第3話恩義と友達の存在

あっ! 炎の柱が立ってる。


 一本二本三本……めっちゃ派手だし。


 あれって絶対にローザの魔法だよな? エルフって凄い魔法使えるって言ってたし。


 ちらっと見えた炎の柱に影が見えた。


「ちょ──────! ギレアスが飛んでる?」


 ローザの魔法に巻き込まれて、何処かに飛んで行ったのは多分ギレアスだろう。


 ま・・・・・・。あいつのことだ。多分問題ない……と思う? うん、頑丈だし。



 ざっと三十個ほどの精霊石を使っての森喰い虫退治はローザの大活躍で恙無く終わったそうだ。


「アレス様! スッキリしました!!!」


 若干、興奮気味のローザ。いやいや、キャラ変わってるから! スッキリってなんだよ? もしかして? 普段そんなにストレス溜まっているの?


 と、そこに村人たちがやってきた。



「アレス様に感謝の礼をしたいと」


 見ればみんな煤だらけで火事に遭ったみたいになっている。


 僕の前に跪いて並ぶ村人たち。なかの一人が両手を差し出した。手のひらに乗せられた精霊石が見える。


 はーっ……、大仕事を終わらせて疲れているんだから、ゆっくり休んでいたら良いのに律儀な人たちだ。


「貴重なものを私どものためにお使いいただきまして申し訳ございません。これは残った物です」


 ひいふうみい……ふーむ。結構余ったな。ざっと半分くらいは残っている。


「構わないよ。て、言うか。返さなくても良いよ」


 だよね、もともと使い古しの魔石だし。原価ゼロで労力と言えば僕の魔力だけだ、うん、エコだよね。欲しければまた作れば問題ないよ。


「残りは村で保管するなり、売るなり好きにして良いよ」


 被害も出たようだし、次があればそこで使っても良い。


 必要ないなら幾らかで売れれば少しは助かるだろし。


 天然物じゃ無いから売れるかは知らないけど、魔石分くらいにはなると思う。


 あれ? 使い古しの魔石って売れたっけ?


 ……。まあ、綺麗な石になったんでその分……売れると良いな。


 なに? 全員目を見開いて驚いている。


 えっ!? 何で! 本当にたいした物じゃ無いって! 廃物利用しただけですから。



 あと幾つか残っていたのをローザに「全部あげるよ」って言ったのに遠慮してもじもじとしている。


 それでも欲しかったのか赤い石一つだけこっそりとポケットに入れていたのを見つけたので、こっそりと様子を伺うと飛び上がらんばかりに喜んでいた。






        ※


 




「凄いなこれは……。ここまで見事だと買い手を捜すのは難しいぞ」


 丹念にルーペで鑑定していたロイヤルドがそう言った。森喰い虫をおびき寄せた精霊石の残りを見せた言葉だ。彼は信用できる商人で、われわれの味方と言っても良い。



 今回の被害は予想以上に大きかった。


 村長として蓄えを残しているが微々たる物で到底まかなえる物では無い。



 正直、アレス様から頂いた精霊石を現金に換えれればと思っていたのだが。



「ふむ、それほどの物なのか?」



 机の上におかれた精霊石を眺めて唸った。


 エルフ領から取れる精霊石は価値が高い。小指の先ほどでも金貨十枚は下らない程だ。しかしアレス様から頂いた精霊石はそれより二周りは大きかった。しかも魔石の様に形が揃っている。



 加工したものなど目にしたのは、長く生きている私ても初めてだった。


「ああ、ここまで透明度の高いものはめったに出ない。私が見た中でも、一番だろう。エルフの秘宝と言っても良いくらいだ。オークションで買えるのは王族か一部の貴族でもかなりの資力が無いと無理だ」



 その評価に身体が震えた。


「くくく……。エルフの秘宝を好きにすれば良いと」


 この精霊石は、ローズウッド家に代々伝わる物なのだろう、アレス様は価値をご存知なのだろうか? ……いや。知らないはずは無い。



 我ら亜人は忌み嫌われている。


 元々人族とは違う種であることから下に見られ、あろうことか奴隷扱いまでされていた。



 魔族の血を引く事から獣人とも分けられ、大陸では長いこと居場所が無かったのだ。



 外見を見れば人族とそう違いは無いのに。



「この地に住まうことを許してくれただけでも格別のご配慮を受けているというのに」


 定住の地を持たない我々は長く苦しんでいた。それを受け入れて頂いただけで無く。


「われわれ如きのために貴重な精霊石を与えて下さるとは……」




 この恩は返さねばなるまい。



 だが一生を尽くして……いや村人すべての命を掛けても返せるだろうか?



「ふふふ、返さねばなるまい」


 決意に思わず声が出た。いや出したと言うべきか。身体から熱いものが迸った。隠居して余生を静かに過ごすだけと思っていたが、どうやら楽しみが出来たようだ。




 唐突に友達が出来ました。


「はぐはぐ……ん、それも欲しい」


 差し入れのおやつを口いっぱいに頬張る。


 猫目でイメージはチンチラ。でも食べ方はどう見てもリスみたいな奴だな。


 オレンジ色の髪の彼女と初めて逢ったのは、石鹸作りに行き詰った僕が散歩にでた時だった。



「こんにちは」


 畑で作業をする村人に、挨拶しながら森に向かった。肩からはお昼に食べるサンドイッチと水筒が入った鞄を下げて。


 整備された小道は森の奥深くまで続いていた。もっとも、最奥の泉までは距離があるので、適当な所で引き返さなければならないだろう。



 危険は無いのかって思うだろうけど、ローズウッドの森は問題ないんだ。


 ローザからも森に入るのは問題ないって聞いてるし。大丈夫なんだろう。


 精霊の加護を受けた森は実に静かだ。魔物はおろか熊や猪さえも近づかないこの場所は、太古から精霊に許可を貰った者しか入れないという。


 森に入って一時間くらい歩いた場所に開けたところがある。伐採した魔木を置いておいたりする場所だ。そこの岩に腰掛けてお弁当を広げていた。



「じー……」


「おお! 僕の好きなベーコンサンドだ」


「じじー……」


「うはっ! 美味しそう! 頂きます」


「ぐぬぬぬぬ! 無視をするなっ!」


 いや、さっきから気が付いていたけどね。


 茂みから飛び出してきたのは十歳くらいの女の子? 後ろからふさふさのしっぽが覗いている。



「だれ?」


 面白そうなのでジト目で声を掛けてみた。


「ふふふっ! 我は「あっ! 美味い!」 ちょっ! 話を聞けっ!!!」


 見た目は完璧ちみっこだな。


 精霊の目で眺めてみるとどうやら人では無さそう。


 それにしても意識はベーコンサンドに釘付けらしい。


 ためしにベーコンサンドを目の前にちらつかせたら。



「おぉおおおおおおおおおお!!! くれるのか!」


 くすっ、反応が凄い。


「うーん・・・・・・どうしようかな?」


 引っ込めてみた。ちょっと意地悪かな?


 うっすらと涙目になっている。


 ベーコンサンドを動かしてみた。


「右・・・・・・上っ」


 おおおおおおおお! 面白い顔と一緒にしっぽまで動くじゃん。



「うっ・・・・・・うぐぐ・・・・・・」


 やっ、やばい。涙が決壊しそうだ。


「あああ、ごめん! ほ、ほら、おいで! あげるから」


 小心者の僕では、これ以上のいたずらは心が痛む。そうそうに降参しよう。



 夢中で貪るなかで聞いて見るとどうやら彼女はこの森に住んでいるらしい。


 えっ? でもこの森って・・・・・・。


「ねえ? 本当にここに住んでるの?」


「はぐっ。ん? 我に聞いておるのか?」


 おー!!! 我って使うの初めて見たよ。



 手についたソースを名残惜しそうに指1本まで丁寧に舐めると、こぼした欠片を払って立ち上がった。


 実に偉そうな態度を見た目十歳の女の子が取るって微笑ましいよね? うん、しっぽまで立ってるし。



「我はこの森の精霊でありゅっ!」



 あっ! 噛んだ!


「しっ! しまった!!!」


「ぷっ・・・・・・あはははははははは」


 本当に可愛い精霊もいたもんだ。



 彼女はこの森で生まれた精霊だと言う。


 名前を聞くと無いと偉そうな態度──これがまた可愛い──で言うので。


「そか・・・・・・名前が無いのは不便だな」


「ぬぬ、名前は必要なのか?」


「うん、名前がないのは変だと思う」


 何時までも「おい」とか「キミ」とかおかしいよね?


「ぬぬぬぬ!」


 ふふ、悩む仕草も癒されるな。


「ううぅ、うぬ──ぅ」


 しまいにはその場でゴロゴロし始める。



「ねえ?」


 キリが無さそうなので声を掛け。


「良かったら僕が付けてあげようか?」


 まあ、愛称とかの感じで呼ぶのなら良いかくらいの感じで聞いてみた。



「おっ! なになに! 名前を付けてくれるのか!」


「お、おう・・・・・・」


 なにこの食いつき。


「良し良し! そうか! 付けてくれるか! おい、我が特別に許す! 我に名前を与えよ!!!」




 この時はこれ(命名)がどんな意味を持つかを知らなかった。



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