第16話 怪談:穏便に済ませようとする相合傘

相合傘の割合は、いつも10:0になる。

傘をさしかける僕はいつもずぶぬれで、

彼女はいつも雨には当たらない。

いいんだ。これで。


僕は彼女のことが好きだ。

愛を語るほどではないかもしれない。

彼女のことが好きで、

彼女のためなら、ずぶぬれくらいは平気だ。

彼女は軽い癇癪持ち。

もっと癇癪の質が違えば、

ドSとかいうものになったかもしれないけれど、

彼女は時々自分でも制御できない、

火のような癇癪を起して、

傍から見る僕が思うに、

癇癪で自分を火傷している。

だから、僕は彼女の癇癪を抑えるため、

雨が降ればずぶぬれで、

相合傘は10:0で。

何事も穏便に済ませようとする。


今日も雨。

癇癪を内側にためた彼女は傘の下。

僕は雨を浴びている。

「雨は嫌いだ」

彼女がつぶやく。

「どうして?」

僕は問う。

「火が消えそうだから」

彼女は傘の下、不満げに。

「大丈夫だよ。守ってあげるから」

僕はそう言ったけれど、彼女の癇癪はそれで爆発した。

「なんでそういつもいつも!」

彼女が何か言いかける。

けれど、僕はそれを遮って、

「ハロウィンまで、明かりは僕が守るから」

そして、


「ジャックオランタンが、こんなかわいい女の子だと思わないよね」

と、彼女に笑いかける。


彼女はぽかんとして、

そのあと赤面して、

百面相をくるくる。

ハロウィンの主役がこんなにかわいいことは、

僕だけが知っていればいい。

ジャックオランタン。

かぼちゃの化け物。

僕の知っているジャックオランタンは、

内側に火の明かりを秘めた、

時々その火の癇癪を起こす女の子。

世間と認識が違うけれど、

僕にとってそうなんだから仕方ない。

彼女の明かりが消えないように、

僕は雨の日、傘をさしかける。


今日も穏便に相合傘。

僕が主役になるのは冬。

ジャックフロストは雨の日はいつもずぶぬれだ。

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