第4話 突発コラボ伝説・後編

 銀髪に赤い瞳の美少女は、私を見るなり目を輝かせた。

 そしてリュックを指差すと、


「リュックをミミックに噛まれてしまって! ここにAフォンが入っていたので、配信も途絶えてしまって力が無くなっているんです! 助けてください!」


「あっはい……ど、ドモッス」


 私はモゴモゴと言葉を返した。


※『あっコミュ障仕草』『察し』『ちゃんと喋れ』『深呼吸しよう』


 いつの間にか31人まで増えていた同接がアドバイスしてくる。

 一発で私をコミュ障と見抜くとは……。

 そう、私は初対面の人間と、何を話していいか全く分からなくなるのだ。

 だって、めちゃくちゃ緊張したら頭真っ白にならない……? 


「ちょ、ちょっと待ってて、ください」


「あっ、はい」


 銀髪の彼女はすぐに察したようだ。

 身近に同じタイプの人がいるのかもしれない。


「リスナーのみなさ~ん。わ、わ、わ、私、何を話したらいいですか」


※『まず助けろ』『ミミックを殴るんだ』『そのゴボウは飾りか』


 そ……そうだった!!

 同接31人にもなった私は、今や力に満ち溢れている。


「今助けますから!」


 私が振り返って宣言すると、銀髪の彼女は嬉しそうにウンウンと頷いた。


※おこのみ『あれ? その娘、げんふぁんのNAA所属のカンナちゃんじゃね?』


 知っているのかリスナーおこのみ!!

 だけど、問いただしている暇なんて無い。

 ミミックはちょっぴりずつ、リュックを吸い込んでいっているからだ。


 私は巨大な宝箱みたいに見えるミミックに近づくと、ゴボウを振り上げた。


「あちょーっ!!」


※『アチョった!』『出た!』『怪鳥音けちょうおんみたいなのは上手いよな』


 叩きつけるゴボウ!

 揺らぐミミック!


 少しだけ、リュックに噛みつく口元が緩んだ。

 私は近くから瓦礫とか、腐った床板をむしって隙間から押し込む。


『うげっ、おげげげげげげげげーっ!!』


 ミミックがびくんびくん動いた。


※『さっすが、されたら嫌なことを熟知してる』『ナイス嫌がらせ』『戦いは頭だよなあ』『腐った床板ぜったい不味いやつ』


 口の隙間からたくさんのゴミを流し込まれたミミックは、ついにギブアップして口を大きく開いた。


「うわーっ! た、助かったー!!」


 銀髪の女の子が飛び出してくる。

 その瞬間、彼女の真横にディスプレイが展開した。


 配信画面だ!


 だーっとチャットが流れている。

 そのどれもが、彼女を案じるものだ。


 すっごい人気者じゃん……。

 も、もしや大物配信者……!?

 NAAのカンナちゃんって言ってたけど。


「リスナー! こ、この人誰?」


※おこのみ『ご存知ないのですか!?』


「知らないよ! あとなんだその口調は!」


※おこのみ『彼女こそ、幻想ファンタジア株式会社が擁する冒険配信者グループ、なうファンタジーに所属するための次世代配信者を育てる学校、ネクスト・アドベンチャラー・アカデミーの第三期生、カンナ・アーデルハイドちゃんですぞ!!』


「めっちゃ語るじゃん。……って、な、な、なんだってー!!」


※『リアクション百点満点じゃん』『おもろ』『才能ある』


 そんな私たちの後ろで、カンナちゃんはグッと親指を立てた。

 彼女の腰に、黒い鞘が出現した。


「ありがとうございます、見知らぬお方。それではリスナーの皆様ーっ! 反撃行きますわよ! 詠唱!! 我が漆黒の同胞はらからよ、黄金の刃にて歯向かう全ての物を討滅ぼさん! よこしまなる力を切っ先に集め、今必殺の──」


『ぐばーっ!!』


 カンナちゃんが延々と何か言っている間に、ゴミを吐ききったミミックが襲いかかった。

 さっきもこんな感じだったからやられたのでは?


※もんじゃ『企業系の冒険配信者は演出も大事だから、よくこういう呪文詠唱で事故るのだ。なお、詠唱しなくても魔法は使えるぞ!』


「んもーっ!」


 私は飛び出していた。

 カンナちゃんを守るように立ち、ゴボウを思いっきりミミックの口の中に突っ込む。

 すると……!


 ゴボウが虹色に輝きだした!

 な、な、なんだこれはーっ!?


 横を見たら、カンナちゃんの配信画面で物凄い速度のチャットが流れているじゃないか。


※『ゴボウを使う配信者だ!』『昨日トレンドになってた!』『本当にいたんだ!』『うおおおおお』『いけ、ゴボウ娘!』『やれーっ!!』


 私を見ている人が、めちゃくちゃに増えたのだ。

 冒険配信者は、同接が多いほど強くなる。

 同接の見た光景が伝説になり、配信者を、武器を伝説の存在に変えるのだ!


「アチョーっ!! ゴ、ゴボウフィニーッヒュ!!」


 加速したゴボウごと、私はミミックの体を貫いた。

 技名はちょっとカンナちゃんを意識した。

 照れた!


『ごばばーっ!?』


 ミミックが叫ぶ。

 その巨体が、ゴボウによって粉砕!

 粉々になりながら、吹き飛んだ。


※『うおおおおおお』『うおおおおおお』『うおおおおおおおおお』おこのみ『ちょっと噛んだ』


 私のチャット欄も大盛りあがりだ。

 もちろん、カンナちゃんのチャット欄も。


「わ、わたくしの配信枠なのにぃ」


 やっと剣を抜きかけていたカンナちゃんが、ダーッと涙を流しながら嘆いたのだった。


 どうやら、さっきのミミックがこのダンジョンのボスだったみたいだ。

 ミミックがいたところに、虹色のかけらが落ちている。


 これはダンジョンコアと言って、このダンジョンを形作る魔力の塊。

 私がこれを拾い上げたら、周囲の光景が変化した。


 広大だった空間が縮まり、あっという間に六畳一間の廃墟になってしまった。


「お見事でしたわね」


 後ろから声がかかった。

 カンナちゃんだ。


 長い銀髪をツーテールにまとめていて、赤い瞳のちょっとツリ目気味な美少女。

 服装こそ、探検用の作業服だけど。


 なうファンタジーの所属冒険配信者は、みんなカッコいい専用の服を着てた気がする。

 あれは正式所属になると得られるのかな?


「あ、は、は、はい」


「緊張しないでいいですわよ。わたくしもまだ見習いの配信者ですもの」


 カンナちゃんは苦笑して、歩み寄ってきた。

 彼女は手袋を外して、手を差し出す。


「わたくしは、カンナ・アーデルハイド。よろしくお願いしますわね。あなたは?」


 カンナちゃんの手を見て、わたわたと慌てる私。


「り、リスナー!」


※『毎度安価を要求するな』『握手しろ』『自己紹介ちゃんとできるかな?』


「こ、こ、子ども扱いするなあ! あ、ど、ども。きら星はづきです。ども、ども」


 私はペコペコしながら、彼女の手を握った。


 そしてふと気づく私。


 ……これってもしかして……コラボってやつ……!? 



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