第3話 突発コラボ伝説・前編
トマトを買って、昨日のダンジョンに潜る。
我が家の門限もあるので、今日のダンジョン配信は一時間位の枠にしておこう……。
不安だったので、トマトの他にゴボウも持ってきた。
「みなさーん、こんにちきら星~! 新人冒険配信者の、きら星はづきですー!!」
登録者数は、もう150人まで増えている。
それに今回は、事前にSNSで配信予告までした!
さっきした。
このダンジョンは新しめで、まだ発生したばかり。
我が家から三軒隣にある空きアパートで、行くのも帰るのも凄く楽。
思い立ったらすぐに探索、配信ができちゃうのだ。
あっ、同接増えていく……!!
※たこやき『きら星~』
「たこやきさんきら星ですー! 切り抜きどうもありがとうございました!」
※もんじゃ『はづきちゃん、冒険配信者とリスナーのそういう絡みはちょっと……。ガチ恋勢とか出てきちゃうよ』
「あっ、そうなんですねー」
※おこのみ『揺れた』
「センシティブな発言やめてください!」
そうこうしている間にも、何人ものリスナーが生配信に参加してきた。
※『こんにちは、初見です』『初見です。芋ジャージピンク髪可愛い』『切り抜きから来ました』『トマトで戦うってマ!?』
す、凄い……!!
なんと今日は、同接9人!!
昨日の三倍だあ。
私は感動してしまった。
※『泣かないで』
これは心の汗だあ。
鼻をちーんとかんだら、『ミュートして』とか『助かる』とかコメントが流れてきた。
うるさいわい!
あ、ティッシュはポケットに入れました。
さて、今日も昨日のダンジョン探索の続き行ってみよう。
このダンジョン、元々はこの廃墟アパートの一室なんだよね。
本来ならここに入ると、不法侵入になるんだけど、冒険配信者用のアドベンチャラーフォン……通称Aフォンを持ってると許可される。
なぜかって言うと、ダンジョンに出現するモンスターや罠って、配信しながらじゃないとクリアできない法則があるのだ。
ダンジョンが世界中に出現した当初、軍隊が突入したんだけど、全ての武器が通じなくて撤退したらしい。
そして後日、お馬鹿なアワチューバーが侵入して生配信した。
割りと人気がある人で、出現したモンスター相手に酒瓶で殴ったら、見事に通用したと。
そこから、ダンジョン相手には、配信しながらじゃないと……みたいなことが判明したわけだ。
具体的には……何か伝説とか、そういうものが必要なんだそうだ。
だから、配信者じゃない人は、たくさんの人が言い伝えを知っている伝説の武器みたいなものを持ち込まないと、まともに探索もできない。
だったら、配信のほうが楽だし、できる人も多いから任せてしまおうってわけだ。
『ゴブゴブ?』
「あ、出た、出ましたよゴブリン!」
※たこやき『昨日のじゃね?』
※もんじゃ『気をつけて! 武器は装備しないと効果が出ないよ!』
「任せて下さい! 今日はご要望にお答えして、これ! トマト!」
※もんじゃ『おバカーっ!!』
「ぼ、暴言やめてください! チャット荒れますからー!」
※おこのみ『死ぬとこです?』
「フラグやめてください!?」
チャット欄と会話していると、どうしても戦闘がおろそかになってしまう。
『ゴブゴブー!!』
ゴブリンが酒瓶を構えて、振り回してくる。
「あ、あひーっ!!」
耐えてくれ、トマト! 同接9人のパワーを見せてくれーっ!
あっ!
グチャッと潰れ……。
「あひー! やっぱトマトじゃだめかあーっ! わ、私の冒険配信者人生、完……!!」
ピコンっと増える同接。
なんと一気に3人も!
潰れかけたトマトは、すんでのところで踏みとどまった。
『ゴブ!?』
「き、きたあー!! 逆転の展開、行くぞーっ!!」
※たこやき『持ってるなー』
潰れかけのトマトで、ゴブリンを叩く。
すると、ゴブリンの額がぱかっと割れた。
『ゴブーッ!!』
「とどめだ! あちょーっ!!」
リュックから抜き打ちに放ったゴボウが、ゴブリンを一撃で粉砕!
『ゴ、ゴブゥ』
粉砕はしてなかった。
殴ったゴブリンが、白目を剥いて転がっただけだ。
「い、一応勝利! これが同接12人の力! つまり……みんなの勝利だよーっ!!」
※『うおおおおおおおお』『うおおおおおおおお』『うおおおおおおおお』
盛り上がってる盛り上がってる!
初めてのモンスター討伐。
私はこれで、冒険配信者として一皮むけたのだ!
※たこやき『これでダンジョンの玄関から先に進めるね』
そうでした!!
私、昨日は玄関でうろうろして帰ったんでした!
廃墟マンションがダンジョン化したこの建物は、小さいダンジョンが八つくっついた形をしている。
ここはその一つ。
ダンジョンになるとグッと空間が広くなるから、多分高校の体育館くらいの広さがあると思う。
「じゃ、じゃあ、移動を開始しようと思いまーす。今日は18時で配信終了なので、そこまでやりますね」
※たこやき『がんばれー』
「がんばります」
トマトはもうダメだ。
半分潰れてしまった。
持ってきたナイフで、ゴブリンに触れたところを削ってから食べた。
※おこのみ『トマトはスタッフが美味しくいただきました』
「勝利の味ってやつだあ」
※『草』『草』『草』『ゴボウも食え』『ナイフ戦闘に使わないの草』
チャットと仲良くやり取りしつつ、私はダンジョンの奥へと進んだ。
フローリングに板っぽい見た目のタイルを貼った床がどこまでも続いている……ように見える。
はるか遠くにボロボロのカーテンがあって、そこから差し込んでくる陽の光が、私のスマホ以外では唯一の光源だ。
どこまでも静かなダンジョンにいると、この世界には私一人しかいないんじゃないかと……。
※『巨乳なんですか?』
「センシティブな発言やめてください!」
台無しだよ!
くっそー、私のリスナー、もしかしてちょっとエッチなおじさんしかいないんじゃないだろうな……?
私がイメージする、キラキラした冒険配信者とは色々食い違ってるぞ!
いや、待つんだきら星はづき。
例えおじさんリスナーばっかりだったとしても、チヤホヤされることに代わりはないのでは……?
つまりおじさんの姫みたいなポジションが……。
おじさんの姫!?
どういう概念だ。
※『静かになっちゃった』『寝てる?』おこのみ『死んだ?』
「死んでない!」
また大きな声が出てしまった。
そうしたら、それに反応するように、向こうからガチャガチャ音がするじゃないか。
なんだなんだ。
「助けてぇ~」
か細い声が聞こえた。
なに!?
なんなの!?
そうやって人を呼び寄せる系の怪異!?
いやいや、
私が躊躇している間に、同接数が増えていく。
ついに……ついに同接が25人になってしまった!
うちのクラスと同じ人数じゃない!
こんな大人数に見られながら、チキることなんか許されない。
冒険配信者はハッタリでやる稼業なのだ!
昨日なったばかりだけど。
「ひいー。何も出てきませんように……」
※『凄いか細い声出してて草』『何も出てこなかったら配信にならないだろ』『無理すんな』『かわいい』
温かい声援を受けながら、私は声がする方にやって来た。
そこには……。
「助けてぇ~」
銀色の髪に、赤い瞳をした綺麗な女の子がいたのだった。
彼女の手には、Aフォン。
同じ冒険配信者……!?
そして、彼女のリュックに、牙が生えた大きな宝箱が噛みついているのだった。
ミ、ミミックだーっ!
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