しては、ロボットのメンテナンス費どころか燃料費だけでも赤字だろうというのはネクも理解できた。
『……そうだな。中央を目指そう。ただし警戒は怠るなよ』
『そうこなくちゃな、せめてコンテナ2つ分は稼がねーと』
ロッグの言葉にベリが頷いた。ルガも異存はないようだ。
『中央ですか……旧世代のオフィス街が広がっているんですっけ?
冒険者ギルドの教習でも、詳細は習っていない場所なので……緊張します』
『やることは変わらない。モンスターやドローンを警戒しつつ、使えるものがないか探すだけだ』
『そうそう。ま、そこまで緊張すんなよ』
『はい!でも、どんな街並みなのか見るのはワクワクします!』
『いや、それは緩みすぎだろ』
ネクの言葉にロッグとベリが答える。
ルガが先導するため前に出る。休止状態から駆動したことで、軋んだエンジン音が周囲に鳴り響く。
4体のロボットはガシャン、ガシャンと音を鳴らし、廃墟の奥を目指し進んでいった。
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