第7話 町のギルドへやって来た

「はい、間違いございません。はい……」


 警備隊の宿舎の執務室で隊長のジュドーは夜遅くまで残り、連絡を交わしていた。


 連絡には魔法製の貝殻を使っている。【ユビキタスの貝殻】と言う名前の貝殻で、どれだけ遠くに離れた相手とも、貝殻を持った者同士で連絡が取れる。


「やはり彼女を、まだ愛していらっしゃるのですね」

「そうだ。いいか、絶対に彼女を守り抜いてくれよ」


 ジュドーはその言葉を即肯定した。


「それから……できれば正体を隠し通すように」

「その点はご安心ください。すでに別の偽名を使っていました。あなたが教えたとおりの偽名です」

「……わかった。それなら問題はない、では頼むぞ」


 二人の会話はそこで終わった。ジュドーは貝殻を置き、窓際に立って遠く離れた一軒の宿を見つめる。その宿の最上階に、彼が守るべき女性が眠っている。


「ナタリー・バルハレビア様、噂通りにお美しい。そして、想像以上の強さでいらっしゃる。守られるのは、もしかしたらこっちかもしれんな」





 翌朝、町中に響き渡る鐘の音とともに私は目覚めた。


「あぁ、そうか。もう実家じゃないんだ」


 見慣れない天井だったから、一瞬どこだと思ったけど、ここはペラーザ町の宿だったわね。


 実家のベッドと同じくらいのフカフカ感ね、思わず熟睡しちゃったわ。


「今、何時かしら?」


 時計を見ると、もう朝九時になっていた。朝のルーティーンを済まさなきゃ。


 お化粧はもちろん、髪をとかして、服にも気を付けないと。身だしなみを整えないと、私は女だから。


 いや、でも待てよ。よく考えたら、私は冒険者になるんだ。もう公爵令嬢じゃない。


 それにこの町だと恐らく貴族は少ないはず、あんまり身だしなみに気を付けすぎると、正体がバレかねない。


 ここは最低限にしておきましょう。普通の町民の女性がしているくらいの化粧、そして格好。


「……これで良しと。早いわね」


 部屋の鏡を見て、自分の顔をチェックした。五分くらいで終わったかしら、公爵令嬢の時は化粧だけで二、三十分はかかっていたのに。


 あとは宝石類ね。昨日も商人から指摘されたけど、やっぱり豪華すぎたわね。


 でも特殊な魔法効果があるから、簡単には外せないわ。どうにか誤魔化せないかしら。


「指輪とイヤリングだけでいいか。ペンダントとブレスレットは、これ着て隠しましょう」


 カバンから長袖を取り出した。半袖で露わになっていたペンダントとブレスレットを長袖で隠す。


「あとは……あ、アンクレットも!」


 思えばずっと裸足だったわ。そしてアンクレットもつけたまんま。ここは靴下を履けば問題なしね。


 だけど、ここで問題が発生。なんとカバンの中に靴下がない。あるのはストッキングだけ。


 まぁ、何も履かないよりましか。ストッキングでサンダルというのは、おかしい気もするけど。


「よし、これで文句なしだわ。ギルドへ……いや、その前に!」


 空腹感が襲ってきた。まだ朝食を食べてなかったから、さすがに今のままじゃ駄目ね。一階に食堂があったから、そこでまず腹ごしらえよ。



 朝食を済まして、時刻は朝の十時。私は町の中心部にあるギルドへやってきた。


 ここで、まずは冒険者としての登録を済ませることが必要となるのね。意を決して、ギルドの入口のドアを開けた。


 中にはすでに多くの冒険者達がいた。みんな揃いも揃って武装している。凄い光景ね。


 冒険者の一人が私を見た。するとほかの冒険者達も見始める。やっぱり背が高いから、ここでも目立つ。


 女性の冒険者も何人もいるけど、さすがに私ほどじゃないみたい。高い女性でも170くらいだ。


「よぉ、見慣れい顔だな。お嬢さん」


 早速男の冒険者が私に声を掛けてきた。私より背が低い、剣を腰に携えていて鎧を来ている。剣士かしら。


「こんにちは、あの……私、冒険者になりにきたの」

「へぇ、冒険者にねぇ!」


 男はまじまじと私を見回した。


「じろじろ見ないでくれる?」

「あぁ、失敬! いや、俺は鑑定スキル持ちでね。お嬢さんが冒険者にふさわしいか、鑑定しているのさ」

「鑑定スキル!?」


 簡単に相手の強さや能力がわかる便利なスキルだと聞いたことがある。


 でもちょっと待って。それだと私の正体もバレてしまうんじゃ。


「あれ……これは?」

「どうしたの?」


 鑑定が終わったみたいだけど、男の様子がおかしい。


「こんなことは、初めてだぜ……」

「それで、私の鑑定結果は?」


 私が聞いても男は無言だった。変な顔で私を見始めた。


「……俺にも鑑定できないとはね、まいったよ」


 そういえば思い出した。私が今つけている指輪、確か『スキル封じ』の効果があったんだわ。


 この指輪をつけていれば、相手のスキルを封じれる。鑑定スキルだって例外じゃない。


 つけていてよかったわ。でも目の前の男は、指輪のことには気づいてなさそう。


「それは残念だわ。私、冒険者にふさわしいかまだわからないの。なんでも適性検査ってあるんでしょ?」

「そうだけど……お前さん見たところ、冒険者を目指すっていう格好じゃないな。鎧もつけてねぇし、何より普段着のままじゃねぇのか?」

「まぁ、そうね。鎧とか盾とかはないわ、強いて言うならこの剣だけね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る